25 / 66
第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑧
しおりを挟む
坂瀬川駅前のショッピングセンター・アペアの1階にある喫茶店・珈琲専科ロアロアに入店し、案内された席について注文を行うと、真中仁美は、真っ先に口を開いた。
「針本くん! あなたは、いま自分の身が危険にさらされている、っていう自覚はあるの?」
喫茶店のテーブルをはさみ、前のめりになりながら問うてくる彼女の迫力に押されながら、針太朗は、
「う、うん……」
と、うなずく。
彼の曖昧な返答に対して、仁美は訝しげな視線を向けたあと、
「じゃあ、さっきの観光客っぽい外国人のお姉さんに向けていた視線は、なんなのかな?」
今度は、ニコリと作り笑いでたずねる。
もちろん、笑顔に見えるのは表情のみで、その瞳は、笑っていない。
そんな、同学年の女子の様子から、言い知れない感情を読み取った針太朗は、
「ごめんなさい……せっかく、真中さんが協力してくれているのに……」
と、うなだれながら、謝罪する。
それでも、彼女の真剣な眼差しを見据えたあと、縮こまるようにうつむくその姿に、なにか感じるところがあったのか、
「ま、まぁ、ちゃんとわかってるなら、良いけど……」
と、仁美は、とりあえず、怒りのホコを収めたようだ。
「うん……今後は、気をつけるようにするよ……」
いったい、ナニに気をつければよいのか――――――?
リリムをはじめとした魔族に関する知識を持ち合わせていない彼に意識して取れる策など、ほとんどないのだが、彼女を失望させたくない一心で、針太朗は、そう応える。
ただ、具体性をともなわない返答であったとしても、彼の殊勝な態度から、自身の教育的指導に一定の効果があったと認識したのだろう、真中仁美は、フゥ~と、息を吐いたあと、男子生徒への追及を脇において、気になることを語った。
「こんなことを言うと、鬱陶しい女子だと思われるかも知れないけど……でも、なんだか、あの女の人からは、イヤな雰囲気がしたんだよね……上手く言葉にできないんだけど……」
「えっ……イヤな雰囲気って言うと……?」
意味深長な彼女の言葉に、針太朗も思わず聞き返す。
すると、仁美は、少し困ったような表情で、
「う~ん……うまく言えないんだけど……」
と、前置きしたあと、
「なんだか、私や東山会長を値踏みする目付きだったというか、あのヒトに品定めされている感じがしたんだよね……」
ポツリと、そんなことを言う。
「そう……なんだ……でも、さっきのヒトって、サングラスをかけてなかった? 真中さん、良くあのヒトが、どんな目線を送っているか、わかったね?」
針太朗としては、しごく当然に感じる疑問を口にしただけなのだが……。
「そ、それは……雰囲気というか、そういうオーラ? みたいなモノを感じただけだから!」
なぜか、仁美は、やや焦ったような口調で返答する。
それでも、針太朗は、彼女の少し慌てた様子を気にするでもなく、
(女性同士には、なにか感じるモノがあるのかもな……)
と、受け流して、「そっか……」と、短く応えるのみだった。
そして、彼が、自身の動揺について言及しなかったことに安心したのか、仁美は、続けて感想をつぶやいた。
「最初は、ウチの学院の女子みたいに、シンちゃ……ううん、針本くんのことが気になって、私や東山会長に敵意を向けてるのかな、とも思ったんだけど……どうも、そうじゃなくて、針本くんのことは関係なしに、私たちを直接、意識してるような感じだったんだよね?」
彼女の言葉を受けて、さすがに、針太朗も不思議に感じる。
(ボクとは関係ナシに、真中さんや生徒会長に敵意を向ける? いったい、どうして……)
養護教諭の安心院幽子によれば、リリムたちの誘惑を退けるには、特定の交際相手を見つけるか、彼女たちを自分に惚れさせることの他に、妖魔を狩る者に討伐を依頼する方法があるらしい。
ただ、そんなハンターが身近に居るとしても、リリムであることがほぼ確定している生徒会長の東山奈緒をターゲットにするならともかく、一般人の真中仁美を意識する理由がわからない。
「やっぱり、ボクたちで考えてわからないことは、安心院先生に聞いてみるしかないかなぁ……」
自分でも頼りないことではあると実感するが、現状で自分たちの手に負えないことは、この方面の知識が豊富な者を頼るしかない。
なかば、ため息をつくように返答する針太朗に対して、仁美も、嘆息をもらすような口調で、ボソリとつぶやく。
「そうだねぇ……針本くんのことを気に入る女性が、そうポンポンとあらわれる訳もないし……」
「うんうん……ボクが、そんなに女性にモテるわけないもんね……」
真理を突いた仁美の言葉に、思わず同意してうなずく針太朗だったが……。
「――――――って! ちょっと、待って! いまのは、さすがに言い過ぎじゃない!?」
バラエティ番組のひな壇芸人ばりに、喫茶店の座席を立ちあがりながら反論すると、目の前の同学年の女子は、
「おぉ~! ノリツッコミが上手いですな~。針本くんって、面白い人だね」
と、おどけた口調で返答する。その笑顔に、針太朗の気持ちは、一瞬で落ち着きを取り戻した。
「いや、正直なところ、ボクは、女子と話すのは苦手な方なんだけど……なぜか、真中さんとは話しやすい感じがするんだ……ちょっと、恥ずかしけど、こんなに話しやすい女子は、幼稚園のときに同じクラスだったアイちゃん以来だ……」
普通に考えれば、相手にドン引きされるような彼のそんな発言であったが――――――。
喫茶店のテーブルを挟んだ針太朗と同じ学年の女子生徒は、彼の一言に目を見開いた。
「針本くん! あなたは、いま自分の身が危険にさらされている、っていう自覚はあるの?」
喫茶店のテーブルをはさみ、前のめりになりながら問うてくる彼女の迫力に押されながら、針太朗は、
「う、うん……」
と、うなずく。
彼の曖昧な返答に対して、仁美は訝しげな視線を向けたあと、
「じゃあ、さっきの観光客っぽい外国人のお姉さんに向けていた視線は、なんなのかな?」
今度は、ニコリと作り笑いでたずねる。
もちろん、笑顔に見えるのは表情のみで、その瞳は、笑っていない。
そんな、同学年の女子の様子から、言い知れない感情を読み取った針太朗は、
「ごめんなさい……せっかく、真中さんが協力してくれているのに……」
と、うなだれながら、謝罪する。
それでも、彼女の真剣な眼差しを見据えたあと、縮こまるようにうつむくその姿に、なにか感じるところがあったのか、
「ま、まぁ、ちゃんとわかってるなら、良いけど……」
と、仁美は、とりあえず、怒りのホコを収めたようだ。
「うん……今後は、気をつけるようにするよ……」
いったい、ナニに気をつければよいのか――――――?
リリムをはじめとした魔族に関する知識を持ち合わせていない彼に意識して取れる策など、ほとんどないのだが、彼女を失望させたくない一心で、針太朗は、そう応える。
ただ、具体性をともなわない返答であったとしても、彼の殊勝な態度から、自身の教育的指導に一定の効果があったと認識したのだろう、真中仁美は、フゥ~と、息を吐いたあと、男子生徒への追及を脇において、気になることを語った。
「こんなことを言うと、鬱陶しい女子だと思われるかも知れないけど……でも、なんだか、あの女の人からは、イヤな雰囲気がしたんだよね……上手く言葉にできないんだけど……」
「えっ……イヤな雰囲気って言うと……?」
意味深長な彼女の言葉に、針太朗も思わず聞き返す。
すると、仁美は、少し困ったような表情で、
「う~ん……うまく言えないんだけど……」
と、前置きしたあと、
「なんだか、私や東山会長を値踏みする目付きだったというか、あのヒトに品定めされている感じがしたんだよね……」
ポツリと、そんなことを言う。
「そう……なんだ……でも、さっきのヒトって、サングラスをかけてなかった? 真中さん、良くあのヒトが、どんな目線を送っているか、わかったね?」
針太朗としては、しごく当然に感じる疑問を口にしただけなのだが……。
「そ、それは……雰囲気というか、そういうオーラ? みたいなモノを感じただけだから!」
なぜか、仁美は、やや焦ったような口調で返答する。
それでも、針太朗は、彼女の少し慌てた様子を気にするでもなく、
(女性同士には、なにか感じるモノがあるのかもな……)
と、受け流して、「そっか……」と、短く応えるのみだった。
そして、彼が、自身の動揺について言及しなかったことに安心したのか、仁美は、続けて感想をつぶやいた。
「最初は、ウチの学院の女子みたいに、シンちゃ……ううん、針本くんのことが気になって、私や東山会長に敵意を向けてるのかな、とも思ったんだけど……どうも、そうじゃなくて、針本くんのことは関係なしに、私たちを直接、意識してるような感じだったんだよね?」
彼女の言葉を受けて、さすがに、針太朗も不思議に感じる。
(ボクとは関係ナシに、真中さんや生徒会長に敵意を向ける? いったい、どうして……)
養護教諭の安心院幽子によれば、リリムたちの誘惑を退けるには、特定の交際相手を見つけるか、彼女たちを自分に惚れさせることの他に、妖魔を狩る者に討伐を依頼する方法があるらしい。
ただ、そんなハンターが身近に居るとしても、リリムであることがほぼ確定している生徒会長の東山奈緒をターゲットにするならともかく、一般人の真中仁美を意識する理由がわからない。
「やっぱり、ボクたちで考えてわからないことは、安心院先生に聞いてみるしかないかなぁ……」
自分でも頼りないことではあると実感するが、現状で自分たちの手に負えないことは、この方面の知識が豊富な者を頼るしかない。
なかば、ため息をつくように返答する針太朗に対して、仁美も、嘆息をもらすような口調で、ボソリとつぶやく。
「そうだねぇ……針本くんのことを気に入る女性が、そうポンポンとあらわれる訳もないし……」
「うんうん……ボクが、そんなに女性にモテるわけないもんね……」
真理を突いた仁美の言葉に、思わず同意してうなずく針太朗だったが……。
「――――――って! ちょっと、待って! いまのは、さすがに言い過ぎじゃない!?」
バラエティ番組のひな壇芸人ばりに、喫茶店の座席を立ちあがりながら反論すると、目の前の同学年の女子は、
「おぉ~! ノリツッコミが上手いですな~。針本くんって、面白い人だね」
と、おどけた口調で返答する。その笑顔に、針太朗の気持ちは、一瞬で落ち着きを取り戻した。
「いや、正直なところ、ボクは、女子と話すのは苦手な方なんだけど……なぜか、真中さんとは話しやすい感じがするんだ……ちょっと、恥ずかしけど、こんなに話しやすい女子は、幼稚園のときに同じクラスだったアイちゃん以来だ……」
普通に考えれば、相手にドン引きされるような彼のそんな発言であったが――――――。
喫茶店のテーブルを挟んだ針太朗と同じ学年の女子生徒は、彼の一言に目を見開いた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
両隣から喘ぎ声が聞こえてくるので僕らもヤろうということになった
ヘロディア
恋愛
妻と一緒に寝る主人公だったが、変な声を耳にして、目が覚めてしまう。
その声は、隣の家から薄い壁を伝って聞こえてくる喘ぎ声だった。
欲情が刺激された主人公は…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる