13 / 66
第1章〜初恋の味は少し苦くて、とびきり甘い〜⑫
しおりを挟む
針太朗は、続けて次の封筒を手に取る。
パステルピンクのその封筒からは、かすかに桃の香りと思われるフレグランスが漂う。
生徒会室から図書館に向かう途中、(少なくとも針太朗の認識では)急に身体をぶつけてきた中等部の女子生徒の名前は、西田ひかりと言っただろうか?
封筒を手渡される前に、一応の面識があったクラスメートや生徒会長とは違い、彼女との出会い方と、この封筒を渡されたシチュエーションについては、警戒心が薄いタイプである針太朗ですら疑問に感じる程だったし、保健室で養護教諭の幽子から、リリムに関する話しを聞かされたあとは、その疑念がより深くなってはいたが……。
(北川さん達の手紙は読んだんだし、あのコが渡してくれたのも読んでおかないとな……)
律儀な性格の彼は、怪しさを感じながらも、年下の女子生徒が手渡してきた封筒を慎重に開封する。
中には、北川希衣子のモノよりも、さらに丸みを帯びた可愛らしい文字が綴られていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
お兄ちゃん へ
ひかりが渡したこのお手紙を読んでくれたということは
アナタは、ひかりの運命のお兄ちゃんです
ひかりは、いつか、運命を感じるヒトと出会ったときの
ために、世界一かわいなるための努力をしています
世界一のカワイイをめざして、ひかりは動画の配信も
しているので、チャンネル登録よろしくね。
そして・・・
もし、お兄ちゃんがまだ運命のヒトと出会ってないなら
ひかりに、お兄ちゃんのはじめてをください
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(こ、これは、なんというか……)
年下の中学生ということを差し引いても、クラスメートや年上の生徒会長に比べて、自己主張というか、圧の強さを感じさせる内容である。
最近では珍しいことではないと言っても、動画配信を行うほど、自己PRにチカラを入れているだけのことはある。
さらに――――――。
何度も繰り返される『運命』という言葉からも、思い込みの強そうな性格が感じられる。
(女の子らしいというか、確かに可愛らしい文面だけど……)
下手に断りを入れたら、恨まれたりはしないだろうか――――――?
針太朗に、そう感じさせるほど、西田ひかりが書いた手紙からは、彼女の個性の強さがあらわれていた。
そんな下級生のことを考えて、彼は、小さくため息をついたあと、最後に受け取った封筒を手にして、ジッと見つめる。
淡い緑色の封筒からは、ほんのわずかにライムのような柑橘類の香りが感じられる。
裏側のシールを慎重に剥ぎ取って中を確認すると、便箋には、生徒会長の奈緒に負けないくらい、美麗な文字で文章が綴られていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
針本 さん
突然、手紙を差し上げてしまい、驚かれたことでしょう
まず、この文面に目を通して下さったことに感謝します
図書館では、偶然を装って出会ったふりをしましたが…
私は、昨日の入学式で一目見たときからあなたのことが
頭から離れなくなってしまいました。
あなたと大好きな本のことを話せたことは、私にとって
夢のような時間でした。
また、今日の様にあなたと語り合うことができたら…
明日も、図書館で、あなたの来訪を待っています。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
文章に目を通し、全文を確認したところで、針太朗の背中には、ふたたび、冷たい汗がしたたり落ちる。
(初対面なのに……彼女は、どうしてボクが読書好きだと知ってたんだ?)
南野楊子が手紙に書いた内容によれば、針太朗との出会いは、偶然を装って、図書館で待ち伏せをしていたということだが……。
それも、彼の趣味が読書であること、図書館の蔵書を細かく確認するほど、世に出回ることの少ない稀少本に興味を持っていることなどを知っていなければ、行動に移すことなど不可能なハズだ。
彼女は、いったい、どうやってボクの趣味を知ったんだ……?
保健室で、安心院幽子に、リリムの生態について聞かされたことで、その疑問に対する恐怖心は、より大きなモノになる。
だが――――――。
それ以上に恐ろしいのは、リリムが、人間の魂を喰らう瞬間の映像を目にした現在ですら、南野楊子の書いた文面に心惹かれてしまっている自分の感情だ。
「あなたと大好きな本のことを話せたことは、私にとって夢のような時間でした。』
と、彼女は文章にしたためている。
この一文からも、楊子が、針太朗の趣味を事前に察知して、放課後の図書館での出会いを演出したことが想像されるが、その認識をもってしても、彼女が記した一言には、否応なく心を動かされてしまう。
何より、大好きな本のことを話すことができて、夢のような時間を過ごせたのは、針太朗自身の方だったからだ。
彼には、異性はもちろんのこと、同性にすら、古い純文学やSF小説のことを語り合える友人はいなかった。
その貴重な相手が、まさか、人間の恋心を主食にする魔族だとは……。
(だけど…………)
彼女と、もっと、本について語り合いたい――――――!
そんな抗いがたい欲求と戦いながら、針太朗は、翌日、四人の女子生徒に対して、手紙を書いてくれたお礼と、どのように彼女たちの申し出を受けいれることができないという旨の返答を伝えようかと、頭をひねる。
彼は、しばらく、考えたあと、ありがたいことに、リリム対策に関する協力を申し出て、メッセージアプリのアカウントを交換していた女子生徒と連絡を取ることにした。
パステルピンクのその封筒からは、かすかに桃の香りと思われるフレグランスが漂う。
生徒会室から図書館に向かう途中、(少なくとも針太朗の認識では)急に身体をぶつけてきた中等部の女子生徒の名前は、西田ひかりと言っただろうか?
封筒を手渡される前に、一応の面識があったクラスメートや生徒会長とは違い、彼女との出会い方と、この封筒を渡されたシチュエーションについては、警戒心が薄いタイプである針太朗ですら疑問に感じる程だったし、保健室で養護教諭の幽子から、リリムに関する話しを聞かされたあとは、その疑念がより深くなってはいたが……。
(北川さん達の手紙は読んだんだし、あのコが渡してくれたのも読んでおかないとな……)
律儀な性格の彼は、怪しさを感じながらも、年下の女子生徒が手渡してきた封筒を慎重に開封する。
中には、北川希衣子のモノよりも、さらに丸みを帯びた可愛らしい文字が綴られていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
お兄ちゃん へ
ひかりが渡したこのお手紙を読んでくれたということは
アナタは、ひかりの運命のお兄ちゃんです
ひかりは、いつか、運命を感じるヒトと出会ったときの
ために、世界一かわいなるための努力をしています
世界一のカワイイをめざして、ひかりは動画の配信も
しているので、チャンネル登録よろしくね。
そして・・・
もし、お兄ちゃんがまだ運命のヒトと出会ってないなら
ひかりに、お兄ちゃんのはじめてをください
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(こ、これは、なんというか……)
年下の中学生ということを差し引いても、クラスメートや年上の生徒会長に比べて、自己主張というか、圧の強さを感じさせる内容である。
最近では珍しいことではないと言っても、動画配信を行うほど、自己PRにチカラを入れているだけのことはある。
さらに――――――。
何度も繰り返される『運命』という言葉からも、思い込みの強そうな性格が感じられる。
(女の子らしいというか、確かに可愛らしい文面だけど……)
下手に断りを入れたら、恨まれたりはしないだろうか――――――?
針太朗に、そう感じさせるほど、西田ひかりが書いた手紙からは、彼女の個性の強さがあらわれていた。
そんな下級生のことを考えて、彼は、小さくため息をついたあと、最後に受け取った封筒を手にして、ジッと見つめる。
淡い緑色の封筒からは、ほんのわずかにライムのような柑橘類の香りが感じられる。
裏側のシールを慎重に剥ぎ取って中を確認すると、便箋には、生徒会長の奈緒に負けないくらい、美麗な文字で文章が綴られていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
針本 さん
突然、手紙を差し上げてしまい、驚かれたことでしょう
まず、この文面に目を通して下さったことに感謝します
図書館では、偶然を装って出会ったふりをしましたが…
私は、昨日の入学式で一目見たときからあなたのことが
頭から離れなくなってしまいました。
あなたと大好きな本のことを話せたことは、私にとって
夢のような時間でした。
また、今日の様にあなたと語り合うことができたら…
明日も、図書館で、あなたの来訪を待っています。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
文章に目を通し、全文を確認したところで、針太朗の背中には、ふたたび、冷たい汗がしたたり落ちる。
(初対面なのに……彼女は、どうしてボクが読書好きだと知ってたんだ?)
南野楊子が手紙に書いた内容によれば、針太朗との出会いは、偶然を装って、図書館で待ち伏せをしていたということだが……。
それも、彼の趣味が読書であること、図書館の蔵書を細かく確認するほど、世に出回ることの少ない稀少本に興味を持っていることなどを知っていなければ、行動に移すことなど不可能なハズだ。
彼女は、いったい、どうやってボクの趣味を知ったんだ……?
保健室で、安心院幽子に、リリムの生態について聞かされたことで、その疑問に対する恐怖心は、より大きなモノになる。
だが――――――。
それ以上に恐ろしいのは、リリムが、人間の魂を喰らう瞬間の映像を目にした現在ですら、南野楊子の書いた文面に心惹かれてしまっている自分の感情だ。
「あなたと大好きな本のことを話せたことは、私にとって夢のような時間でした。』
と、彼女は文章にしたためている。
この一文からも、楊子が、針太朗の趣味を事前に察知して、放課後の図書館での出会いを演出したことが想像されるが、その認識をもってしても、彼女が記した一言には、否応なく心を動かされてしまう。
何より、大好きな本のことを話すことができて、夢のような時間を過ごせたのは、針太朗自身の方だったからだ。
彼には、異性はもちろんのこと、同性にすら、古い純文学やSF小説のことを語り合える友人はいなかった。
その貴重な相手が、まさか、人間の恋心を主食にする魔族だとは……。
(だけど…………)
彼女と、もっと、本について語り合いたい――――――!
そんな抗いがたい欲求と戦いながら、針太朗は、翌日、四人の女子生徒に対して、手紙を書いてくれたお礼と、どのように彼女たちの申し出を受けいれることができないという旨の返答を伝えようかと、頭をひねる。
彼は、しばらく、考えたあと、ありがたいことに、リリム対策に関する協力を申し出て、メッセージアプリのアカウントを交換していた女子生徒と連絡を取ることにした。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
はじまりはいつもラブオール
フジノシキ
キャラ文芸
ごく平凡な卓球少女だった鈴原柚乃は、ある日カットマンという珍しい守備的な戦術の美しさに魅せられる。
高校で運命的な再会を果たした柚乃は、仲間と共に休部状態だった卓球部を復活させる。
ライバルとの出会いや高校での試合を通じ、柚乃はあの日魅せられた卓球を目指していく。
主人公たちの高校部活動青春ものです。
日常パートは人物たちの掛け合いを中心に、
卓球パートは卓球初心者の方にわかりやすく、経験者の方には戦術などを楽しんでいただけるようにしています。
pixivにも投稿しています。
如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる