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遊馬友仁

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第11章~いつかのメリークリスマス~②

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時刻は、午後四時になろうとしている。
日の入りの早い季節らしく、西日は、すでに山の端に近づこうとしている。
全速力で自転車をこぎながら、頭もフル回転させて秀明は考える───。
よもや、今日に至るまで、亜莉寿が両親に進路のことを話していないとは思ってもみなかったが……。

十月のあの夜、

「もし、良かったら、両親に進路のことを話す時に協力してもらえないかな?」

と頼んできた亜莉寿の気持ちを、もう少し真剣に汲んでおくべきだったと感じる。
あの時、

「ご両親には、亜莉寿自身がきっちりと向きあって話した方が良いんじゃないか?」

と伝えた一言が間違っていたとは思えないが、あくまでも、それは一般論としての範疇のことである。
自分が容易にこなせることを、「吉野亜莉寿に出来ないハズがない」と思い込んでいたが、自分自身の将来の夢や進路について、誰もが簡単に相談できる訳ではない。
また、この問題には、親子関係など複雑な事情もからむため、他人から見ると容易なことでも、当人にとっては、大きな心理的負担になることもあり得る。
こんなにも長く引きずる問題になるとは予想できなかったが、

(あの時は、ちょっと突き放した言い方になってしまったかも……。亜莉寿には、悪いことをしたな)

と、秀明は感じていた。

それでも───。

吉野亜莉寿は、自分を頼ってくれた。
その期待、その想いには応えたいと思う。
宝塚市内に向かう河川敷のサイクリングロードを走りながら、秀明は、愛車と自分自身を叱咤する様に、さらに速度を上げる。
同時に脳内の思考回路もギアを一段階アップさせた。

亜莉寿と両親との話し合いに欠けていたものは、何か?
亜莉寿の進路について、両親を説得できる材料は、何か?
亜莉寿自身が話すべきこと、自分がフォローできることは、何か?

これまでの吉野亜莉寿との会話で知り得たこと、自身の経験から予想される相手の反応などを考慮しながら、亜莉寿のリベンジ・マッチを有利に導くシナリオを練る。
十二月下旬の冷えた外気のおかげで冴えた頭の中では、おおよそのプロットが完成しつつあった。
あとは、亜莉寿と直接話して状況を確認した後、彼女に自分の提案を伝えて、合意できれば───。
考えがまとまると同時に、秀明は脳内をクールダウンさせる様に「ふぅ~」と息をつき、自転車をこぐスピードを少し緩めた。
亜莉寿と会う前に諸々の状況を整理し、自分の考えをまとめることが出来た安心感からか、他のことを考える余裕も出てきた。

(そう言えば、亜莉寿が掛けて来たのほ、彼女の自宅の電話じゃなかったのに、良くウチの家の電話番号が、わかったな……)

そんなことを考えながら、河川敷から一般道に上がり、住宅街の緩やかな坂道を登り始める。
目指すビデオショップは、目前に迫っていた。
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