シネマハウスへようこそ

遊馬友仁

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第10章~Smels Like Teen Spilit~⑦

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秋の終わりからは、一気に季節が進み、『シネマハウスにようこそ』の活動や二学期の中間試験と期末試験などの日程が、瞬く間に過ぎて行った。
十月末の夜の出来事以降、自分自身と、それ以上に亜莉寿の進路のことが頭から離れなかった秀明は、ただ過ぎていく日々に身を任せるのみで、年末が迫っている実感のないまま、二学期の終業式の日を迎えていた。

大講堂での全校集会を終えた生徒は、各々のクラスに戻り、各クラスでのホームルームに備えて待機する。
その待ち時間の間、教室内は、冬休みとクリスマス前の高揚感からか、いつも以上の喧騒に包まれていた。
秀明は、梅原が登校時にコンビニで購入してきたスポーツ新聞を中心にして、クラス内で、すっかり定着した名称・ボンクラーズの面々とともに、週末に行われる中央競馬の総決算・有馬記念の検討会を開催中である。

第四十回有馬記念 一九九五年十二月二十四日
中山競馬場 芝二五〇〇メートル

一枠一番  サクラチトセオー
二枠二番  タイキブリザード
三枠三番  ゴーゴーゼット
四枠四番  ロイスアンドロイス
五枠五番  ナイスネイチャ
五枠六番  ジェニュイン
六枠七番  ヒシアマゾン
六枠八番  ナリタブライアン
七枠九番  イブキタモンヤグラ
七枠十番  マヤノトップガン
八枠十一番 アイルトンシンボリ
八枠十二番 アイリッシュダンス

♤「梅ちゃん、資料提供ありがとう!今年も、一番楽しみな季節がやってきたな!」
◆「どういたしまして!やっぱり、有馬記念は、みんなで検討会しないとな」
♧「しかし、今年は難解やな~。一番人気は、やっぱりヒシアマゾンか?」
◇「ナリタブライアンとヒシアマゾンくらいしか名前を知らん自分には、サッパリわからへんわ」
♤「まあ、伊藤の知ってる、その二頭が人気の中心になるのは間違いないと思うけど、今年は四歳馬も古馬も戦績がパッとしないというか……」
◆「ヒシアマゾンも、押し出された一番人気って感じやしな~」
♧「ホンマ、去年はナリタブライアンから、どの馬に流すかだけ考えれば良かったのに……」
◇「去年は、ブライアンとヒシアマゾンで決まったんやろ?今年も、その二頭ってことはないん?」
♤「個人的には、ブライアンの復活に期待したいけど……。どうやろ、梅ちゃん?」
◆「いや、あの馬は、もう終わってるやろ。秋天十二着、ジャパンカップ六着でも二番人気とか有り得へんわ~。結局、ブライアンって、早熟やったんちゃう?」
♧「かと言って、ヒシアマゾンが勝ちきるかというと疑問やなぁ。あと、有馬記念は、連覇自体が少ないしな」
♤「ブライアンの血統的に早熟ってことはないと思うけど……。有馬連覇は、十年前のシンボリルドルフ以来、達成ナシか……。今のブライアンにルドルフの強さを求めるのは酷やなぁ」
◇「ヒシアマゾンは、牝馬やのに、名前が可愛くないのが、気にいらへんのやけど、それはオレだけ?」
♧「名前としては、男勝りで相応しいんちゃう(笑)?」
♤「やっぱり、ヒシアマゾンの前走ジャパンカップ二着は評価すべきかな?でも、ジャパンカップと有馬記念を連続して好走するのって、相当チカラが抜けてないと難しいよな?」
♧「それも、ルドルフ以来、例が無いんちゃう?」
♤「八十八年のオグリキャップとタマモクロス以来かな?どちらにしても、前例は少ないな」
◆「う~ん、やっぱり、今年は全くワカラン!」
♧「じゃあ、今年の世相から占って見るか?スポーツ界の話題と言えば、野茂のメジャーリーグでの活躍とオリックスの優勝やけど……」
♤「野茂の背番号は、十六!パ・リーグのMVPは、イチロー!馬連一・六の一点勝負!」
◆「サクラチトセオーとジェニュインか~。秋天の一・二着馬やし、有り得るかも?でも、二頭とも距離にカベがある気がするな~」
♧「ブライアンが伸びず、アマゾンの末脚が不発に終わって、ジェニュインが粘れる展開の中、チトセオーだけ追い込んで来るとか、ちょっと、都合が良すぎちゃうか?」
♤「もう、こうなったら、馬名から考えよう!今年の有馬記念は、クリスマス・イブ開催やし、イブ来たモン櫓=イブキタモンヤグラで、どうでしょう?」
♧◆◇「「「大喜利予想か!?」」」
♤「いや、皐月賞の時は、梅ちゃんも推してたやん、イブキタモンヤグラ」

などと、クリスマス前の季節になっても、春先から全く進歩のない会話を続けていると、秀明たちの周りに、柑橘系とローズの交じった甘い香りが漂った。
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