シネマハウスへようこそ

遊馬友仁

文字の大きさ
上 下
61 / 114

第10章~Smels Like Teen Spilit~②

しおりを挟む
沈黙を破る様に、秀明は亜莉寿にたずねた。

「あの、もし考えていることがあるなら聞きたいんやけど……。具体的に転校する学校とか決めてるの?亜莉寿のことやから、何か自分なりの考えがあってのことだとは思うけど」


秀明の問いに、亜莉寿は、落ち着いた声で話し出した。
「うん……。いま、資料を取り寄せているところなんたけど、アメリカの高校に編入できないかなって、考えてるんだ。来年、ウチの母が仕事の関係で、あっちに赴任することになりそうで、一緒に着いていけたらなって」

彼女の発言に、「えっ!?」と言葉を失いそうになり、また、海外とは思い切ったことを……、と感じた秀明だが、

(いや、しかし……)

と思い直す。
夏休みに、亜莉寿が語った彼女自身の将来の夢とは何だったか?
ハリウッド映画の世界で脚本家を目指し、自身が映像化を熱望する企画を持っているならば、進学先や就職先の目標を国内に限定する必要はない。
むしろ、アメリカの大学ならば、国内の大学と違い、シナリオライティングや映画の企画化などについて、本格的に学べる講義があるのかも知れない。
高校三年時にアメリカの大学の入学試験を受けて渡米するよりも、状況が許すならば、高校時に編入をしていた方が大学受験時の負担もはるかに少ないだろう。
ましてや、彼女が映像化を目標としているのは、アメリカ合衆国のSF作家をテーマにしたものだ。

「それなら、転校先がアメリカの高校になるか……」

秀明が、一人言のようにつぶやくと、

「うん、やっぱり、家族が一緒にいると安心かなって、思うし……」

と亜莉寿が答える。
それを聞いた秀明は、

「あ、いや、そうじゃなくてさ……」

と、返答し、今しがた自分が考えていた、彼女の夢と、その目標にたどり着くために相応しい進学先や就職先、現時点で可能なことと近い将来に向けて何をしておけば有利なのか、ティプトリーがアメリカの作家である以上、日本国内に留まるより、彼女の母国であったアメリカを目指すのは当然だ、ということが納得できたということを亜莉寿に伝えた。
そして、こう付け加える。

「合理的に考えることが出来ていて、亜莉寿らしいな、って思った」

秀明が、そう口にすると、亜莉寿は目を丸くして、

「すごい……。どうして、私が考えていたことがわかったの?それに───、私が、頭の中で色々と考えてグチャグチャになっていたことを、シンプルで、わかりやすくまとめてくれてる!」

感心した、と言わんばかりの口調で秀明に語る。
彼女の言葉を聞いた秀明は、

「いや、夏休みくらいから、亜莉寿の話しは、良く聞かせてもらってたし」

と笑いながら話し、

「それに、一見、複雑な内容のことも簡潔にわかりやすくまとめるのは、亜莉寿の方が得意やと思うけど……。さっき『ロッキー・ホラー・ショー』を解説してくれた時も思ったけど」

と付け加えた。
亜莉寿の言葉からは、先ほど、秀明が『ロッキー・ホラー・ショー』とタイガースファンとの共通性を語った時の様に《畏敬の念》とも取れる想いを感じることが出来たが、先刻とは異なり、それを嬉しいと感じることはなかった。
自分は、この夏以降、断片的に語られた彼女の話しを思い出し、その点と点を、線としてつないだだけだ。

(そんなに誉められることでもないと思うけど……)

校内放送で映画について語る時や、秀明に小説の魅力について語る時などは、理路整然と饒舌に話す亜莉寿だが、自分自身のことを考えたり、他者に伝えたりする場合には、そのスキルは、あまり発揮されない様だ。
秀明が、そんなふうに思いを巡らせていると、亜莉寿は、唐突にこんなことを言い出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

井上キャプテン

S.H.L
青春
チームみんなで坊主になる話

謎ルールに立ち向かう中1

ぎらす屋ぎらす
青春
小さな頃から「しあわせってなんだろう」と考えながら生きてきた主人公・石原規広(通称 ノリ)。 2018年4月、地元の中学校に入学した彼は、 学校という特殊な社会で繰り広げられる様々な「不条理」や「生き辛さ」を目の当たりにする。 この世界に屈してしまうのか、それとも負けずに自分の幸せを追求するのか。 入学と同時にノリの戦いの火蓋が切って落とされた。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【実話】友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
青春
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...