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第8章~フェリスはある朝突然に~①
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二学期の開始から一ヶ月が経過し、季節は本格的に秋を迎える。
稲野高校は、次年度より成績考査などが、現行の三学期制から前後期の二学期制に移行することが決定しており、十月の初日に秀明たちの所属する単位制の生徒に向けて、説明会が開催された。
一二〇名が集められた新校舎の集会用ホールは、新築のためなのか、季節的なものなのか、多数の生徒が集ってもなお、ヒヤリとした雰囲気に感じられる。
次年度からの学期制変更の淡々とした説明が終了すると、話題は、二年次の単位選択の話へと移行した。
教師の言葉を要約すると、以下のようなものだった。
「二年次は理系・文系ともに受験において重要な科目が並ぶ。しっかりと大学受験を見据えた単位選択を行うように」
(結局、受験に向けてハッパを掛けたいだけなのか……)
教師の言葉に対して、そう感じた秀明は自分の気持ちが萎えていくのを感じた。
「習得する単位を一定の中から自由に選択でき、自分の進路に合った授業を学べる」
との謳い文句は、一体なんだったのか?
(単位制なら、もう少し自分の興味のある分野や教科を優先的に選べると思ったのに……)
秀明は、そう感じたものの、一方で、新体制下での名門大学への進学率向上というわかりやすい結果を高校側が求める事情も、理解できなくはない。
学校側の言動に反発心を抱きながらも、日々の授業や課題、『シネマハウスにようこそ』の活動など、目の前の日課をこなすことに精一杯で、現実的な折り合いを付けようとする自分自身にも苛立ちが募る。
秀明は、感情の矛先をどこに向けたら良いのかわからないモヤモヤとした気分を抱えたまま、集会は解散となった。
集会用ホールから、三々五々、それぞれ教室に戻っていく生徒の中に、秀明は
亜莉寿の姿を見つけた。
数メートル先の彼女は、ややうつむき加減で、やはり明るい表情には見えない。
(そう言えば、亜莉寿は、どんな進路を考えているんだろう?)
自分の進路以上に、秀明には、そのことが気にかかっていた。
※
学年集会の終了後、各教室では、ホームルームの時間となり、後期のクラス役員の選定が行われる。
次年度からの本格的な前後期制導入に先駆けて、学校運営に影響の少ないクラス役員は、この年から前期と後期の二期制に移行していた。
秀明は、四月から九月までの前期を役職なしで過ごしたが、男子生徒の人数が比較的少ない一年B組にあって、十月から三月までの後期は、彼も何らかのクラス委員の役職に就くことが求められ、
「有間は、映画についてしゃべってるんやから、文化委員をやっておけ!」
というクラスの総意のもと、文化委員に選出された。
その日の放課後、秀明は、三学年から各クラスの文化委員が集う文化委員会に出席するため、委員会が開かれる三年生の教室に向かう。
その移動中、
「ゴメンな!女子のパートナーが、吉野さんじゃなくて」
と、正田舞が笑いながら話しかける。
「何をおっしゃいますやら……。自分としては、ショウさんが、委員会のパートナーで心強いッスよ」
秀明も、柳に風といった感じでサラリと受け流す。
彼女は、前期に続いて、一年B組の文化委員を引き受けていた。
二人が会合の開催場所となる教室に着くと、しばらくして委員の全員が集合し、後期最初の文化委員会が開会となる。
稲野高校では、毎年六月に文化祭にあたる『いなの祭』が開催されるため、文化委員の主な仕事は、四月から九月の前期に集中している。
一方で、十月から三月の後期には、外部から演者を招く芸術鑑賞会の準備担当くらいしか仕事がないとのことである。
そのため、文化委員会の会合も、ユルいノリになり、三学年各クラスの顔合わせを兼ねた自己紹介が終了すると、『交流会』と称した雑談の時間となった。
「前期は、『シネマハウスにようこそ』の準備に掛かりきりで、文化祭のクラスの展示にすら、ほとんど関わってなかったから、後期の文化委員の仕事の内容を聞くと、何か申し訳ないわ」
と秀明が苦笑して舞に語ると、
「そうやな~。有間は、全然クラスの役に立ってなかったから!何かで埋め合わせしてもらわんと」
舞も笑って答える。
「ショウさんには、いつもお世話になってるし、オレに出来ることなら何でもさせてもらうわ」
リラックスした周囲の雰囲気から、椅子の背もたれに背中を預けて、後方に揺らしながら秀明が返答すると、舞は、こんな問いを投げ掛けてきた。
「先月やったかな?吉野さんの話しを聞いた時に気になったんやけど……。吉野さんは、『有間と坂野クンがイチャイチャしてる』とか、『有間が坂野クンを受け入れる』とか言ってたけど、アレは、どういう意味なん?」
ガタン!!
あまりに予想外の角度からの質問に、揺らしていた椅子からズリ落ちそうになりながらも、何とか踏みとどまった。
「それをオレに聞きますか?」
困惑した笑みで、秀明は舞の質問に応じようとする。
その時、フワリと、柑橘系とローズの交じった香りが秀明の鼻腔をくすぐった。
稲野高校は、次年度より成績考査などが、現行の三学期制から前後期の二学期制に移行することが決定しており、十月の初日に秀明たちの所属する単位制の生徒に向けて、説明会が開催された。
一二〇名が集められた新校舎の集会用ホールは、新築のためなのか、季節的なものなのか、多数の生徒が集ってもなお、ヒヤリとした雰囲気に感じられる。
次年度からの学期制変更の淡々とした説明が終了すると、話題は、二年次の単位選択の話へと移行した。
教師の言葉を要約すると、以下のようなものだった。
「二年次は理系・文系ともに受験において重要な科目が並ぶ。しっかりと大学受験を見据えた単位選択を行うように」
(結局、受験に向けてハッパを掛けたいだけなのか……)
教師の言葉に対して、そう感じた秀明は自分の気持ちが萎えていくのを感じた。
「習得する単位を一定の中から自由に選択でき、自分の進路に合った授業を学べる」
との謳い文句は、一体なんだったのか?
(単位制なら、もう少し自分の興味のある分野や教科を優先的に選べると思ったのに……)
秀明は、そう感じたものの、一方で、新体制下での名門大学への進学率向上というわかりやすい結果を高校側が求める事情も、理解できなくはない。
学校側の言動に反発心を抱きながらも、日々の授業や課題、『シネマハウスにようこそ』の活動など、目の前の日課をこなすことに精一杯で、現実的な折り合いを付けようとする自分自身にも苛立ちが募る。
秀明は、感情の矛先をどこに向けたら良いのかわからないモヤモヤとした気分を抱えたまま、集会は解散となった。
集会用ホールから、三々五々、それぞれ教室に戻っていく生徒の中に、秀明は
亜莉寿の姿を見つけた。
数メートル先の彼女は、ややうつむき加減で、やはり明るい表情には見えない。
(そう言えば、亜莉寿は、どんな進路を考えているんだろう?)
自分の進路以上に、秀明には、そのことが気にかかっていた。
※
学年集会の終了後、各教室では、ホームルームの時間となり、後期のクラス役員の選定が行われる。
次年度からの本格的な前後期制導入に先駆けて、学校運営に影響の少ないクラス役員は、この年から前期と後期の二期制に移行していた。
秀明は、四月から九月までの前期を役職なしで過ごしたが、男子生徒の人数が比較的少ない一年B組にあって、十月から三月までの後期は、彼も何らかのクラス委員の役職に就くことが求められ、
「有間は、映画についてしゃべってるんやから、文化委員をやっておけ!」
というクラスの総意のもと、文化委員に選出された。
その日の放課後、秀明は、三学年から各クラスの文化委員が集う文化委員会に出席するため、委員会が開かれる三年生の教室に向かう。
その移動中、
「ゴメンな!女子のパートナーが、吉野さんじゃなくて」
と、正田舞が笑いながら話しかける。
「何をおっしゃいますやら……。自分としては、ショウさんが、委員会のパートナーで心強いッスよ」
秀明も、柳に風といった感じでサラリと受け流す。
彼女は、前期に続いて、一年B組の文化委員を引き受けていた。
二人が会合の開催場所となる教室に着くと、しばらくして委員の全員が集合し、後期最初の文化委員会が開会となる。
稲野高校では、毎年六月に文化祭にあたる『いなの祭』が開催されるため、文化委員の主な仕事は、四月から九月の前期に集中している。
一方で、十月から三月の後期には、外部から演者を招く芸術鑑賞会の準備担当くらいしか仕事がないとのことである。
そのため、文化委員会の会合も、ユルいノリになり、三学年各クラスの顔合わせを兼ねた自己紹介が終了すると、『交流会』と称した雑談の時間となった。
「前期は、『シネマハウスにようこそ』の準備に掛かりきりで、文化祭のクラスの展示にすら、ほとんど関わってなかったから、後期の文化委員の仕事の内容を聞くと、何か申し訳ないわ」
と秀明が苦笑して舞に語ると、
「そうやな~。有間は、全然クラスの役に立ってなかったから!何かで埋め合わせしてもらわんと」
舞も笑って答える。
「ショウさんには、いつもお世話になってるし、オレに出来ることなら何でもさせてもらうわ」
リラックスした周囲の雰囲気から、椅子の背もたれに背中を預けて、後方に揺らしながら秀明が返答すると、舞は、こんな問いを投げ掛けてきた。
「先月やったかな?吉野さんの話しを聞いた時に気になったんやけど……。吉野さんは、『有間と坂野クンがイチャイチャしてる』とか、『有間が坂野クンを受け入れる』とか言ってたけど、アレは、どういう意味なん?」
ガタン!!
あまりに予想外の角度からの質問に、揺らしていた椅子からズリ落ちそうになりながらも、何とか踏みとどまった。
「それをオレに聞きますか?」
困惑した笑みで、秀明は舞の質問に応じようとする。
その時、フワリと、柑橘系とローズの交じった香りが秀明の鼻腔をくすぐった。
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