BL眠り シチュエーション限定SS

重なる手

　闇に包まれたシーツの上をのろのろと指が這う。整った指先の持ち主はまだ半分夢の中におり、手には力が入っていない。かいた汗が冷え、体を縮こまらせていた。手探りでエアコンのリモコンを探していると、その手がやんわりと捕らえられた。明彦は不機嫌そうに、んん、と呻く。

「俺の手探してたんじゃないの？」

　眠そうな声だったが、圭介はからかい口調でそう言った。明彦はうつぶせて目を閉じたまま、眉だけを顰めた。手を動かしてみても圭介から逃れられない。ほとんど力が入っておらず、圭介もまた脱力しているため上から重ねられると重さで動けないのだ。

「ちが……寒い、エアコン……」

　声が震える。強めに設定されたエアコンの風が剥き出しの体に当たっている。少し遅れて、ああ、と返事があった。明彦の体にシーツがかけられ、圭介の体がぴたりとくっついた。素肌同士が触れ、じんわりと熱が移ってくる。あったかい、と明彦の体から力が抜けていった。圭介は眠たそうに重たい瞬きをしながらエアコンのリモコンに手を伸ばす。設定温度を上げ、風量を弱めた。ピ、ピ、とエアコンの立てる音に、圭介が調節してくれたのだと頭の片隅で理解する。
　もぞもぞと戻ってきた圭介が、明彦の体を胸に収めて緩く抱き締めた。圭介の体は明彦の体よりも温かい。熱を求めるように本能的に寄り添えば、柔らかく受け止められた。体を冷やすものがなくなってゆったりと温まっていく。それに連れて体は力を失って、眠気が増していった。

「体冷てぇ」

　圭介が呟くように言い、明彦の冷えた頬に触れた。圭介はかえって目が覚めてしまったのだろう。手の平が温かい。閉じた瞼の上に被せられるともう眠気には抗いがたかった。寝てしまえというように圭介の体に包まれる。落ち着いた鼓動の音が自分のもののように響いていた。やがて胸元から穏やかな寝息が聞こえてくると、圭介はそっと両手を離した。体はくっつけているものの少しだけ距離をとっておく。どちらかが先に起きた時に、自由にベッドから降り下りられるように。
　明彦は無防備な寝顔を圭介に晒し、すっかり寝入ってしまっていた。圭介はふっと目を細めて笑うとその髪を撫でてやる。手を離しておいたら明日の朝にはいなくなっているのだろうか。夢幻のように名残もなく立ち去って行くのを想像して少し苦しくなった。ほんのわずかばかり距離をつめて、そっと手に手を重ねる。行動を阻害しない程度に、感覚だけ共有するように。
　重ねた手が同じ温度になって、境目がなくなっていくような気がした。明彦をぼんやりと見つめている圭介の瞼もゆっくりと落ちていき、かくりと首が落ちた。シーツに収まった二人は寄り添ったまま夜を過ごす。夏の空は朝に向けてゆっくりと白み出していた。