上 下
432 / 574

【弱体の魔王】③

しおりを挟む
「良いわぁ♡ 優樹♡ 貴方のその自信に満ちた勇気の表情♡ 早くその顔が絶望色に歪み許しを乞う所が見たい♡」

 愛川の美人顔が今はすごく歪んで見える。

 まるでしわくちゃの意地の悪い老婆のような笑みに俺はゴクリと息を飲んだ。

(これだ! この顔だ! 俺が愛川を信じられないのは!)

 彼女が時折見せる美人とは程遠い邪悪で醜悪な笑み。

 一体あの美人顔をどうやったらこんな顔にできるのか正直俺にも理解できない。

 勇気奮い立たせて勇者の一人である優樹が果敢に攻め立てるが、流石に相手が悪かった。

「ふふっ♡ 本来なら貴方の方が身体能力は遥かに上なのよ。でも残念だけど私と貴方とではレベル差がありすぎるの。貴方の無駄な頑張りを見ているのも飽きてきたし、そろそろ絶望の色を見せてほしいなぁ♡」

 そんな事を言ってくる愛川を相手に一歩も引かない優樹は一喝を入れた。

「私は絶望なんかしたりしない!!!」

 優樹のキリッとした良い表情は何度も俺たちを鼓舞し続けてくれた。

 それは今も昔も変わらない。

「優樹行けぇ!!!」

「和希...! うん!」

 優樹は大きく踏み込んで空手の技を繰り出した。

「正拳突き!!」

 もっともオーソドックスな攻撃を愛川のみぞおちに当てるのだが...!

「ふふっ、ペナルティを与えてあげるわ」

 そう奴が呟いた時に俺は気がついてしまった。

「優樹! 逃げろ!!」

「えっ?」

「もう遅い。攻撃ペナルティ全ステータス70%低下」

「ぐぅ!?」

 一気に全身から力が抜けた様子の優樹を見てニヤリと笑う愛川。

「優樹、貴方は確かに強い。けれどここは異世界だよ? 魔法の力はそんな小手先の技を凌駕するの」

 そう言いながら優樹の鈍くなった拳や蹴りを簡単に躱し続ける愛川。

 そして...。

「【デバフ+50】」

「あぁぁぁぁ!!!!」

「優樹ィィィィ!!!!」

 愛川のデバフが優樹を襲い、全てのステータスを一にされてしまう優樹。

「あうぅ...」

 ひざまづいて愛川を睨む優樹だったが、こうなってはどうしようもない。

 ほぼほぼ動けない生物となった優樹を見て再び醜悪な笑みを浮かべる【弱体の魔王】なのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

異世界物語 ~転生チート王子と愉快なスローライフ?~

星鹿カナン
ファンタジー
目が覚めるとそこは、ファンタジーのような異世界で、僕はよくあるように、赤ちゃんだった。前世の記憶は、朧気であるものの神様との話は、よく覚えていた・・・・・・ 転生王子の異世界チートスローライフ? スローライフ要素は3章~4章まで殆ど無いかもしれません。 人名のスペルは、英検4級すら受からない作者が、それっぽい音になりそうな綴りを書いているだけなので、鵜呑みにして、参考にする様なことはしないでください。特に深い意味がある訳でもありません。 地図等、自作していますが、絵はかなり苦手なので、大まかなイメージを掴むための参考程度にしてください。 その他、物語の解説などには、地球上の仕組みの中に、実在するものと実在しないものが、混ざっています。これらは、異世界感を演出するためのものなので、ご注意ください。 R指定は特に出していませんが、怪しい部分が多いので、気になる方は、自主規制をお願いします。 現在最新話まで、本編のための前日譚のような外伝ストーリーです。 本編の時間軸に辿り着くまでの長い前日譚もお付き合いいただけると幸いです。 最終更新日:4月15日 更新話:3-027 次回更新予定日: 4月20日

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

妖精王オベロンの異世界生活

悠十
ファンタジー
 ある日、サラリーマンの佐々木良太は車に轢かれそうになっていたお婆さんを庇って死んでしまった。  それは、良太が勤める会社が世界初の仮想空間による体感型ゲームを世界に発表し、良太がGMキャラの一人に、所謂『中の人』選ばれた、そんな希望に満ち溢れた、ある日の事だった。  お婆さんを助けた事に後悔はないが、未練があった良太の魂を拾い上げたのは、良太が助けたお婆さんだった。  彼女は、異世界の女神様だったのだ。  女神様は良太に提案する。 「私の管理する世界に転生しませんか?」  そして、良太は女神様の管理する世界に『妖精王オベロン』として転生する事になった。  そこから始まる、妖精王オベロンの異世界生活。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

処理中です...