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第二章【神社の神様?白トカゲVS黒トカゲ】

【8】謎の声

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【8】



ーーその夜、私は またもや不思議な『夢』を見ていた。


気がついた時には、私は真っ白な場所にいた。辺りはまるで霧に包まれたように見えないが、足元には ちゃんと地面がある。


『ここは………一体?』


なにやら異様な雰囲気に不安になり声を上げてみる。


『すいませ~ん! 誰か!  誰かいませんか!?』


見回しても白いモヤに包まれていて何も見えない。唯一、自分の足元だけがハッキリと見える状態だ。

すると、どこからともなく遠くの方から声が聞こえてきた。


『声がしたぞ!! 向こうの方角からだ!!』


その声に自分以外にも人がいた事にホッと胸を撫で下ろす。


ーーああ、よかった。他にも人がいたんだ。


すると今まで白いモヤの掛かっていた景色が たちどころにクリアーになる。その景色の見覚えに驚く。


『こ、ここって!!』


すると、私の記憶まで呼び起こされたかのように急に鮮明に思い出した。

それは以前見た『夢』と同じで、私の目の前には大きな古代中国の お城の塀が広がり、周囲の建物も同じような造りで、しいて言えば お寺が幾つも立ち並んでいる感じだ。

それに遠くには大きな山々が見え、電柱も電線もどこにも見当たらないせいか空がやけに高く感じ、とにかく光景はまるで『三国志』の世界だ。


ーーウソ!? また あの『夢』??


私は呆然としながらも周囲をぐるりと見回す。あの お城には見覚えがあるーーといっても、あの時は城内だったからハッキリとは言えないが、中庭から見た建物の感じから同じ建物だと思う。

にしても、また このような『夢』を見てしまうとは………あれから韓流ドラマも見ていないし、見ているといえば、お笑い番組やアニメくらいで、こんな中華な世界の夢を見るような原因が全く思い当たらない。


ーーううっ、なんで? 意味が分らない。もしかして あの『夢』の続きとか言わないよね? 

まあ、確かに あの『夢』は やけにリアルで臨場感すら あったけど。さすがに同じ『夢』を続けて見るとか、自分の頭の中どうなってんの?ってなるじゃん。 

もしかして『黒姫くろひめ』とか『イケメン皇子兄弟』とかも出てくるのか? ーーいやいや、まさか。ファンタジーじゃあるまいし。


『夢』の中の話だけに変な話ではあるけれど。とにかく前回とは違い、今回の『夢』の中の私はシラフであり、千鳥足の酔っ払いではない分、思考はハッキリしているのは確かだ。

とにかく、さっさと目を覚ますに限る。それでなくても忙しい仕事が山のようにあるのに夢で疲れるなんて本末転倒も いい所だ!

そう思い、自分の頬を引っ張ろうとした その時だ。お城の兵士らしき人達が何人も現れ、こちらを指差しながら叫んでいる。


「いたぞ!!  妖魔だ!! 向こうに妖魔の女がいるぞ!?」


ーーは? 『妖魔』??


キョロキョロと自分の周りを見るも、兵士達が指を差しているのは『私』しかいない。


「皆を直ちに招集しろ! 妖魔が現れた!! こんな日の高い内から現れるとは、強力な妖魔かもしれん!!」


予想外の展開にハッキリとしているはずの思考かついて行かない。


ーーな、なに? 急に なんなの? しかも『妖魔』って、もしや『妖怪』って事? はぁあ? わたしが??


前回の夢の中では確か『天の神子』とか言われてたけど、今度は『妖魔』って、全く違いすぎじゃない!?


『ち、違います!! 私は普通の人間です!!』


慌てて大声で叫んで否定するも、兵士達は わらわらと四方八方から集まって来ている。


「ふざけるな!! なにが普通の人間だ!! その様な禍々まがまがしい姿の人間など、どこにもいない!!」


『は? 禍々しいって、どこをどう見たらーーえ?』


兵士達が何を言っているのかが分からず、自分の手足に視線を向けてギョッとする。


『なっ! なに、これ!?』


見ると自分の肌の色が血色が悪いどころか、明らかに青白い色に変化していて、先のとがった黒い爪がきょうのように伸びている。どう見ても人間の持つ本来の色じゃない。


ーーうそでしょ!? さっきまで全然なんともなかったのに!! 一体、どうなってるの!?


「そのような醜い姿で人間を名乗るとは姑息な妖魔め! しかも日中に王城に現れるなどと、さては国家転覆を狙っているのであろう!!


『待って! 違う、違うから!! これは何かの間違いよ!! 私は本当に人間だから!!』


必死に訴えるも兵士達の殺気に満ちた怒号が飛ぶ。


「黙れ!! そのような おぞましい姿で人間などと、まだ言うか妖魔!! おい!  討伐隊は まだか! 宗主様方へ直ちに お知らせしろ!! 悪しき妖魔が王都に現れたと!!」


『違う!  違うよ!! 私は妖魔なんかじゃないったら!! どうしたら信じてもらえるの!?』


前回の『夢』と全く真逆の展開に狼狽えていると、そんな兵士達の口から「殺せ!」「殺せ!」と叫ぶ声すら聞こえる。思わず耳を塞ごうとして、その違和感に心臓が大きく跳ねる。


ーーう、うそ……耳が、尖ってる!?


恐る恐る震える手で自分の耳を触ると、まるで悪魔のように大きく尖っている感触がある。

確かに あの兵士達が言う通り、人間とは全く違う肌の色、耳の形、もしかしたら本当に『妖魔』と呼ばれるような恐ろしい姿になっているのだろうか? 

もし、今ここに姿見があったとしても怖すぎて確認する事は出来ないだろうが。


ーーど、どうしよう。どうして こんな事に!? そんな事よりも早くこの場から逃げないと。

このままじゃ、あの人達に殺されちゃうよ。でも、一体どこに逃げればいいの!?


『逃げろ』


ふいに頭の中で声が聞こえる。


ーーえ?


『早く、その場から逃げろ。あ奴らに殺されるぞ』


再び頭の中で声が聞こえる。


『に、逃げるって、どこにーー』


『あの大きな山の方角に向かって走れ。あ奴らは そなたの敵。愚かで醜悪な人間共だ。そなたが何を言おうと問答無用で殺しにくる』


『ーーあなたは誰?』


頭の中で聞こえる声に話し掛ける。


『我は そなたの唯一の味方。とにかく早く その場を離れろ。死にたくなければ急げ』


そんな頭の中の声に反応するように私は走り出していた。背後から兵士達の怒号が追いかけてくるが振り返るのも恐ろしくて、とにかく過去にもない全速力でひたすら必死に走った。

馬のいななきまで聞こえてきて、このままでは兵士達に追いつかれてしまうかもーー

そんな不安から無我夢中で走っていると、急にトンネルにでも入ったかのように辺りが真っ暗になる。


ーーえ? さっきまで普通の景色だったのに、急に真っ暗になるなんて………


思わず立ち止まると、また頭の中で声が聞こえてきた。


『もう大丈夫だ。奴らは ここまで追っては来られない』


『でも、真っ暗で何も見えないよ。怖い……ここは どこなの?』


『怖がる事はない。ここは あ奴らが手出しの出来ない、そなたにとって もっとも安全な場所だ』


『そんな事言ったって、怖いものは怖いよ。真っ暗闇なんて』


『闇は全てを覆い隠す。ここに人間は入れぬ』


『人間は入れないって、私は人間だよ』


『その姿でか?』


その声にハッと我に返る。何度見ても肌の色は青白く、触ると皮膚がやけに硬い。そして自分の耳に手を伸ばしてみたが、やはり耳が尖っている感触があった。


『い……や、いやだ……どうして? 私……どうして、こんな事に? ……違う、違うから。こんなの私じゃない。私は普通の人間なのに』


湧き上がる動揺に狼狽する。


『そなたは普通の人間ではない。世の常から外れた異端の者。そして我が長い間ずっと待ち望んでいた我が神子よ』


『は? 長い間待ち望んでいたって、しかも私があなたの“神子”?』


またもや『神子』という言葉が。やはり、ここは前に見た夢の中の世界なの? だとすると、この声の主は誰? あのイケメン皇子達の誰かとか?


更に その声の主は耳を疑うような とんでもない言葉を発した。


『そうだ。我が愛おしき“つがい”なる者よ。我は ずっと、そなたが現れる日を待っていた』


『は、はいぃ?……“つがい”ってあの“番”? それってつまり“伴侶”って事?』


すると突然頭がキーンと割れそうな頭痛に襲われ、私の中に声の主とは違う他の声が乱入してきた。


『うつけ者!! 早く目を覚ませ!! そやつの話を聞くな!!』


『うぅ、頭が痛っーー』


なぜか“第三者”に割れ鐘をつかれるように怒鳴られ、ガンガンと響く頭痛に思わず その場に しゃがみ込む。


『“闇の者”の声に耳を傾けるな!! 早く目を覚ませ!!』


『ううっ、闇の者って何言ってんの?……っていうか、人の頭の中で怒鳴らないでよ。頭が割れそう………』


すると先ほどの声の主が鼻で笑うような声が聞こえてきた。


『ーーフッ、現世うつしよから弾かれた身で まだ干渉する神力があるとはな。したが、こうして互いに負荷を掛け続ければ娘の方が壊れてしまうぞ? よいのか?』


『目を覚ますのだ!! 早く目を覚ませ!! 惑わされるな!! そやつは悪しき存在だ!!』


『くっつ、だから頭の中で叫ばないで……脳ミソに直接響いて すっごく痛い、頭が割れそう。それに目を覚ませ、覚ませって言われたって、出来るんなら とっくにやってるわ! だから もう人の頭の中で好き勝手言わないでくれる? うるさい!!』


『煩いだと!? そなたの身を案じて忠告しているのだぞ?』


『あ~はい はい。どこのどなたか存じ上げませんが私の身を案じてくれているのなら、お静かに お願いします。ほんっつとうに頭が割れそうなんたけど』


『なんだと!!』


一人ならずも二人掛かりで人の頭の中で わーわー話されると、かなり辛い。しかもこの“第三者”の声が現れてから、ずっと耳鳴りも続いていたので目眩さえしてきた。

なので私にとっては、後から入ってきた この“第三者”の方が『悪者』としか思えない。


すると、もう一人の声の主が含み笑いをしている。


『クックッ、面白い娘だ。“天の主神”も人の子に掛かれば、こうも形無しになろうとは真に笑止。しかも感情的になるなどと、あまりに人の子の側に居すぎて人間臭さが移ったか。だとしたら滑稽こっけいではあるな』


ーーなんだろう?  この二人、知り合い?


『…………』


どうやら会話からして私の頭の中の声の主達は知り合いっぽいが、察するにかなり仲が悪い感じだ。それに二人は私には話しかけてくるのに、声の主達同士では会話を交わすことがない。


ーーまあ、ひとの頭の中で喧嘩されても いい迷惑だから、それは それでいいけどね。


そして さっきまで煩かった声の主は、打って変わったように無言の黙りで何も話さない。


ーーあちゃ~  やっぱり怒らせちゃったかな?  さすがに心配してくれている人に対して、あんな態度取っちゃったから。だけど頭が痛くて苛々いらいらしてたから仕方なかったんだもん。


と、思い起こしつつ少しだけ反省していると、次第に周囲の暗闇が明るくなってきた。


ーーあ、なんか急に明るくなってきた!? やったー!! やっと、この薄気味悪い所から出られるかも!?


『ふむ、どうやら刻限のようだな。いずれ また相まみえようぞ、我が愛しき“番”なる者よ』


『はあ? だから その“番”って一体何なの? ーーっていうか、あんた誰よ!?』


私が叫ぶも暗闇に強烈な朝の陽光が差し込むように真っ白な光に包まれ、そこで意識は途切れた。



******



「ーーはっ」


パチリと目が覚めると、カーテンから朝の陽光が差し込んでいる。目蓋を何度かこすりながら、見慣れた天井に なぜかホッとしてしまう。

側に置いてあったスマホを手に取り時間を確認する。今日は月曜日。また いつもの仕事が始まる最初の日だ。

それにしても夢見が悪かったせいか、軽い偏頭痛に こめかみを押さえて深い ため息をつく。


「ーーはあぁぁ。今回の『夢』は意外にも覚えているだけあって、かなり しんどかった。

なにげに前回の夢の続きっぽい感じだったけど、残念な事に『イケメン皇子』達は出てこないし、それどころか自分が『妖魔』とかあり得んわ。

しかも謎の声には『番』とか言われるし、後からの声の人は ずっと怒ってるしで、もうわけ分かんない。

それに夢の中でずっと頭が痛かったけど、目が覚めても頭が痛いってどうよ。

ああ~もうこんな『夢』は勘弁してよ~  今日から仕事なのに最悪~ とにかく偏頭痛の薬飲まなきゃーーって、あっ!」


私は ふと昨日保護した黒トカゲを思い出した。


「そうだ『クロ』! 昨日保護した黒トカゲの様子を見ないと!」


慌ててベッドから抜け出すと、さっそく黒トカゲの様子を見に行ったーーー




【8ー終】









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