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第3部

【8】因縁の再会⑭(~年上のお友達)

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【8ー⑭】



「あ、出たな! タマちゃんの最強 お邪魔虫!」


まず一声を放ったのは早智さちさんで、あきさんは眉間にしわを寄せて怒っている表情だ。


「誰が最強お邪魔虫だ。意味が分からん。そんな事よりお前等、まだ高校生のタマに変な事を言っていただろ! 

『貧乳』だの『巨乳』だの、特に早智! またれんさんの話を持ち出したりして、どういうつもりだ?」


「いや~ね、暁。密かに盗み聞きなんて。私達は女の子同士の話をしていただけよ? いわば『男子禁制』のね。なのに勝手に話に割り込むなんてデリカシーが無いったら」


「なにがデリカシーが無いだ。『女の子』なのは珠だけだろ? しかもデリカシーが無いのはお、前、等、だ。珠はな、まだ世間知らずの純粋な子供なんだよ。

それなのにそんな卑猥な会話を聞かせて、もし珠に悪影響を与えて何かあったらどうするつもりだ? 親御さんにも申し開き出来ないだろ!」


「うっわ~ 暁って時代錯誤なほど真面目だったんだ? あのさ~ 今時の女子は小学生でもエッチな話とか普通にするよ? 

それにタマちゃんは高3なんだし、もう立派な大人の女じゃん。なのに暁の理想の女の子像を勝手に押し付けるのはどうかと思う」


するとあやさんも早智さんに共感するようにうなずく。


「そうそう、暁の好みのタイプって、大人しくて従順で虫も殺せないような優しい子が好きだもんね~ しかも勿論、胸が大きい子。ー―まあ、しょうがないか~ 暁も『男』だからなあ」


それを聞いて、なんだかモヤモヤと不愉快な気分になってくる。


「………ふぅ~ん。暁さんも『巨乳』が好きなんだ? しかも大人しくて従順で虫も殺さないねぇ。胸の大きい子は沢山いるけど、今時そんな天然記念物な女なんていないと思う。こう言っちゃなんだけど暁さん、女に対して『夢』見過ぎだよ」


「お、おい、珠?」


私の突然の冷ややかな態度に、どうやら暁さんが困惑しているようだ。 すると早智さんが更に後押しするように口を開く。


「タマちゃん、その天然記念物があきの今の『彼女』だから。 しかも その『彼女』結構、胸が大きいし、まさに暁の理想の女の子だもんね。そうでしょ?  暁」


「――っつ、それは今、関係の無い話だろ? 俺は珠を心配してだな」


「べっつに? 私を幾つだと思ってんの?  暁さんにそこまで心配されるほど子供じゃないから! 

それに私は世間知らずとか純粋な子供とか言うけど、これでもR18ゲームとかするし、精神的にもスレてるからエロ話なんて全然平気だよ。

なので残念ながら私は暁さんの理想の女の子には なれないわ。だってほら、私って全然大人しくないし、暁さんにも反抗ばっかりしてるし、粗野で大雑把だし、胸だって貧乳の洗濯板だし?

だから私なんか構ってないで自分の『彼女』を心配すれば? さっきだって『彼女』、すっごく寂しそうだった。 

恋人なんだったら、もう少し気を遣ってあげないとダメじゃん。それなのに、あんな素っ気ない態度は『彼女』さんが可哀想だよ」


そこまで口にして早智さんと綾乃さんが気まずそうに小さく首を振る。


――あれ?


すると暁さんの表情から怒りの感情が消え、無表情ともいえる初めて見る その顔に思わず面食らう。


「暁さん?」


私が声を掛けると、暁さんは小さく息をついた。


「ああ、悪い。俺が余計な干渉を し過ぎたようだな。そうだよな、タマはもう子供じゃないもんな。なのに俺が勝手に口出ししたりして、いい迷惑だったよな、ごめん。これからはなるべく気をつける」


「えっ? ああ、いや、そういうんじゃなくて! ――暁さん、もしかして怒ったの? だったら、こっちこそゴメンね? 私、暁さんを迷惑だなんて全然思ってないよ。 

むしろ、いつも心配掛けて申し訳ないと思ってるし、さっきの態度も暁さんの理想の女の子が私とあまりにも正反対だったから、ちょっと、いじけただけで決して本心からじゃないから」


急に いつもの暁さんらしくない態度に、私も先ほどの『彼女』のように突き放されるのではと、あせって自分の言葉を訂正しようとすると、

暁さんが おもむろに私の前に“白玉あんみつ”の入った透明の器を置いた。


「へ? なに? “あんみつ”?」


「今日のメニューはスイーツも含めて、ほぼ洋食系だからな。だけど珠は生粋の和食系だろ? 

だから即席の有り合わせで作ったから味は保証出来ねーけど、まあ、味といったって出来合いのものを器に盛っただけだから大丈夫だろ」


確かに今日のメニューは若者の集まりなだけあって、ほぼ洋食系で統一され、スイーツも生クリームやチョコレート系で甘い匂いに包まれている。そんな中に“あんみつ”などという和食スイーツなど、今日のメニューには無かったはずだ。


「暁さん、もしかして、私に作ってくれたの?」


「お前、クリーム系はあまり得意じゃないって言ってたじゃん。あ、でも、あんみつは嫌いだったか?」


それを聞いて慌てて首をブンブンと大きく振る。


「ううん!  スッゴい大好き! 私、あんこ系には目がないもん!」


すると暁さんの表情が先ほどとはうってかわって、イケメン力溢れた笑顔になっている。


――おおうっ!  カッコいい!!


「この先輩が可愛い後輩の為に直々に作ってやったんだからな。感激して食えよ?」


「はいっ! ありがとうございます、暁先輩! 勿論、ありがた~く感激して食います!」


私はさっきの気不味い空気の流れをふっしょくするがごとく、少々オーバーアクションで、まるで神様にお祈りするポーズで手を組んで暁さんに向けて「アーメン」と言うと、

間髪入れずに暁さんから「違うだろ」と笑顔の手刀チョップが頭上に入る。そうして暁さんはヒラヒラと片手を振って、この場を離れていった。


「もうっ! 暁さんってば容赦ないんだから!」


そんな暁さんの後ろ姿に恨み言をこぼしていると、側にいた早智さんと綾乃さんが「う~ん、ちょっとマズイかな」と小声で呟いていたので、二人に視線を向けると、

二人の視線は違う方向を向いている。その方向を目で追うと、そこには数人のグループの中にいる暁さんの『彼女』の七奈心さんがこちらをジッと見ていたのだ。


――もしかして、今の見られてた!?


慌てて その視線から逃れるようにうつむくと、ふいに早智さんにグイッと肩を引かれ、先ほど暁さんが置いていったあんみつの方に顔を寄せる形になる。


「え、えっと、早智さーーあっと、いえ、安藤あんどうさん?」


今日知り合ったばかりの年上の人を、すっかり耳慣れしてしまった下の名前で うっかり呼びそうになって、とっに名字で言い直すと、早智さんがニッコリと笑う。


「んもう!  タマちゃんったら。私達は もう お友達なんだから『早智』って呼んで?」


「え? お友達ですか? でも私、年下ですよ?」


私が驚くと、早智さんは首を振る。


「あら、お友達に年齢なんて関係ないわ。それに私達だって『タマちゃん』って愛称で呼んでいるんだもの。だから私達は もう仲良しさんでしょ? 

それに私もタマちゃんみたいな可愛い妹が欲しいの。それなのに暁だけタマちゃんを独占してるなんてズルい! 

――ね、タマちゃんは年上のお友達は苦手かな?」


そんな早智さんからの積極的な“お友達”の申し出に内心戸惑いを隠せなかった。 

何故なら、今まで私と お友達になりたいと言ってきた女子は、そのほとんどが弟の康介こうすけや幼なじみのかなでとお近づきになりたいが為で、過去に友達だったはずの人達から手酷く裏切られた事があり、それ以来、同性には苦手意識があった。

だから正直、今までも自分に近づいてくる同性が怖い。


「あ、あの、お恥ずかしながら、私って昔から同性に極端に嫌われる体質で、多分、私とお友達になっても後から不快になるだけだと思うので、暁さん続きの“知り合い”で いいんじゃないかとーーー」


私は遠回しに、やんわりと断ると、早智さんは悲痛な表情で私の両手を包むようにギュッと握る。


――へっ? なんで??


「タマちゃん! 今までずっと一人で苦労して来たんだね? タマちゃんが美人なだけに、それを妬む女達からそれは陰湿にいびられたんでしょ。なんて可哀想に。しかも男が絡むと女って嫌な方に豹変するからな~」


そう言って早智さんは何故かチラリと七奈心さんがいる方向を見る。 私はさっきから気まずくて見れないけど。


「でも私や綾乃、それに桃華も大丈夫だから安心して? 私達はそういう理不尽な事は大嫌いなの。 

勿論、人の感情だから嫉妬もするし、妬みもするかもしれないけど、だからといって、お門違いの理由から不満を他人にぶつけるなんて、それこそ根性悪の底辺だもの。私はそんな最低の女にはなりたくないわ。

だけど確かに今日知り合ったばかりの人間に、いきなりこんな事を言われても戸惑うよね。私もタマちゃんの気持ちも考えずに一方的だったって反省してる。

だから取り敢えず、“知り合いのお友達”から初めてみない?     私、絶対タマちゃんと仲良くなれると思うの!」


すると綾乃さんもニッコリと笑う。


「タマちゃん、私も早智と同じであなたと仲良くなりたいわ。どうやら早智はあなたに一目惚れしたみたいね。しかも早智の人をみる目は確かだから、早智の友人達は暁も含めて皆、良い人達ばかりが集まるの」


うん、確かに桃華さんも早智さんも綾乃さんも優しくて親切で良い人達だ。それに暁さんが親しくしている友人に悪い人なんかいないと思う。

だけど私の場合はーー小学校からずっと仲良くしていた友人達に中学の時に裏切られた。親友だと思っていたのに、そう思っていたのは私だけだった。

そんな豹変した友人達から浴びせられた言葉は『本当はあんたなんか大嫌いだった』『男、はべらせて調子に乗るんじゃねーよ!このブス!』

ーーという顛末てんまつの少女漫画とかで、よくあるシーンだ。


男侍らすもなにも、康介は実の弟だし奏はその友人で幼なじみで親しいというだけだ。それに普通に話し掛けてくる男子とちょっと世間話をしたくらいで、“侍らす”事になるんだろうか? 

――まあ、それもよく分からない内にハブられたんだけどね。


そんなこんなで、私は特に同性に対しての不信感から『友人』に対して すっかりトラウマになってしまっていた。 それは今でも深層意識の中で続いている。


「ありがとうございます。お二人が良い人なのは見ていても分かります。

それになにより暁さんのご友人ですから。だけど私は酷く“人見知り”なので、まずは“お知り合いの友人”からでお願い出来ますか?」


私が出した答えは、取り敢えず二人の事は嫌ではないし暁さんの友人でもあるし、男絡みの問題もないので、

これから大人社会に出ていくコミュニケーションの一環として、まずは広く浅く交流しても良いだろうと、手前勝手ながら答えると、早智さんと綾乃さんの表情が嬉しそうに緩む。


「やったね! しかも美少女の『妹』ゲットだぜ! もう暁に妹自慢の独り占めなんてさせないもんね~ ありがとね!タマちゃん。これからは私の事は『さっちゃん』とか『お姉ちゃん』って呼んでね?」


「は、はい。早智、お、お姉さん」


さすがに今日会ったばかりの、しかも年上の人にいきなり『ちゃん』づけはおそれ多いので暁さん同様に『さん』づけで呼ぶと、綾乃さんもニコニコしながら、


「ふふっ、私も同じように呼んで? あと名字で呼ぶのはダメだからね? 私達もうお友達なんだから。それから今度タマちゃんにお友達特権で暁の面白い話を教えてあげる」


「え? あっ、はい。楽しみです。綾乃さん」


こうして私は意外な場所で同性のしかも『年上のお友達』が二人も出来てしまった


う~ん。どうしよう。『お友達』なんて、今更どうやって付き合えばいいのか、もう覚えてないよ。 ……それに また嫌われちゃうかもしれないし。


ーー私、大丈夫かな?




【8ー続】








 
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