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第3部

【8】因縁の再会⑧(~暁さんは過保護)

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【8ー⑧】



「ふえぇぇ~ん! あきさぁあん!! この お姉さんに喰われるぅぅ。助けてぇぇ~」


私は早智さちさんに抱きつかれたまま暁さんに手を振って助けを求めると、暁さんが慌てて駆け寄ってきて、私の体から早智さんを引きはがして自分の背中に隠す。


「お前等、一体なにやってんだよ! それに早智もなんでタマに抱きついてるんだ? そんなよってたかって女子高生を苛めるなんて、いくらなんでも大人のやる事じゃないだろ!?」


暁さんが そんな彼女達に怒ると、早智さんは私から離れて肩をすくめる。


「はいはい。こわ~いシスコンお兄ちゃんの登場とはね。暁もそんなに怒んないでよ。

しかも苛めてたなんて、そんなわけないでしょ? ただタマちゃんが あまりにも可愛くって警戒心が全く無いから実践じっせんで教えてあげてただけ」


「どういう事だよ?」


暁さんの問いに今度はあやさんが答える。


「え~っとね? そこのタマちゃんがなんの警戒心もなく気軽にとうの弟くんの体に触るから、弟くんが男にむやみに触ったら駄目だって注意したんだけど、

それに対して彼女が意味をあまり理解していない様だったから、早智がこういう事だよって抱きついたってわけ」


「はあぁ!? ーーおい、こら!! 珠っつ!!」


「はいいぃぃ!!」


暁さんは それを聞いた途端、くるりと後ろにいる私の方を向いたかと思うと怖い表情で、しかも怒った口調で話し掛けてくるので、私の返事も思わず裏返ってしまう。


「俺、前にも言ったよな? 男に気安く触ったら駄目だって、危ないぞって。しかも今回で3回目だ。もしかして、もう忘れたのか?」


ーーひえぇぇぇ、暁さんが怖いっつ! しかもウチのお父さんよりも怖いから!!


「い、いや、忘れてないよ? 周りからもよく言われてるし」


「だったら尚の事、どうして学習しない? 珠は もう子供じゃないんだからそれくらい分かるだろ? 男は皆『狼』だ。いつどこで理性を失った悪い狼に襲われて喰われるか分からないんだぞ?」


「そ、そんな事分かってるよ。だけど いくら私だって誰それ関係なく男に触るわけないじゃん。そんな事すれば下手したら女の痴漢だと思われて、こっちが犯罪者扱いされるかもしれないし?」


「珠、お前は根本的に思考がズレてる。そういう事じゃない」


「根本的に思考がズレてるって、それなら何が違うっていうの? 男に触るなって、それって身内や知り合いも触ったら駄目だって事? 

そんなの おかしいよ! それを言うなら誰にも触るなって事でしょ!? そうなると世界中が男女別々に分かれて生活しないといけないじゃん! そうなったら人類滅亡確定だね!」


私は一方的に怒られて苛々してきたので、つい反抗的な態度で暁さんからプイッとそっぽを向いていると、暁さんが小さく ため息をつくのが分かった。そして今まで怒っていた口調が柔らかくなる。


「珠、俺はお前の事が心配で言ってるんだよ。俺だって身内や知り合いまで触っては駄目だなんて言わない。ただ お前の認識が現実とズレているのも確かだから、そこは素直に分かってくれ。

現実の男は乙女ゲームの世界の男とは違って創作されたものではないから『理性』と『本能』のバランスで感情を保っている。

だけど男は本来『本能』の強い生き物だから『理性』が強い女とは違って、時に小さな きっかけで『理性』のたがが外れてしまう事だってあるんだよ。それが異性から触られたりすると尚更 起こりやすいんだ。

しかもそれは自然の摂理で自分の子孫を残そうとする生物としての本来の本能だから自分の意思でも止められない事もある。

だから珠も異性に触るにしても、そういう事もあるんだって自覚して欲しいんだ。

さっき早智に抱きつかれていたみたいに、これがもし暴漢だったら、いざ助けを求めたところで誰もいない事だってあるんだからな?」


ーーううっ、確かに暁さんの言う通りカモ。私の現実世界の異性への認識が甘かったかもしれない。 

そうだよね。ここは乙女ゲーの世界じゃないんだから、女なら若けりゃ誰でも良いっていう変態男も世には いるらしいもんね。

でも身内は勿論だけどかなでや暁さんとかなら触ってもセーフだよね? あ、あとづき若村わかむらも大丈夫かな? それと他の『生徒会』メンバーは? 

………う~ん。こうなってくると線引きが難しいな。考えてみれば私って#結構 気軽に他人に触っちゃってるかもしれない。

だけど、それも昔から有島家との関係で外国習慣との接点があるだけに、そういうコミュニケーションにはたちばな家の人間はもう慣れちゃってるんだよな。習慣の違いの認識って案外 難しい。


「う、うん。分かった。これからは もっと気をつける。暁さん、さっきは態度悪くて ごめんね? それと心配してくれて ありがとう」


私が暁さんに頭を下げると、暁さんは笑顔で「珠は本当にいい子だな、よしよし」と、まるで小さな子供を誉めるように私の頭をポンポンと優しく撫でる。


そんな私達の様子を見ていた早智さんがニヤニヤしながら、こちらを覗き込んできた。


「ふふ~ん。予想以上に暁の立派な『お兄ちゃん』ぶりを拝見しちゃったな~ いや、もうここまできたら『お父さん』? しかもまだ独身のくせして、どこでそんなスキル覚えてきたの?」
 

「早智、いくらなんでも、まだ20代の俺に高校生の『お父さん』はないだろ? それにこれは俺の叔父さん。つまりここのオーナーから受けた教育の受け売りみたいなもんだよ」


「へえぇ、するとオーナーがあきの教育係なんだ? 確か『れんさん』だっけ? ビジュアル的にもすっごくカッコいいよね。 

私、ああいう知性に溢れたセクシーな大人の男性って、めっちゃタイプなんだケド、『おネエ』だなんて勿体無さすぎるぅ。しかも外見だけなら男性でイケメンなのにぃぃ」


すると綾乃さんがクスクスと笑う。


「だったら早智、ダメ元でアタックしてみれば? 一応独身だっていうし、昔は一度 結婚もしていたみたいだから、もしかしたら奇跡が起こるかもよ?」


それを聞いていた桃華さんも笑う。


「あはは、それって面白そう。早智、頑張ってみる? しかもオーナーの廉さんって他にも不動産を幾つも所有している経営者だって話だし、そんな廉さんを落とす事が出来れば、まさに『玉の輿』だよ? それに結婚したら暁の叔母さんにもなれるし?」


「おいおい、桃華。 面白がって適当な事を言うんじゃねーよ。しかも同い歳の叔母さんなんて冗談キツイぜ。

それと期待を持たせないように言っておくけどな、廉さんの好みのタイプはアイドル系のセクシー美少年だ。早智には悪いが挑む相手が悪すぎる。諦めろ」


「うっ、分かってるってば。私は勿体無いって言っただけで、そもそも分不相応な高望みも頑張る気もサラッサラないから。

だって一応これでも女としてのプライドがあるのに、いくら美少年でも男に負けただなんて屈辱 味わいたくない。 一生トラウマになるもん」


そんな やり取りをしていたところに、丁度 噂をしていた黒いタキシードスーツ姿のイケメン廉さんが姿を現した。




【8ー続】
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