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第3部
【8】因縁の再会④(~ヒーローじゃない)
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【8ー④】
『原石』の店先で私は少々 迷っている。ーーと言っても出席するのが今更 嫌になった………というわけではない。
ただいつものように裏口から入ればいいのか表から入ればいいのか迷っていたのだ。
今日は『原石』のお店自体はお休みなので、ちらほら店の正面から入っていくのは本日のパーティーの招待客だろう。スーツを着た男の人やオシャレなワンピースなどを着た女の人の姿が見える。
私は先ほど花屋で購入したお花のアレンジメントを持ったまま改めて自分の格好を見直す。
「う~ん………やっぱり学校の制服は場違いだったかなあ。しかもかえって悪目立ちしそう……… でもお母さんのフォーマルは趣味じゃないし、まあ、今更 言っても しょうがないんだケド。
ーーそれは さておき問題です。私は どちらの入り口から入ればいいのでしょう?
お店の従業員という立場からでいけば『裏口』から、しかし招待客としては『正面』から? う~ん、やはりここは『正面突破』か!? ーーって、討ち入りする気かよ! 私!」
などと店先で独り言を呟いていた時、店の中から私を今日のパーティーに招待した本人である『ヒーロー』君が姿を現した。本当に変わったお名前だなあ『ヒーロー』君。
「橘先輩ーー本当に来たんですか」
意外そうな口ぶりで愛想もなく言う『ヒーロー』君に対して私は「ふふん」と鼻で笑う。
「あったり前でしょ! 私の人権問題に関わる事だし、今日こそ君の『正体』をつきとめてやるんだから! ーーって、あわわ」
探偵きどりでビシッと指差そうとして折角 用意したお花のアレンジメントを落とすところだった。ーー危ない 危ない。
そんな私の慌てぶりを見て、なんと『ヒーロー』君の顔に笑みが浮かぶ。
ーーあ、『春人クン』スマイルには、まだまだだけど意外にも可愛いぞ?
「人権問題って随分と深刻そうだけど、子供のする事にそこまで深読みする事もないと思うけど。しかも俺の『正体』とかって、なんだか俺が『悪者』っぽいですよね」
それを聞いて私は慌て訂正する。
「あっ!! ごめん ごめん!! 違う 違うから!! そういう意味で言ったんじゃないよ。
今日こそ私の埋もれている記憶を総動員して『ヒーロー』君の事を思い出すぞーー!! っていう自分への意気込みだから。
しかも『ヒーロー』君の事を悪者だなんて とんでもない。だけど気を悪くしてしまったなら謝るよ。ごめんなさい」
私はすかさず頭を下げると『ヒーロー』君は肩を落とすように小さく息を落とす。
「別に謝る事じゃないですから。俺もそういう意味で言ったわけじゃなく、冗談の きり返しのようなものです。だから気にしないで下さい」
「えっ? 冗談? 『ヒーロー』君が?」
「先輩、それはどういう“意味合い”ですか?」
先ほど見た笑顔が幻でもあったかのように『ヒーロー』君の表情が無愛想に戻り、こちらをジロリと睨むので、私は空いている片手を横に振る。
「あ、いや、ただ『ヒーロー』君の雰囲気からして冗談を言いそうにないな~って、単純に思っただけで特に意味なんて無いんだよ、うん」
「俺だって普通に冗談くらい言います。それと橘先輩。いまだ勘違いしているようですが、俺の名前は『ヒーロー』じゃなく『緋色』です」
「えっ、『ヒイロ』?『ヒーロー』じゃ無く?」
「はい。昨日も違うと言ったはずですが、しかも普通に考えて『ヒーロー』なんて名前があるわけないじゃないですか」
そんな緋色くんの指摘に私はヘラヘラ顔で自分の頭を掻く。
「あはは、いや~そうだよね。でもさ、今のご時世、キラキラネームとかあるじゃん。だから親御さんが正義の味方が好きで自分の子供に付けたのかなあ~?と。だから珍しい名前だなあって思ってたんだよね~」
すると緋色くんは呆れ顔で首を横に振る。
「そんな名前を子供に付ける親なんて、子供の人生を何も考えていない自己満足な傲慢ですね。ーーまあ、俺の名前もそれに近い感じではありますけど」
「え、そうかな?『ヒイロ』なんてすごく綺麗な名前じゃない。君によく似合ってると思うケド。ちなみにどういう字で書くの?」
「赤い色を意味するそのままの『緋色』です。“いとへん”に非常口の“非”そして色彩の“色”ですね」
「へぇ~ いいじゃん。すごくオシャレで綺麗な名前。私の方は真珠の“珠”に里山の“里”と書いて『珠里』。私はお母さんの名前の漢字を一文字取ったんだって。よくありがちで普通過ぎっていうの?」
「………そんな事はないです。綺麗な名前だと思います」
「え? ええっと、あ、ありがと」
緋色くんの まさかの誉め言葉返しに、なんだかこそばゆいような照れくさい気分になって思わず話題を逸らす。
「あ! そうだ!これ お姉さんへのご結婚祝いの お花なの。後でお姉さんに渡して貰えるかな?」
私は持っていたお花のアレンジメントを緋色くんに突き出すと、緋色くんは戸惑うような表情で それを受け取ってくれる。
「………ありがとうございます、先輩。姉も きっと喜びます。でもそれって、俺が招待状を渡したから気を遣わせてしまいましたよね? そんなつもりは全く無かったのにーーすいません」
そう言って緋色くんが頭を下げるので、私は今しがた自由になった両手を大きく横に振る。
「いやいや、気を遣ったってほどの大層なものじゃなくって、折角こうして お知り合いになったご縁という事でお近づきのしるしにって事で。
お姉さんってすごく優しい人だし、これからも お店を通じてお世話になるかもしれないでしょ?
それよりもさ、私、本当に学校の制服で来ちゃったんだけど、やっぱ場違いじゃない? 見たところお客さんって、みんなオシャレな格好してるし、
なんだか私だけ悪目立ちしそうな感じだし、かえって迷惑になるかもしれないから、ここはお姉さん達に挨拶だけして早々にお暇しようかな………」
私は次々にお店に入っていく客を見ながら言うと、緋色くんは突然 私の腕の袖を引っ張る。
「ーー来て」
「え? えっ?」
驚いて戸惑う私を他所に緋色くんが私の袖を掴んだまま、まるで連行するかのように店の中へと歩いて行く。
「あ、あの、ちょっと、緋色くん?」
「あんな所で立ち話もないですから。それに時間も押し迫っている事だし中に入って下さい」
そんな私は緋色くんに引っ張られたまま店内へと足を踏み入れる。
「ああっつ!」
突如私が大きな声を上げたので、緋色くんが立ち止まって私の方を振り返った。
「先輩? どうしたんですか?」
「緋色くん! 私、正面から入ってもいいのかな? 一応ここの従業員だし裏口から入らないと駄目かな?って、さっき君が来るまで ずっと迷ってたんだよね」
それを聞いて緋色くんは大きなため息をつく。
「そんなどうでもいい事をずっと迷っていたって先輩、ホントに馬鹿ですか? そんなのどっちだっていいし、そもそも招待客なんだから堂々と正面から入ればいいだろ?」
「ば、馬鹿って、そんなハッキリーーだってさ、私はここの従業員なんだもん。迷うのも仕方なくない?」
「はあ………分かりました。それじゃあ迷いも解決したところで、さっさと中に入るよ、橘先輩」
「ううっ、なんかショックぅぅ。『春人』クンが冷たいぃぃ」
「先輩、俺は『春人』ではなく『緋色』ですから」
そんな外見だけは『春人』クン似の緋色君は再び私を店内へと連行して行ったのだった。
【8ー続】
『原石』の店先で私は少々 迷っている。ーーと言っても出席するのが今更 嫌になった………というわけではない。
ただいつものように裏口から入ればいいのか表から入ればいいのか迷っていたのだ。
今日は『原石』のお店自体はお休みなので、ちらほら店の正面から入っていくのは本日のパーティーの招待客だろう。スーツを着た男の人やオシャレなワンピースなどを着た女の人の姿が見える。
私は先ほど花屋で購入したお花のアレンジメントを持ったまま改めて自分の格好を見直す。
「う~ん………やっぱり学校の制服は場違いだったかなあ。しかもかえって悪目立ちしそう……… でもお母さんのフォーマルは趣味じゃないし、まあ、今更 言っても しょうがないんだケド。
ーーそれは さておき問題です。私は どちらの入り口から入ればいいのでしょう?
お店の従業員という立場からでいけば『裏口』から、しかし招待客としては『正面』から? う~ん、やはりここは『正面突破』か!? ーーって、討ち入りする気かよ! 私!」
などと店先で独り言を呟いていた時、店の中から私を今日のパーティーに招待した本人である『ヒーロー』君が姿を現した。本当に変わったお名前だなあ『ヒーロー』君。
「橘先輩ーー本当に来たんですか」
意外そうな口ぶりで愛想もなく言う『ヒーロー』君に対して私は「ふふん」と鼻で笑う。
「あったり前でしょ! 私の人権問題に関わる事だし、今日こそ君の『正体』をつきとめてやるんだから! ーーって、あわわ」
探偵きどりでビシッと指差そうとして折角 用意したお花のアレンジメントを落とすところだった。ーー危ない 危ない。
そんな私の慌てぶりを見て、なんと『ヒーロー』君の顔に笑みが浮かぶ。
ーーあ、『春人クン』スマイルには、まだまだだけど意外にも可愛いぞ?
「人権問題って随分と深刻そうだけど、子供のする事にそこまで深読みする事もないと思うけど。しかも俺の『正体』とかって、なんだか俺が『悪者』っぽいですよね」
それを聞いて私は慌て訂正する。
「あっ!! ごめん ごめん!! 違う 違うから!! そういう意味で言ったんじゃないよ。
今日こそ私の埋もれている記憶を総動員して『ヒーロー』君の事を思い出すぞーー!! っていう自分への意気込みだから。
しかも『ヒーロー』君の事を悪者だなんて とんでもない。だけど気を悪くしてしまったなら謝るよ。ごめんなさい」
私はすかさず頭を下げると『ヒーロー』君は肩を落とすように小さく息を落とす。
「別に謝る事じゃないですから。俺もそういう意味で言ったわけじゃなく、冗談の きり返しのようなものです。だから気にしないで下さい」
「えっ? 冗談? 『ヒーロー』君が?」
「先輩、それはどういう“意味合い”ですか?」
先ほど見た笑顔が幻でもあったかのように『ヒーロー』君の表情が無愛想に戻り、こちらをジロリと睨むので、私は空いている片手を横に振る。
「あ、いや、ただ『ヒーロー』君の雰囲気からして冗談を言いそうにないな~って、単純に思っただけで特に意味なんて無いんだよ、うん」
「俺だって普通に冗談くらい言います。それと橘先輩。いまだ勘違いしているようですが、俺の名前は『ヒーロー』じゃなく『緋色』です」
「えっ、『ヒイロ』?『ヒーロー』じゃ無く?」
「はい。昨日も違うと言ったはずですが、しかも普通に考えて『ヒーロー』なんて名前があるわけないじゃないですか」
そんな緋色くんの指摘に私はヘラヘラ顔で自分の頭を掻く。
「あはは、いや~そうだよね。でもさ、今のご時世、キラキラネームとかあるじゃん。だから親御さんが正義の味方が好きで自分の子供に付けたのかなあ~?と。だから珍しい名前だなあって思ってたんだよね~」
すると緋色くんは呆れ顔で首を横に振る。
「そんな名前を子供に付ける親なんて、子供の人生を何も考えていない自己満足な傲慢ですね。ーーまあ、俺の名前もそれに近い感じではありますけど」
「え、そうかな?『ヒイロ』なんてすごく綺麗な名前じゃない。君によく似合ってると思うケド。ちなみにどういう字で書くの?」
「赤い色を意味するそのままの『緋色』です。“いとへん”に非常口の“非”そして色彩の“色”ですね」
「へぇ~ いいじゃん。すごくオシャレで綺麗な名前。私の方は真珠の“珠”に里山の“里”と書いて『珠里』。私はお母さんの名前の漢字を一文字取ったんだって。よくありがちで普通過ぎっていうの?」
「………そんな事はないです。綺麗な名前だと思います」
「え? ええっと、あ、ありがと」
緋色くんの まさかの誉め言葉返しに、なんだかこそばゆいような照れくさい気分になって思わず話題を逸らす。
「あ! そうだ!これ お姉さんへのご結婚祝いの お花なの。後でお姉さんに渡して貰えるかな?」
私は持っていたお花のアレンジメントを緋色くんに突き出すと、緋色くんは戸惑うような表情で それを受け取ってくれる。
「………ありがとうございます、先輩。姉も きっと喜びます。でもそれって、俺が招待状を渡したから気を遣わせてしまいましたよね? そんなつもりは全く無かったのにーーすいません」
そう言って緋色くんが頭を下げるので、私は今しがた自由になった両手を大きく横に振る。
「いやいや、気を遣ったってほどの大層なものじゃなくって、折角こうして お知り合いになったご縁という事でお近づきのしるしにって事で。
お姉さんってすごく優しい人だし、これからも お店を通じてお世話になるかもしれないでしょ?
それよりもさ、私、本当に学校の制服で来ちゃったんだけど、やっぱ場違いじゃない? 見たところお客さんって、みんなオシャレな格好してるし、
なんだか私だけ悪目立ちしそうな感じだし、かえって迷惑になるかもしれないから、ここはお姉さん達に挨拶だけして早々にお暇しようかな………」
私は次々にお店に入っていく客を見ながら言うと、緋色くんは突然 私の腕の袖を引っ張る。
「ーー来て」
「え? えっ?」
驚いて戸惑う私を他所に緋色くんが私の袖を掴んだまま、まるで連行するかのように店の中へと歩いて行く。
「あ、あの、ちょっと、緋色くん?」
「あんな所で立ち話もないですから。それに時間も押し迫っている事だし中に入って下さい」
そんな私は緋色くんに引っ張られたまま店内へと足を踏み入れる。
「ああっつ!」
突如私が大きな声を上げたので、緋色くんが立ち止まって私の方を振り返った。
「先輩? どうしたんですか?」
「緋色くん! 私、正面から入ってもいいのかな? 一応ここの従業員だし裏口から入らないと駄目かな?って、さっき君が来るまで ずっと迷ってたんだよね」
それを聞いて緋色くんは大きなため息をつく。
「そんなどうでもいい事をずっと迷っていたって先輩、ホントに馬鹿ですか? そんなのどっちだっていいし、そもそも招待客なんだから堂々と正面から入ればいいだろ?」
「ば、馬鹿って、そんなハッキリーーだってさ、私はここの従業員なんだもん。迷うのも仕方なくない?」
「はあ………分かりました。それじゃあ迷いも解決したところで、さっさと中に入るよ、橘先輩」
「ううっ、なんかショックぅぅ。『春人』クンが冷たいぃぃ」
「先輩、俺は『春人』ではなく『緋色』ですから」
そんな外見だけは『春人』クン似の緋色君は再び私を店内へと連行して行ったのだった。
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