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第2部

【6】カフェバー『原石』①ー3

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【6ー①】



私は唯一、自分用に用意された個室で男子従業員と同じ黒いベストとズボンに桃色ネクタイを締め、私用に白もしくは薄いピンクのブラウスが用意されているので、今日はピンクのブラウスで従業員の制服に着替える。


バイトを始めたばかりの頃は、れんさんが昔の女子従業員用のメイド服もあるので、どっちにするか聞かれたが、

勿論 私はそんなヒラヒラ、フリフリのメイド服など自分に選択肢があるのなら絶対に嫌です。と即答した。

それでなくとも普段でさえ私は女の子した洋服など全く着用しないのに、そんな乙女感全開のメイド服など、私にしてみれば究極の羞恥プレイとしか言い様がない。
 

廉さんも確かにウチは男所帯で若い男の子ばかりだし、勿論 彼等を信用してはいるけれど、

男は本能の生き物でもあるから、万が一、たがが外れて襲われでもしたら大変だわ! 

という事で、私は男子従業員と同じ格好で従事する事となった。

そもそも洒落っ気ひとつない人生ヌボーッと生きている地味子の私を襲う奇特な輩など まず存在しないと思う。


そして、ここ『原石』では従業員は全て源氏名として下の名前だけがカタカナで表記されたネームプレートをそれぞれ胸に付けているが、

私の場合は唯一の女子従業員な事もあり、私の身の安全の為に、ネームプレートは付けなくてもいいように廉さんから配慮されている。

なので他の従業員達は各自、私を好きなように呼んでいる。あきさんが私を『タマ』と呼ぶのもそういった事情だ。


私は制服に着替えそのまま、二階のカクテルバーの店内に入ると、数人の従業員が室内の飾り付けなどをしていて、

カウンターとは別のテーブル席で廉さんと暁さんが今回の主役の新郎新婦であろう若い二人と、その新婦の隣には中、高校生くらいの男の子が座っており、打ち合わせの最中のようだった。

そして私はというと、思わずその男の子をガン見してしまう。


………ウソ。あの子、似てる。


その男の子は多分髪型のせいだろうが、自分が現在 愛してやまない乙女ゲーの『はる』クンによく似ていたからだ。 

多分 現代の『春人』クンなら、こんな感じだろうなあ~という、そんな感じにーーー


すると、そんな私の存在に気付いた暁さんが席を立って私を手招きする。


「おータマ! 来たか!  こっち こっち」


私は打ち合わせ中なのに、いいのかなあ? と思いつつテーブルに近付いた。そして新郎新婦達に「いらっしゃいませ」と声を掛けると、暁さんが私の肩を引き寄せて紹介する。


せい先輩、とう。 コイツが俺の可愛い妹分の『珠』で、この店の唯一の紅一点。 

んでもって珠、こっちが俺の大学の先輩で坂下さかしたさんと同級のかしわと その弟くんだ」


「は、初めまして。私はこの店のバイトでたちばなといいます。えっと、この度はご結婚おめでとうございます」


「ああ、ありがとう。俺は坂下 誠司です。そうか~ 君が暁から聞いていた噂の『タマ』ちゃんか。 スッゲェ美人さんじゃん。もしかしてモデルとかやってるの?」


「めめ、滅相もございません! 私ごときがその様な大それた真似など恐れ多い。しかも決して美人などでもなく、その辺の道端の石コロ同然ですので、どうぞお気遣いなく」


私は慌てて片手をぶんぶんと左右に振って否定すると、坂下さんと柏木さんがニコニコと笑っている。


「あなたが『タマ』ちゃんね? 暁が自慢するわけだわ、本当に可愛い。私は暁と同じ大学の同級生で友人の柏木 桃華です。よろしくね? 

それにしても『タマ』ちゃんが、こんなに綺麗な可愛い子でかえって心配。ねえ、『タマ』ちゃん? まさかとは思うけど、暁に悪戯とか、セクハラとかされてない?」


新婦の桃華さんの言葉に暁さんが呆れた様に肩をすくめる。
 

「おいおい、ダチを犯罪者扱いすんなよな。しかも、そんな素振りを少しでも見せようものなら、このマスターに殺される」


「あら、そんなんじゃ、生ぬるいわよ。私の可愛い珠里ちゃんにそんな真似をしようものなら、その御大層な逸物イチモツちょん切って二度と使い物に出来なくしてやるつもりよ? 

しかも暁、さっきから、どさくさに紛れて気安くその子の肩に触らないで頂戴。変な真似をしたらーー勿論、分かっているわよね?」


廉さんは そう言って中指と人差し指を立ててハサミでチョッキンするように見せると、ノリの良い暁さんは自分の股間を隠すように押さえている。


ーーあははは、廉さん、怖いですな。そして今の会話も未成年の前に対して、ちょっとセクハラ入っているケド。ーーわははは。


そうやって皆が笑って和んでいる中で桃華さんの弟クンだけがムスッとしたまま、先ほどからずっと、こちらと視線を合わせようとはしない。


弟クン、どうしたのかな? もしかしなくても機嫌が悪い?


ーーなので、私も視線が合わない事をいい事に先ほどから少々彼を観察していたりする。


そんな弟クンは髪型は長めの黒髪艶サラ、ストレートで色白の育ちの良い上品な お坊っちゃまといった感じで、イメージ的にはピアノとかバイオリンとかの習い事をやっていそうにも見える。

実は乙女ゲーの『春人』クンが そういう容貌で、しかもピアノが弾けるんだよね~ そしてなんといっても笑顔がメッチャ可愛いの♡

だけど、こっちの弟クンは外見は『春人』クンでも仏頂面でムスッとしてるし。 

う~ん、こっちの『春人』クンも笑ってくれないかな? ~お~い!  こら!  笑え!


そうやって、あまりにジロジロと見過ぎたからか、いきなり弟クンがこちらに視線を向け眉間にしわを寄せて睨むので、思わず「ヤバッ」と慌てて視線を逸らした。


ひょえぇぇ~  ジロジロ見過ぎた。きっと薄気味悪い変な女だと思ったよね? だって『春人』クンに似てるから思わず観察しちゃったよ。


すると、お姉さんの桃華さんが そんな弟クンの肩をトントンとつつく。




【6ー続】







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