41 / 73
第2部
【6】カフェバー『原石』①ー3
しおりを挟む
【6ー①】
私は唯一、自分用に用意された個室で男子従業員と同じ黒いベストとズボンに桃色ネクタイを締め、私用に白もしくは薄いピンクのブラウスが用意されているので、今日はピンクのブラウスで従業員の制服に着替える。
バイトを始めたばかりの頃は、廉さんが昔の女子従業員用のメイド服もあるので、どっちにするか聞かれたが、
勿論 私はそんなヒラヒラ、フリフリのメイド服など自分に選択肢があるのなら絶対に嫌です。と即答した。
それでなくとも普段でさえ私は女の子した洋服など全く着用しないのに、そんな乙女感全開のメイド服など、私にしてみれば究極の羞恥プレイとしか言い様がない。
廉さんも確かにウチは男所帯で若い男の子ばかりだし、勿論 彼等を信用してはいるけれど、
男は本能の生き物でもあるから、万が一、箍が外れて襲われでもしたら大変だわ!
という事で、私は男子従業員と同じ格好で従事する事となった。
そもそも洒落っ気ひとつない人生ヌボーッと生きている地味子の私を襲う奇特な輩など まず存在しないと思う。
そして、ここ『原石』では従業員は全て源氏名として下の名前だけがカタカナで表記されたネームプレートをそれぞれ胸に付けているが、
私の場合は唯一の女子従業員な事もあり、私の身の安全の為に、ネームプレートは付けなくてもいいように廉さんから配慮されている。
なので他の従業員達は各自、私を好きなように呼んでいる。暁さんが私を『タマ』と呼ぶのもそういった事情だ。
私は制服に着替えそのまま、二階のカクテルバーの店内に入ると、数人の従業員が室内の飾り付けなどをしていて、
カウンターとは別のテーブル席で廉さんと暁さんが今回の主役の新郎新婦であろう若い二人と、その新婦の隣には中、高校生くらいの男の子が座っており、打ち合わせの最中のようだった。
そして私はというと、思わずその男の子をガン見してしまう。
………ウソ。あの子、似てる。
その男の子は多分髪型のせいだろうが、自分が現在 愛してやまない乙女ゲーの『春人』クンによく似ていたからだ。
多分 現代の『春人』クンなら、こんな感じだろうなあ~という、そんな感じにーーー
すると、そんな私の存在に気付いた暁さんが席を立って私を手招きする。
「おー珠! 来たか! こっち こっち」
私は打ち合わせ中なのに、いいのかなあ? と思いつつテーブルに近付いた。そして新郎新婦達に「いらっしゃいませ」と声を掛けると、暁さんが私の肩を引き寄せて紹介する。
「誠司先輩、桃華。 コイツが俺の可愛い妹分の『珠』で、この店の唯一の紅一点。
んでもって珠、こっちが俺の大学の先輩で坂下さんと同級の柏木と その弟くんだ」
「は、初めまして。私はこの店のバイトで橘といいます。えっと、この度はご結婚おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。俺は坂下 誠司です。そうか~ 君が暁から聞いていた噂の『タマ』ちゃんか。 スッゲェ美人さんじゃん。もしかしてモデルとかやってるの?」
「めめ、滅相もございません! 私ごときがその様な大それた真似など恐れ多い。しかも決して美人などでもなく、その辺の道端の石コロ同然ですので、どうぞお気遣いなく」
私は慌てて片手をぶんぶんと左右に振って否定すると、坂下さんと柏木さんがニコニコと笑っている。
「あなたが『タマ』ちゃんね? 暁が自慢するわけだわ、本当に可愛い。私は暁と同じ大学の同級生で友人の柏木 桃華です。よろしくね?
それにしても『タマ』ちゃんが、こんなに綺麗な可愛い子でかえって心配。ねえ、『タマ』ちゃん? まさかとは思うけど、暁に悪戯とか、セクハラとかされてない?」
新婦の桃華さんの言葉に暁さんが呆れた様に肩を竦める。
「おいおい、ダチを犯罪者扱いすんなよな。しかも、そんな素振りを少しでも見せようものなら、このマスターに殺される」
「あら、そんなんじゃ、生ぬるいわよ。私の可愛い娘にそんな真似をしようものなら、その御大層な逸物ちょん切って二度と使い物に出来なくしてやるつもりよ?
しかも暁、さっきから、どさくさに紛れて気安くその子の肩に触らないで頂戴。変な真似をしたらーー勿論、分かっているわよね?」
廉さんは そう言って中指と人差し指を立ててハサミでチョッキンするように見せると、ノリの良い暁さんは自分の股間を隠すように押さえている。
ーーあははは、廉さん、怖いですな。そして今の会話も未成年の前に対して、ちょっとセクハラ入っているケド。ーーわははは。
そうやって皆が笑って和んでいる中で桃華さんの弟クンだけがムスッとしたまま、先ほどからずっと、こちらと視線を合わせようとはしない。
弟クン、どうしたのかな? もしかしなくても機嫌が悪い?
ーーなので、私も視線が合わない事をいい事に先ほどから少々彼を観察していたりする。
そんな弟クンは髪型は長めの黒髪艶サラ、ストレートで色白の育ちの良い上品な お坊っちゃまといった感じで、イメージ的にはピアノとかバイオリンとかの習い事をやっていそうにも見える。
実は乙女ゲーの『春人』クンが そういう容貌で、しかもピアノが弾けるんだよね~ そしてなんといっても笑顔がメッチャ可愛いの♡
だけど、こっちの弟クンは外見は『春人』クンでも仏頂面でムスッとしてるし。
う~ん、こっちの『春人』クンも笑ってくれないかな? ~お~い! こら! 笑え!
そうやって、あまりにジロジロと見過ぎたからか、いきなり弟クンがこちらに視線を向け眉間に皺を寄せて睨むので、思わず「ヤバッ」と慌てて視線を逸らした。
ひょえぇぇ~ ジロジロ見過ぎた。きっと薄気味悪い変な女だと思ったよね? だって『春人』クンに似てるから思わず観察しちゃったよ。
すると、お姉さんの桃華さんが そんな弟クンの肩をトントンとつつく。
【6ー続】
私は唯一、自分用に用意された個室で男子従業員と同じ黒いベストとズボンに桃色ネクタイを締め、私用に白もしくは薄いピンクのブラウスが用意されているので、今日はピンクのブラウスで従業員の制服に着替える。
バイトを始めたばかりの頃は、廉さんが昔の女子従業員用のメイド服もあるので、どっちにするか聞かれたが、
勿論 私はそんなヒラヒラ、フリフリのメイド服など自分に選択肢があるのなら絶対に嫌です。と即答した。
それでなくとも普段でさえ私は女の子した洋服など全く着用しないのに、そんな乙女感全開のメイド服など、私にしてみれば究極の羞恥プレイとしか言い様がない。
廉さんも確かにウチは男所帯で若い男の子ばかりだし、勿論 彼等を信用してはいるけれど、
男は本能の生き物でもあるから、万が一、箍が外れて襲われでもしたら大変だわ!
という事で、私は男子従業員と同じ格好で従事する事となった。
そもそも洒落っ気ひとつない人生ヌボーッと生きている地味子の私を襲う奇特な輩など まず存在しないと思う。
そして、ここ『原石』では従業員は全て源氏名として下の名前だけがカタカナで表記されたネームプレートをそれぞれ胸に付けているが、
私の場合は唯一の女子従業員な事もあり、私の身の安全の為に、ネームプレートは付けなくてもいいように廉さんから配慮されている。
なので他の従業員達は各自、私を好きなように呼んでいる。暁さんが私を『タマ』と呼ぶのもそういった事情だ。
私は制服に着替えそのまま、二階のカクテルバーの店内に入ると、数人の従業員が室内の飾り付けなどをしていて、
カウンターとは別のテーブル席で廉さんと暁さんが今回の主役の新郎新婦であろう若い二人と、その新婦の隣には中、高校生くらいの男の子が座っており、打ち合わせの最中のようだった。
そして私はというと、思わずその男の子をガン見してしまう。
………ウソ。あの子、似てる。
その男の子は多分髪型のせいだろうが、自分が現在 愛してやまない乙女ゲーの『春人』クンによく似ていたからだ。
多分 現代の『春人』クンなら、こんな感じだろうなあ~という、そんな感じにーーー
すると、そんな私の存在に気付いた暁さんが席を立って私を手招きする。
「おー珠! 来たか! こっち こっち」
私は打ち合わせ中なのに、いいのかなあ? と思いつつテーブルに近付いた。そして新郎新婦達に「いらっしゃいませ」と声を掛けると、暁さんが私の肩を引き寄せて紹介する。
「誠司先輩、桃華。 コイツが俺の可愛い妹分の『珠』で、この店の唯一の紅一点。
んでもって珠、こっちが俺の大学の先輩で坂下さんと同級の柏木と その弟くんだ」
「は、初めまして。私はこの店のバイトで橘といいます。えっと、この度はご結婚おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。俺は坂下 誠司です。そうか~ 君が暁から聞いていた噂の『タマ』ちゃんか。 スッゲェ美人さんじゃん。もしかしてモデルとかやってるの?」
「めめ、滅相もございません! 私ごときがその様な大それた真似など恐れ多い。しかも決して美人などでもなく、その辺の道端の石コロ同然ですので、どうぞお気遣いなく」
私は慌てて片手をぶんぶんと左右に振って否定すると、坂下さんと柏木さんがニコニコと笑っている。
「あなたが『タマ』ちゃんね? 暁が自慢するわけだわ、本当に可愛い。私は暁と同じ大学の同級生で友人の柏木 桃華です。よろしくね?
それにしても『タマ』ちゃんが、こんなに綺麗な可愛い子でかえって心配。ねえ、『タマ』ちゃん? まさかとは思うけど、暁に悪戯とか、セクハラとかされてない?」
新婦の桃華さんの言葉に暁さんが呆れた様に肩を竦める。
「おいおい、ダチを犯罪者扱いすんなよな。しかも、そんな素振りを少しでも見せようものなら、このマスターに殺される」
「あら、そんなんじゃ、生ぬるいわよ。私の可愛い娘にそんな真似をしようものなら、その御大層な逸物ちょん切って二度と使い物に出来なくしてやるつもりよ?
しかも暁、さっきから、どさくさに紛れて気安くその子の肩に触らないで頂戴。変な真似をしたらーー勿論、分かっているわよね?」
廉さんは そう言って中指と人差し指を立ててハサミでチョッキンするように見せると、ノリの良い暁さんは自分の股間を隠すように押さえている。
ーーあははは、廉さん、怖いですな。そして今の会話も未成年の前に対して、ちょっとセクハラ入っているケド。ーーわははは。
そうやって皆が笑って和んでいる中で桃華さんの弟クンだけがムスッとしたまま、先ほどからずっと、こちらと視線を合わせようとはしない。
弟クン、どうしたのかな? もしかしなくても機嫌が悪い?
ーーなので、私も視線が合わない事をいい事に先ほどから少々彼を観察していたりする。
そんな弟クンは髪型は長めの黒髪艶サラ、ストレートで色白の育ちの良い上品な お坊っちゃまといった感じで、イメージ的にはピアノとかバイオリンとかの習い事をやっていそうにも見える。
実は乙女ゲーの『春人』クンが そういう容貌で、しかもピアノが弾けるんだよね~ そしてなんといっても笑顔がメッチャ可愛いの♡
だけど、こっちの弟クンは外見は『春人』クンでも仏頂面でムスッとしてるし。
う~ん、こっちの『春人』クンも笑ってくれないかな? ~お~い! こら! 笑え!
そうやって、あまりにジロジロと見過ぎたからか、いきなり弟クンがこちらに視線を向け眉間に皺を寄せて睨むので、思わず「ヤバッ」と慌てて視線を逸らした。
ひょえぇぇ~ ジロジロ見過ぎた。きっと薄気味悪い変な女だと思ったよね? だって『春人』クンに似てるから思わず観察しちゃったよ。
すると、お姉さんの桃華さんが そんな弟クンの肩をトントンとつつく。
【6ー続】
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる