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第2部
【5】妄想女の擬似デート?⑪ー2(~伊月視点)
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【5ー⑪】
「ははは、大丈夫だよ。それに橘は良き友人であり同僚ってだけだから、伊月の心配は杞憂だから安心してもいいよ?」
「若先輩がそう思ってても、あんな紛らわしい態度を取っていたら間違って珠里ちゃんが若先輩に落ちちゃうかもしれないじゃん。
それでなくても普段から女が寄ってきて後を絶たないんだからさ。マジで気を付けないと呉羽先輩にだって、その内、捨てられるよ?」
「ふふっ、伊月は本当に心配性だね。俺はね、どっちかというと『本命』には“優しく”っていうより“苛めたくなる”タイプなんだ。
だから他の女の子達には優しく出来るけれど、俺が唯一“苛めたい”相手”は呉羽ただ一人だけだから彼女を俺から逃がすつもりはないよ」
そんな若村先輩は完璧惚気とも言える言葉を照れるどころか、普通にシレッと口にして相変わらずの爽やかな笑顔を浮かべている。
そ~いや、若先輩、呉羽先輩の時だけは他の子達とは違って結構、絡んでたっけな~ だから当時は若先輩は呉羽先輩の事があまり好きじゃないんだと思っていたんだけど、
ところがどっこい、つまりは、あれって、いわゆる“好きな子イジメ”ってヤツ?
しかも普通は中々言えねーセリフを然り気無く言えるって、くっそ! どこまでカッコいいんだよ。
やっぱり それは若先輩の妹ちゃんの『乙女ゲーム』の影響なのか? だとしたら『乙女ゲー』半端ねぇ!!
………俺も『乙女ゲー』に挑戦ーーってだああぁ、ぜって~無理だ! 俺は一人っ子だし従兄弟も全員男ばっかで女の身内は母親と祖母とおばさんだけだった。
しかも男の俺が『乙女ゲーム』なんて買っていたら、それこそ周りから異様な目で見られるだろうし、何より根本的に男と恋愛するゲームなんて、俺には生理的に絶対に無理だっ!!
俺は一瞬浮かんだ思考を振り払うように首を振りながら大きく肩を竦める。
「ヘイヘイ、俺の取り越し苦労でしたね。若先輩が呉羽先輩にゾッコンなのは今の言葉で分かりましたよ。はい。
だけど若先輩さ~ 俺の味方とか言っておきながら、さっきは有島を煽ったりなんかして一体どういうつもりなんっすか?
アイツ、1年生徒会長の第一候補者らしいけど、顧問の先生方の勧誘きっぱり断ってるっていうじゃん。
なのに若先輩のさっきの言い方じゃアイツの弱味を握って『生徒会』に入らざるを得ない様、仕向けているとしか聞こえなかった。
まさか若先輩はアイツを『生徒会』に入れたいの? 俺は ぜって~嫌だ! アイツとは何から何まで相性が悪過ぎる。
しかも あんな毒舌王子が『生徒会』に増えたら、それでなくでも毒舌姫の帰蝶がいるのにダブルで精神が削り取られるよ!」
そんな俺が深いため息をついていると、若村先輩が俺の背中を軽くポンと叩く。
「おやおや、伊月らしくもないなあ。伊月は人好きのする体質だし、今までだって、どんなタイプの人間でも上手く付き合えて来ているだろ?
それに俺個人としては伊月の味方と言ったのは本心だよ? しかも有島君を『生徒会』に入れる事は伊月の為にもなるんだから」
「いい~んや、俺の為になんて、ぜって~ならない! 確かに俺は大抵のヤツは大丈夫だけど、アイツは駄目だ! 若先輩にだって分かるだろ? アイツどう見ても珠里ちゃんに気があるじゃん。
幸いにして珠里ちゃんが“現実の男に全く興味無し”だから良くも悪くも助かったけど、どこの世界に恋敵と仲良くなれるヤツがいるんだよ」
「うん、それはそうだろうね。 事実、俺も恋敵は排除してきた側だし? だけど伊月? もし有島君が『生徒会』に入る事になれば、それこそイベント発生なんじゃないのかな?
なんといっても有島君は橘の幼馴染みで しかも同じく勧誘している橘の弟君の大親友らしいから、そんな弟君達が『生徒会』に入ったら橘の事だから、きっと戻って来るんじゃない?
まあ、俺も橘の弟君には、まだ直接会った事はないから『生徒会』に来るかは、その辺の確信はないけど、橘本人の事は今までずっと見てきているからさ。
彼女って年下の面倒見が すごく良いから、それが身内なら尚更心配で放っておけないだろうし、そうなったら伊月にしても きっかけを掴むチャンスになるだろ?
それに今のままじゃ橘は戻ってきそうにも無いし、しかも俺達がいる本校舎と彼女のいる校舎は別々なわけで、同学年の俺でさえも今は彼女との接点がなくて、こうして話すのは卒業式以来なのに、
下級生の伊月にしてみたら接点を持つ事自体、もっと難しいんじゃない?
しかも橘の恋愛観はかなり特殊だから、それこそ現実でイベントを起こさないと彼女の心の懐に入る事はまず出来ないし、
そんな彼女の心を占めている女心を掴む為に作られている『乙女ゲーム』のイケメンキャラに太刀打ちする術がない。
あの幼馴染みで弟君の親友で何かと接点が多いはずの頭脳も容姿も兼ね備えた有島君でさえ、今だ彼女の懐に入れてはいないんだ。
だからこそ彼女の側でイベントを起こす事が大事なんだよ。
それには『生徒会』が最も適している場所だろ? なんといっても唯一イベントが起こりやすくて、しかも学年も校舎も関係無しに相手との接点が持てるからね。
それに恋敵がいれば恋愛イベントも発生しやすいし、争奪戦こそ恋愛における『醍醐味』とも言えるだろ?」
「若先輩は大人で賢いし達観した性格してるから言っている事は聞いてて すごく参考にはなるんだけど、恋敵とか争奪戦とか言われても俺、今まで付き合ってきた女の子でそういう経験があった事がないから『醍醐味』とか言われてもイマイチ分かんないんだよ。
しかも告白されて取り敢えず友達の延長線で付き合ってきた彼女ばっかりだったからさ、自分から好きになったのって珠里ちゃんだけなんだ。だから焦りとか嫉妬とかって気持ちも珠里ちゃんが初めてなんだよ。
若先輩は その経験者で争奪戦の勝者だから簡単に言うけどさ、俺にしてみれば珠里ちゃんみたいなタイプの女の子は初めてだし、未知数すぎて男としては情けねーけど、自分でも、どうしたらいいのか時々分かんなくなる。
だから、さっき珠里ちゃんの側に突然アイツが現れたから驚いたっつーより焦ってわけ分かんなくなって、ついあんな子供みたいな態度取っちゃったりなんかして、あ~あ、珠里ちゃんに呆れられちゃったかなあ?
でもアイツだって かなりの猫被りっつーか、あからさまな敵意と牽制だったよね?
しかも噂とは全然違う性格してるし。だからつい売り言葉に買い言葉で、なんか久し振りに他人と喧嘩したよ俺」
「あはは、それは有島君にとっても伊月が脅威に感じたって事じゃないの? 向こうにしても俺達と橘の関係を全く知らなかったみたいだし。
しかも橘が伊月を呼び捨てで呼んだ事が引き金になって、有島君も あんな態度になったんだと思うよ?
だって自分の好きな相手が知らない男の名前を親しげに呼び捨てで呼んでるなんて、すごく嫌だし不安にもなる。
それを思えば橘は罪作りな女の子だなあ。自分が原因で男二人が目の前で争っているのに、当の本人にはまるで他人事で全く伝わっていない上、自分が恋愛対象になるなんて事すらも頭に無い様だから、いくら周りの男が好意を寄せてきても彼女の中では全て否定されてしまうんだろうね。
だけど彼女は男嫌いってわけでもないし、相手は仮想キャラ限定だけど恋愛感情も ちゃんとある。
となれば要は、彼女をどれだけ自分に“惹き付けられるか”って事だけだから、それって結局は伊月の努力次第ってところかな?
本当に欲しいものほど、楽して手に入るものなんて滅多に無いからね。
だから伊月の味方を自称している俺としては橘が『生徒会』に戻って来やすい様に、まあ、少々意識して有島君を焚き付けてみたんだけど、
それとは別に、俺としても残り一年の高校生活、橘と一緒に『生徒会』で楽しく仕事したいし、実際有島君に会って思ったんだけど、
やっぱり彼は片平先生方が あれだけ勧誘に熱心になるくらい『生徒会』には必要不可欠な人材だと俺も思う。
しかも彼は頭も容姿も勿論だけど、何より真面目で実直で自分を持っているブレない人間だよ。しかも そういう人間って中々いるものじゃないし。
ウチの『生徒会』では そういう人材を求めているから、生徒会役員になる人間は皆、個性的すぎて、まとまりが付かないのが唯一の難点なんだけど、
有島君が一年の生徒会長をやってくれれば彼の周りの優秀な人材が付いてくるかもしれないし『生徒会』の顧問の先生達も安心出来るし、なにより橘が戻って来るだろうし?
伊月にしても、いつでも橘に会えてしかもアピールするチャンスが広がるんだから、それって皆にとっても良い事ずくめで お話の結末でいうところの『大団円』ってとこじゃない?」
あっけらかんと綺麗に話を纏めて好感度MAXの爽やかな笑顔を浮かべている若村先輩に対して俺は確信を持って片手を腰に当てて項垂れながら、大きく ため息を吐く。
「はああぁ~ どこが『大団円』なんだか。綺麗に話を纏めて解決みたいな言い方してるけど、若先輩の実の算段は『生徒会』に新たな旋風でも巻き起こして、自分が楽しもうとする目論みなんじゃないの?
しかも俺の事も完全に面白がっているよね? 珠里ちゃんも巻き込んでさ~ 本当のイベント好きは若先輩のくせして“便乗作戦”だなんて、ずる賢い上司だよ、全く」
俺は目を細めながら策士な上司を見つめると、若村先輩は自分の頭を撫でながら視線を天井に移す。
「う~ん、まいったなあ。そんな深い意味のある悪気はないんだけどな。
ただ最近の『生徒会』は皆して活気も無いし、大した話題も無いし、黙々と仕事してても面白くもなんともないだろ? これなら、まだ町内会の敬老クラブの方が まだ活気があって若々しいよ。
俺達には人生一度の折角の高校生活なんだし、青春真っ只中の若者らしく色々あった方が覇気が出て何事にも前向きにやる気も出るし、勉学だけが学生の本分なんて今時古いよ。
だから これは目論むというか、ちょっとしたスパイス的に“事の発端”の一角に加わわりたいだけで、悪ふざけをしている意図はないんだよ?
勿論、伊月の邪魔をするつもりは全く無いし、寧ろ全面的に協力しているんだけどな?」
「………若先輩。 “青春真っ只中”とか言って恥ずかしくないっすか?
しかも学年一位成績常連者の若先輩が“勉学が~”なんて言ったら、『生徒会』メンバーは いいとしても他の生徒達には逆に劣等感 抱かせるかもしれないから、ここだけの話にしといて下さいね?」
すると若村先輩は不味ったという表情で自分の頭をポンポンと叩く。
「ああ、ゴメン。これだから呉羽に“自分の認識だけで発言するのは気を付けるように”と言われるんだよ。
でもさすがは伊月だね。相手の立場になって考えられるからこその人望厚い頼もしい生徒会長だよ。だけど“青春真っ只中”って、そんなに恥ずかしいかな? 俺は普通に言えるけど」
「若先輩は老成しすぎだから言えるんです! 思春期強調する言葉なんてもう若者ワードじゃありません。 しかも分かりやすく言えば、“ズボンの前チャックが開いてた!”というくらいには恥ずかしいっす!」
すると若村先輩は すかさず自分のズボンを確認してホッとした様子を見せるので、俺も思わず同じ様に自分のズボンを確認してしまう。
ーーホッ、よかった。自分で言ってて開いてたら珠里ちゃんに会わせる顔がないーーというか、珠里ちゃんは、そういう事は黙ってないで教えてくれる性格の女の子なんだよな。 それはそれで言われると恥ずかしすぎるんだけど。
「伊月、その『例え』すごく分かりやすいよ。確かに、ものすごく恥ずかしいね。俺も これから発言には気を付ける事にするよ」
そして それを真顔で反省する若村先輩…………
この人も意外に こういうところが珠里ちゃん同様に可愛いというか“天然”キャラなんだよなあ。
【5ー続】
「ははは、大丈夫だよ。それに橘は良き友人であり同僚ってだけだから、伊月の心配は杞憂だから安心してもいいよ?」
「若先輩がそう思ってても、あんな紛らわしい態度を取っていたら間違って珠里ちゃんが若先輩に落ちちゃうかもしれないじゃん。
それでなくても普段から女が寄ってきて後を絶たないんだからさ。マジで気を付けないと呉羽先輩にだって、その内、捨てられるよ?」
「ふふっ、伊月は本当に心配性だね。俺はね、どっちかというと『本命』には“優しく”っていうより“苛めたくなる”タイプなんだ。
だから他の女の子達には優しく出来るけれど、俺が唯一“苛めたい”相手”は呉羽ただ一人だけだから彼女を俺から逃がすつもりはないよ」
そんな若村先輩は完璧惚気とも言える言葉を照れるどころか、普通にシレッと口にして相変わらずの爽やかな笑顔を浮かべている。
そ~いや、若先輩、呉羽先輩の時だけは他の子達とは違って結構、絡んでたっけな~ だから当時は若先輩は呉羽先輩の事があまり好きじゃないんだと思っていたんだけど、
ところがどっこい、つまりは、あれって、いわゆる“好きな子イジメ”ってヤツ?
しかも普通は中々言えねーセリフを然り気無く言えるって、くっそ! どこまでカッコいいんだよ。
やっぱり それは若先輩の妹ちゃんの『乙女ゲーム』の影響なのか? だとしたら『乙女ゲー』半端ねぇ!!
………俺も『乙女ゲー』に挑戦ーーってだああぁ、ぜって~無理だ! 俺は一人っ子だし従兄弟も全員男ばっかで女の身内は母親と祖母とおばさんだけだった。
しかも男の俺が『乙女ゲーム』なんて買っていたら、それこそ周りから異様な目で見られるだろうし、何より根本的に男と恋愛するゲームなんて、俺には生理的に絶対に無理だっ!!
俺は一瞬浮かんだ思考を振り払うように首を振りながら大きく肩を竦める。
「ヘイヘイ、俺の取り越し苦労でしたね。若先輩が呉羽先輩にゾッコンなのは今の言葉で分かりましたよ。はい。
だけど若先輩さ~ 俺の味方とか言っておきながら、さっきは有島を煽ったりなんかして一体どういうつもりなんっすか?
アイツ、1年生徒会長の第一候補者らしいけど、顧問の先生方の勧誘きっぱり断ってるっていうじゃん。
なのに若先輩のさっきの言い方じゃアイツの弱味を握って『生徒会』に入らざるを得ない様、仕向けているとしか聞こえなかった。
まさか若先輩はアイツを『生徒会』に入れたいの? 俺は ぜって~嫌だ! アイツとは何から何まで相性が悪過ぎる。
しかも あんな毒舌王子が『生徒会』に増えたら、それでなくでも毒舌姫の帰蝶がいるのにダブルで精神が削り取られるよ!」
そんな俺が深いため息をついていると、若村先輩が俺の背中を軽くポンと叩く。
「おやおや、伊月らしくもないなあ。伊月は人好きのする体質だし、今までだって、どんなタイプの人間でも上手く付き合えて来ているだろ?
それに俺個人としては伊月の味方と言ったのは本心だよ? しかも有島君を『生徒会』に入れる事は伊月の為にもなるんだから」
「いい~んや、俺の為になんて、ぜって~ならない! 確かに俺は大抵のヤツは大丈夫だけど、アイツは駄目だ! 若先輩にだって分かるだろ? アイツどう見ても珠里ちゃんに気があるじゃん。
幸いにして珠里ちゃんが“現実の男に全く興味無し”だから良くも悪くも助かったけど、どこの世界に恋敵と仲良くなれるヤツがいるんだよ」
「うん、それはそうだろうね。 事実、俺も恋敵は排除してきた側だし? だけど伊月? もし有島君が『生徒会』に入る事になれば、それこそイベント発生なんじゃないのかな?
なんといっても有島君は橘の幼馴染みで しかも同じく勧誘している橘の弟君の大親友らしいから、そんな弟君達が『生徒会』に入ったら橘の事だから、きっと戻って来るんじゃない?
まあ、俺も橘の弟君には、まだ直接会った事はないから『生徒会』に来るかは、その辺の確信はないけど、橘本人の事は今までずっと見てきているからさ。
彼女って年下の面倒見が すごく良いから、それが身内なら尚更心配で放っておけないだろうし、そうなったら伊月にしても きっかけを掴むチャンスになるだろ?
それに今のままじゃ橘は戻ってきそうにも無いし、しかも俺達がいる本校舎と彼女のいる校舎は別々なわけで、同学年の俺でさえも今は彼女との接点がなくて、こうして話すのは卒業式以来なのに、
下級生の伊月にしてみたら接点を持つ事自体、もっと難しいんじゃない?
しかも橘の恋愛観はかなり特殊だから、それこそ現実でイベントを起こさないと彼女の心の懐に入る事はまず出来ないし、
そんな彼女の心を占めている女心を掴む為に作られている『乙女ゲーム』のイケメンキャラに太刀打ちする術がない。
あの幼馴染みで弟君の親友で何かと接点が多いはずの頭脳も容姿も兼ね備えた有島君でさえ、今だ彼女の懐に入れてはいないんだ。
だからこそ彼女の側でイベントを起こす事が大事なんだよ。
それには『生徒会』が最も適している場所だろ? なんといっても唯一イベントが起こりやすくて、しかも学年も校舎も関係無しに相手との接点が持てるからね。
それに恋敵がいれば恋愛イベントも発生しやすいし、争奪戦こそ恋愛における『醍醐味』とも言えるだろ?」
「若先輩は大人で賢いし達観した性格してるから言っている事は聞いてて すごく参考にはなるんだけど、恋敵とか争奪戦とか言われても俺、今まで付き合ってきた女の子でそういう経験があった事がないから『醍醐味』とか言われてもイマイチ分かんないんだよ。
しかも告白されて取り敢えず友達の延長線で付き合ってきた彼女ばっかりだったからさ、自分から好きになったのって珠里ちゃんだけなんだ。だから焦りとか嫉妬とかって気持ちも珠里ちゃんが初めてなんだよ。
若先輩は その経験者で争奪戦の勝者だから簡単に言うけどさ、俺にしてみれば珠里ちゃんみたいなタイプの女の子は初めてだし、未知数すぎて男としては情けねーけど、自分でも、どうしたらいいのか時々分かんなくなる。
だから、さっき珠里ちゃんの側に突然アイツが現れたから驚いたっつーより焦ってわけ分かんなくなって、ついあんな子供みたいな態度取っちゃったりなんかして、あ~あ、珠里ちゃんに呆れられちゃったかなあ?
でもアイツだって かなりの猫被りっつーか、あからさまな敵意と牽制だったよね?
しかも噂とは全然違う性格してるし。だからつい売り言葉に買い言葉で、なんか久し振りに他人と喧嘩したよ俺」
「あはは、それは有島君にとっても伊月が脅威に感じたって事じゃないの? 向こうにしても俺達と橘の関係を全く知らなかったみたいだし。
しかも橘が伊月を呼び捨てで呼んだ事が引き金になって、有島君も あんな態度になったんだと思うよ?
だって自分の好きな相手が知らない男の名前を親しげに呼び捨てで呼んでるなんて、すごく嫌だし不安にもなる。
それを思えば橘は罪作りな女の子だなあ。自分が原因で男二人が目の前で争っているのに、当の本人にはまるで他人事で全く伝わっていない上、自分が恋愛対象になるなんて事すらも頭に無い様だから、いくら周りの男が好意を寄せてきても彼女の中では全て否定されてしまうんだろうね。
だけど彼女は男嫌いってわけでもないし、相手は仮想キャラ限定だけど恋愛感情も ちゃんとある。
となれば要は、彼女をどれだけ自分に“惹き付けられるか”って事だけだから、それって結局は伊月の努力次第ってところかな?
本当に欲しいものほど、楽して手に入るものなんて滅多に無いからね。
だから伊月の味方を自称している俺としては橘が『生徒会』に戻って来やすい様に、まあ、少々意識して有島君を焚き付けてみたんだけど、
それとは別に、俺としても残り一年の高校生活、橘と一緒に『生徒会』で楽しく仕事したいし、実際有島君に会って思ったんだけど、
やっぱり彼は片平先生方が あれだけ勧誘に熱心になるくらい『生徒会』には必要不可欠な人材だと俺も思う。
しかも彼は頭も容姿も勿論だけど、何より真面目で実直で自分を持っているブレない人間だよ。しかも そういう人間って中々いるものじゃないし。
ウチの『生徒会』では そういう人材を求めているから、生徒会役員になる人間は皆、個性的すぎて、まとまりが付かないのが唯一の難点なんだけど、
有島君が一年の生徒会長をやってくれれば彼の周りの優秀な人材が付いてくるかもしれないし『生徒会』の顧問の先生達も安心出来るし、なにより橘が戻って来るだろうし?
伊月にしても、いつでも橘に会えてしかもアピールするチャンスが広がるんだから、それって皆にとっても良い事ずくめで お話の結末でいうところの『大団円』ってとこじゃない?」
あっけらかんと綺麗に話を纏めて好感度MAXの爽やかな笑顔を浮かべている若村先輩に対して俺は確信を持って片手を腰に当てて項垂れながら、大きく ため息を吐く。
「はああぁ~ どこが『大団円』なんだか。綺麗に話を纏めて解決みたいな言い方してるけど、若先輩の実の算段は『生徒会』に新たな旋風でも巻き起こして、自分が楽しもうとする目論みなんじゃないの?
しかも俺の事も完全に面白がっているよね? 珠里ちゃんも巻き込んでさ~ 本当のイベント好きは若先輩のくせして“便乗作戦”だなんて、ずる賢い上司だよ、全く」
俺は目を細めながら策士な上司を見つめると、若村先輩は自分の頭を撫でながら視線を天井に移す。
「う~ん、まいったなあ。そんな深い意味のある悪気はないんだけどな。
ただ最近の『生徒会』は皆して活気も無いし、大した話題も無いし、黙々と仕事してても面白くもなんともないだろ? これなら、まだ町内会の敬老クラブの方が まだ活気があって若々しいよ。
俺達には人生一度の折角の高校生活なんだし、青春真っ只中の若者らしく色々あった方が覇気が出て何事にも前向きにやる気も出るし、勉学だけが学生の本分なんて今時古いよ。
だから これは目論むというか、ちょっとしたスパイス的に“事の発端”の一角に加わわりたいだけで、悪ふざけをしている意図はないんだよ?
勿論、伊月の邪魔をするつもりは全く無いし、寧ろ全面的に協力しているんだけどな?」
「………若先輩。 “青春真っ只中”とか言って恥ずかしくないっすか?
しかも学年一位成績常連者の若先輩が“勉学が~”なんて言ったら、『生徒会』メンバーは いいとしても他の生徒達には逆に劣等感 抱かせるかもしれないから、ここだけの話にしといて下さいね?」
すると若村先輩は不味ったという表情で自分の頭をポンポンと叩く。
「ああ、ゴメン。これだから呉羽に“自分の認識だけで発言するのは気を付けるように”と言われるんだよ。
でもさすがは伊月だね。相手の立場になって考えられるからこその人望厚い頼もしい生徒会長だよ。だけど“青春真っ只中”って、そんなに恥ずかしいかな? 俺は普通に言えるけど」
「若先輩は老成しすぎだから言えるんです! 思春期強調する言葉なんてもう若者ワードじゃありません。 しかも分かりやすく言えば、“ズボンの前チャックが開いてた!”というくらいには恥ずかしいっす!」
すると若村先輩は すかさず自分のズボンを確認してホッとした様子を見せるので、俺も思わず同じ様に自分のズボンを確認してしまう。
ーーホッ、よかった。自分で言ってて開いてたら珠里ちゃんに会わせる顔がないーーというか、珠里ちゃんは、そういう事は黙ってないで教えてくれる性格の女の子なんだよな。 それはそれで言われると恥ずかしすぎるんだけど。
「伊月、その『例え』すごく分かりやすいよ。確かに、ものすごく恥ずかしいね。俺も これから発言には気を付ける事にするよ」
そして それを真顔で反省する若村先輩…………
この人も意外に こういうところが珠里ちゃん同様に可愛いというか“天然”キャラなんだよなあ。
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