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第2部

【5】妄想女の擬似デート?⑩ー2(~鉢合わせ)

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【5ー⑩】



「ーーそれこそ個人情報です。 貴方に答える義理はないと思います」


かなでが冷ややかに言い放つもづきは腕を組んで ふんふんと頷く。


「ま、答たくないんならいいケドさ。俺と大、大、だ~ぁいの仲良しのじゅちゃんに直接聞けばいいことだし? でも大体想像はつくかな?  ーーねえ、『弟』クン?」


「……………」


ビョオオオォォォォォーーー


何故か二人の間に目には見えずとも大寒波の到来を感じる。冷たい冷気が辺りを刺す、刺す、刺す!! この二人を見ている方が凍死するっ!!


そして先ごろから不可解にも その光景をニコニコと笑顔で温かく見守っている『生徒会長』が ここに一人ーーー


「ちょっと、最上級生の『生徒会長』さん? あんたは、なんでそんな笑顔なんっスか? 後輩達がなんか揉めているんですよ? そんな悠長に見守っていないで、なんとかして下さいよ?」


私は安全地帯を求め、同級の若村わかむらの側へと移動し、彼の袖を引っ張って場の収束を訴えるも、彼はニッコリと微笑んだまま小さく肩を竦める。


コイツはこの笑顔が実は『曲者くせもの』なんだよな………
ーー私は騙されないケドねっ!


「う~ん。それはそうなんだけど、この場合は『自然の摂理』だから、しょうがないかな?って思ってさ」


「は? 何?『自然の摂理』って」


「うん? ほら、自然界ではさ、雌一体に対して雄が複数現れれば必然と雌の占有権争いになるだろ? だから取り合えず第三者は口出ししない方が無難かな?  ーーとか思ってね」


ーーなどと、呑気にすっとぼけた発言をする若村に対して、私は彼の上着が脱げてしまいそうなくらい更に強く袖を揺すりながら引っ張る。


「生徒会長ともあろう御人がなに、お馬鹿な事言ってんの! そもそも雌の占有権とか『人間』と『動物』は違うっつーの!  

しかもなんでそれに私が当てはまるのさ? あまり変な事ぬかしてっと、へそで茶~沸かすゾ! くぉらあ! とにかく早く、なんとかしろやいっ!!」


そんな私がしびれを切らしてゴロツキ並みに若村に脅し?を掛けるも、彼は さも可笑しそうにケラケラと笑う。


「ははは、たちばなはホントに面白いなあ。ーーまあ、俺としては『人間』も『動物』も根本的な元は同じだとは思っているけど、確かに『人間』は唯一、理性が存在するからこそ万物の頂点にいるのだから、そこは『動物』との違いとも言えるだろうね?」


「また何を意味の分からん事をーーさすがに三年間、学年1位を常にキープし続けている『天才』の考える事は下位層の『凡人』の私にはサッパリ理解出来んよ」


「橘、俺は『天才』じゃないよ? 先ほど有島君も言っていた通り、全ては努力の結果なんじゃないかな?」


「あのねぇ~  いくら努力しても元からの土壌が良くないと実らない苗もあるんだよ。………はあぁ、自分で言ってて虚しいわ」


そして深いため息を吐く私に若村は少し困ったような笑みを浮かべる。


「そんな事はないんじゃないかな? 少なくとも努力した事は なにかしらの自分の糧になっていると思う。 

当然、橘の頑張りだって評価されているよ。だからこそ生徒会役員や顧問の教師達からの信頼も厚いし、俺だって すごく頼りにしてる。

橘はさ、一見は近寄りがたい雰囲気あるけど、中身を知ったら人好きのする体質っていうのかな? それって『天才』なんかよりも、ずっとすごい事だよ。

人間の評価は成績だけが全てじゃないからね。寧ろ一番大切なのは、その人の『人となり』だと俺は思う」


そんな若村の真っ直ぐで誠実な言葉に なんだか胸の内がほんわりと温かくなる。

そして相変わらずの温和で優しげな笑顔を向けられ、なんの事はない、いつもの見知っている顔なのに、それでも なんだか気恥ずかしいような、しかも若村の言葉に目元までウルッときてしまっているような?  

妙に心臓がドキドキし始めて落ち着かず、慌て若村から視線を外す。


ううっ、だ、騙されん! その笑顔には騙されないぞ~っと!! 

ーーいや、若村にしてみれば相手に対して誠実に対応してくれているだけなんだけどさ、なんせコイツも質の悪いんじゃなくて、逆に良質な『乙女心キラー』なんだよ。しかも本人まるで自覚無し!


そんな若村は頼りがいのある大変有能な『生徒会長』な上、女子にも気遣い上手ですごく優しいので、当然、女子達からの人気が非常に高く、本人に彼女がいるにも関わらず告白してくる女の子達が後を絶たずという大変罪作りな男の子である。

そして彼には今年三月に我が校を卒業した前3年生徒会長『いち くれ』さんという『 学園のジャンヌダルク』という異名を持つ、そこらの男よりも勇ましく高潔な美しき才女の彼女がいる。

そんな彼女は在学当時、どんなイケメン男にもなびかない鉄壁女と言われていたのに、若村は二年の長い年月をかけて、そんな彼女の鉄壁の牙城を崩して陥落させた事は現在の2、3年生の間でも伝説化しているほどだ。

そして我が校の風習でもあるのか特定の生徒に異名を付けるのは、もはや伝統のようなものになっている。

それは親しみや敬意を込めての呼び名しいが、勝手に異名を付けられた当人にしてみれば、果たして良いのか悪いのかーーいささか疑問ではある。


「やや、やだなあ~若村ってば大袈裟な、っていうか持ち上げ過ぎだよ。私はそんな大した事はやってきてないし、生徒会顧問のお手伝い程度の雑用係だっただけだもん。

それに私が人好きするっていうのもちょっと違うし、逆に同姓から嫌われる方が多かっーーああ、いや、それはともかく、やっぱりスゴいのは若村の方だよ。

今や学園のカリスマ『生徒会長』だしさ、男女生徒達からもスッゴい人気あるじゃん! 

勿論、先生達からの信頼も厚いし、私も同級の3年生として誇りに思うし、すごく尊敬してるんだよ?」


そんな私が決して誉め返しなどではなく本心からの『若村スゴい説』を唱えていると、私の頭上に若村の右手のがポンと乗る。


「フフッ、ありがとう橘。同級からそう言ってもらえるのはすごく嬉しいよ。俺も橘の事を尊敬しているし、すごい努力家だとも思ってる。 

だから橘は もっと自分に自信を持っていいんだよ? 君は周りから見ても大変魅力のある素晴らしい女性なんだから」


そう言って若村から微笑まれた瞬間、私の時間が止まったーーいや、私の思考が全て緊急停止した。


あまりにも日常聞き慣れない誉め言葉を貰い、しかもズボラ女子である この私を“魅力のある素晴らしい女性”などと、私の実態を知らぬからこその気遣い発言とはいえ、全身に走るむず痒さMAXこの上なく、

私の表情は笑顔で固まったまま、しかし若村に視線を外せずにいると、端から掛けられた大きな声にハッと我に返り、ようやく私の止まった時間も表情筋も再び動き出す。


「若先輩!! ひっでえ!! またもや“反則行為”ってんのソレ!!   こっちは取り込み中だっつーのに、なんでそっちはそっちで性懲りもなく珠里ちゃん口説いてんだよ! 

しかもあんた“彼女持ち”だろーが!! 万が一、間違って珠里ちゃんが本気にしたらどーすんだ!? 「冗談でした」じゃ済まされねーぞ!?」


「………へえ~? 若村さんには『彼女』がいるんですか。それなのに公衆の面前で堂々と別の女子に ちょっかいを出すはとは大した傍若無人ぶりですよね? 

 一体どういう神経をしていたら そんな真似が出来るのか、是非ともご享受願えますか? 若村先輩? 今後の最悪の見本として珠里から悪い虫を排除する為の参考にしたいので」


先ほどまでは確かに奏と伊月の間だけに発生していた電磁波及び大寒波が今度は規模を広げるように安全地帯だったはずの若村の方に集中しているではないか!


ひえぇぇぇぇ~なんか規模が更に拡大してる!! なにが どうなっちゃってんだろ!?

ーーっていうか、さっきまで あんたら私の存在 無視だったじゃん。今更思い出されてもねっ💢!!




【5ー続】



















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