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4章 社会人編
<21>通じ合った想い4
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その後、皆が一丸となって仕事に取り組んだ甲斐あって貧民街は劇的な改善を遂げた。俺たちの組織も実績を評価され、「ここで働きたい」と志望する人たちも増えた。気がつけば当初とは比較にならないほどの大きな組織になっている。
忙しない日々を送るうちに月日はあっという間に過ぎていく。
11月、ジェラルドと俺は正式に結婚した。王子の結婚とはいえ、次期国王でもない限りは静かに式を執り行うのがクレーニュの慣習だ。
相手が他国の王子の場合はもっと大々的に祝う。だが国内の貴族を相手に迎える場合は身内だけの式と、国中の貴族を招待したお披露目パーティを行って終了だ。
「うう……緊張する……パーティって苦手なんだよなあ」
「ユージン様、とてもお美しいです!」
「こんな素敵な奥様をお迎えできるなんて、ジェラルド様は幸せですわ!」
白と金糸で作られた豪華な結婚用の衣装に身を包んだ俺は、落ち着かない気持ちで部屋の中を行ったり来たりしている。
(今日は挨拶もしなきゃいけないし……ダンスもあるし……憂鬱だ)
俺の様子を侍女たちは生温かい目で見守ってくれている。
「さあユージン様。仕上げに御髪を整えてしまいましょう」
「わ、わかった……」
立ち歩きを止め、大人しくドレッサーの前に座る。支度が全て終わった頃、ジェラルドが控室へやって来た。彼は部屋に入るなり、二人で話しがあるからと侍女たちを外で出してしまう。
二人きりになった部屋の中、気まずさに窓の方へ行こうとすると腕を取られる。
「ユージン……今日は一段と綺麗だな」
甘い声と蕩けるような瞳に、体中の血液が沸騰する。
「お、俺なんかよりジェラルド様のほうがお綺麗ですから」
俺と同じ、白と金糸で作られた豪華な衣装のジェラルドは物語の王子様そのものだ。こんなに美しい王子が存在するのかと見惚れてしまう。
「そんなことはない。誰よりもユージンが綺麗だ。綺麗で可愛い。こんな素敵な子が俺の妻になるのかと思うと……嬉しすぎで世界中に言いふらしたくなる」
「そんな……言い過ぎです」
「言い過ぎなものか。足りないぐらいだよ」
ジェラルドは言葉を一度切って、再び俺を見つめた。その目はどこまでも優しい。
「あらためて、俺を選んでくれてありがとうユージン。俺は一生かけておまえのことを世界中の誰よりも幸せにすると誓う」
「俺も、ジェラルド様のことを支えて、この国のためにできることをします」
俺たちは手を取り合って、微笑み合った。
その後のお披露目パーティーでは、皆からたくさんの祝福を受けた。
「おめでとうございます、ジェラルド様! ユージン様!」
「お二人ほど美しいご夫妻はこの大陸全土でも唯一ですわ!!」
「この結婚でクレーニュはますます発展するに違いない!!」
挨拶をする度に皆が祝福の言葉と嬉しそうな笑顔を向けてくれる。
ウォルターとエディだけは「何か酷いことされたらいつでも俺んとこに来い」「僕も同意です。もし兄を傷つけたらジェニングス家が全力で婚姻を破棄しますから」と宣言し、シャーリー公爵と父に怒られていた。
ジェラルドは笑って受け流していたが、とても小さな声で「アイツら、あとで覚えとけよ」と呟いていて。それを聞いた俺は笑いを堪えるのに苦労した。
転生したばかりの頃はこんな未来が待っているなんて思いもしなかった。
皆のためにも、もっとこの国のために尽くそうと改めて誓う。
ふいにジェラルドの右手が俺の左手を優しく握った。
驚いて視線を上げるが、ジェラルドは前を向いたまま広間の様子を眺めている。
「来月が今から待ち遠しい」
来月――12月は俺の誕生月だ。そして俺は次の誕生日でヒートを迎えることになる。
繋ぎ方が恋人繋ぎに変わって少し力が込められる。
ジェラルドは視線を俺に向け、熱っぽい瞳で告げた。
「早くおまえを俺だけのものにしたい」
ジェラルドの言葉の意味がわかり、顔がじわじわと熱を持つ。
恥ずかしくて嬉しくて。俺は蚊の鳴くような声で「はい」と返事をすることしかできなかった。
忙しない日々を送るうちに月日はあっという間に過ぎていく。
11月、ジェラルドと俺は正式に結婚した。王子の結婚とはいえ、次期国王でもない限りは静かに式を執り行うのがクレーニュの慣習だ。
相手が他国の王子の場合はもっと大々的に祝う。だが国内の貴族を相手に迎える場合は身内だけの式と、国中の貴族を招待したお披露目パーティを行って終了だ。
「うう……緊張する……パーティって苦手なんだよなあ」
「ユージン様、とてもお美しいです!」
「こんな素敵な奥様をお迎えできるなんて、ジェラルド様は幸せですわ!」
白と金糸で作られた豪華な結婚用の衣装に身を包んだ俺は、落ち着かない気持ちで部屋の中を行ったり来たりしている。
(今日は挨拶もしなきゃいけないし……ダンスもあるし……憂鬱だ)
俺の様子を侍女たちは生温かい目で見守ってくれている。
「さあユージン様。仕上げに御髪を整えてしまいましょう」
「わ、わかった……」
立ち歩きを止め、大人しくドレッサーの前に座る。支度が全て終わった頃、ジェラルドが控室へやって来た。彼は部屋に入るなり、二人で話しがあるからと侍女たちを外で出してしまう。
二人きりになった部屋の中、気まずさに窓の方へ行こうとすると腕を取られる。
「ユージン……今日は一段と綺麗だな」
甘い声と蕩けるような瞳に、体中の血液が沸騰する。
「お、俺なんかよりジェラルド様のほうがお綺麗ですから」
俺と同じ、白と金糸で作られた豪華な衣装のジェラルドは物語の王子様そのものだ。こんなに美しい王子が存在するのかと見惚れてしまう。
「そんなことはない。誰よりもユージンが綺麗だ。綺麗で可愛い。こんな素敵な子が俺の妻になるのかと思うと……嬉しすぎで世界中に言いふらしたくなる」
「そんな……言い過ぎです」
「言い過ぎなものか。足りないぐらいだよ」
ジェラルドは言葉を一度切って、再び俺を見つめた。その目はどこまでも優しい。
「あらためて、俺を選んでくれてありがとうユージン。俺は一生かけておまえのことを世界中の誰よりも幸せにすると誓う」
「俺も、ジェラルド様のことを支えて、この国のためにできることをします」
俺たちは手を取り合って、微笑み合った。
その後のお披露目パーティーでは、皆からたくさんの祝福を受けた。
「おめでとうございます、ジェラルド様! ユージン様!」
「お二人ほど美しいご夫妻はこの大陸全土でも唯一ですわ!!」
「この結婚でクレーニュはますます発展するに違いない!!」
挨拶をする度に皆が祝福の言葉と嬉しそうな笑顔を向けてくれる。
ウォルターとエディだけは「何か酷いことされたらいつでも俺んとこに来い」「僕も同意です。もし兄を傷つけたらジェニングス家が全力で婚姻を破棄しますから」と宣言し、シャーリー公爵と父に怒られていた。
ジェラルドは笑って受け流していたが、とても小さな声で「アイツら、あとで覚えとけよ」と呟いていて。それを聞いた俺は笑いを堪えるのに苦労した。
転生したばかりの頃はこんな未来が待っているなんて思いもしなかった。
皆のためにも、もっとこの国のために尽くそうと改めて誓う。
ふいにジェラルドの右手が俺の左手を優しく握った。
驚いて視線を上げるが、ジェラルドは前を向いたまま広間の様子を眺めている。
「来月が今から待ち遠しい」
来月――12月は俺の誕生月だ。そして俺は次の誕生日でヒートを迎えることになる。
繋ぎ方が恋人繋ぎに変わって少し力が込められる。
ジェラルドは視線を俺に向け、熱っぽい瞳で告げた。
「早くおまえを俺だけのものにしたい」
ジェラルドの言葉の意味がわかり、顔がじわじわと熱を持つ。
恥ずかしくて嬉しくて。俺は蚊の鳴くような声で「はい」と返事をすることしかできなかった。
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