上 下
149 / 153
4章 社会人編

<21>通じ合った想い4

しおりを挟む
その後、皆が一丸となって仕事に取り組んだ甲斐あって貧民街は劇的な改善を遂げた。俺たちの組織も実績を評価され、「ここで働きたい」と志望する人たちも増えた。気がつけば当初とは比較にならないほどの大きな組織になっている。

忙しない日々を送るうちに月日はあっという間に過ぎていく。
11月、ジェラルドと俺は正式に結婚した。王子の結婚とはいえ、次期国王でもない限りは静かに式を執り行うのがクレーニュの慣習だ。

相手が他国の王子の場合はもっと大々的に祝う。だが国内の貴族を相手に迎える場合は身内だけの式と、国中の貴族を招待したお披露目パーティを行って終了だ。

「うう……緊張する……パーティって苦手なんだよなあ」
「ユージン様、とてもお美しいです!」
「こんな素敵な奥様をお迎えできるなんて、ジェラルド様は幸せですわ!」

白と金糸で作られた豪華な結婚用の衣装に身を包んだ俺は、落ち着かない気持ちで部屋の中を行ったり来たりしている。
(今日は挨拶もしなきゃいけないし……ダンスもあるし……憂鬱だ)

俺の様子を侍女たちは生温かい目で見守ってくれている。
「さあユージン様。仕上げに御髪を整えてしまいましょう」
「わ、わかった……」

立ち歩きを止め、大人しくドレッサーの前に座る。支度が全て終わった頃、ジェラルドが控室へやって来た。彼は部屋に入るなり、二人で話しがあるからと侍女たちを外で出してしまう。

二人きりになった部屋の中、気まずさに窓の方へ行こうとすると腕を取られる。
「ユージン……今日は一段と綺麗だな」
甘い声と蕩けるような瞳に、体中の血液が沸騰する。

「お、俺なんかよりジェラルド様のほうがお綺麗ですから」
俺と同じ、白と金糸で作られた豪華な衣装のジェラルドは物語の王子様そのものだ。こんなに美しい王子が存在するのかと見惚れてしまう。

「そんなことはない。誰よりもユージンが綺麗だ。綺麗で可愛い。こんな素敵な子が俺の妻になるのかと思うと……嬉しすぎで世界中に言いふらしたくなる」
「そんな……言い過ぎです」
「言い過ぎなものか。足りないぐらいだよ」

ジェラルドは言葉を一度切って、再び俺を見つめた。その目はどこまでも優しい。
「あらためて、俺を選んでくれてありがとうユージン。俺は一生かけておまえのことを世界中の誰よりも幸せにすると誓う」
「俺も、ジェラルド様のことを支えて、この国のためにできることをします」
俺たちは手を取り合って、微笑み合った。

その後のお披露目パーティーでは、皆からたくさんの祝福を受けた。
「おめでとうございます、ジェラルド様! ユージン様!」
「お二人ほど美しいご夫妻はこの大陸全土でも唯一ですわ!!」
「この結婚でクレーニュはますます発展するに違いない!!」

挨拶をする度に皆が祝福の言葉と嬉しそうな笑顔を向けてくれる。

ウォルターとエディだけは「何か酷いことされたらいつでも俺んとこに来い」「僕も同意です。もし兄を傷つけたらジェニングス家が全力で婚姻を破棄しますから」と宣言し、シャーリー公爵と父に怒られていた。

ジェラルドは笑って受け流していたが、とても小さな声で「アイツら、あとで覚えとけよ」と呟いていて。それを聞いた俺は笑いを堪えるのに苦労した。

転生したばかりの頃はこんな未来が待っているなんて思いもしなかった。
皆のためにも、もっとこの国のために尽くそうと改めて誓う。

ふいにジェラルドの右手が俺の左手を優しく握った。
驚いて視線を上げるが、ジェラルドは前を向いたまま広間の様子を眺めている。

「来月が今から待ち遠しい」
来月――12月は俺の誕生月だ。そして俺は次の誕生日でヒートを迎えることになる。
繋ぎ方が恋人繋ぎに変わって少し力が込められる。
ジェラルドは視線を俺に向け、熱っぽい瞳で告げた。
「早くおまえを俺だけのものにしたい」
ジェラルドの言葉の意味がわかり、顔がじわじわと熱を持つ。
恥ずかしくて嬉しくて。俺は蚊の鳴くような声で「はい」と返事をすることしかできなかった。
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

処理中です...