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4章 社会人編

<5>養護院の実態1

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馬車の中でもドタバタした空気は、現地に着いてすぐに一変した。
俺の提案で、養護院を領地内に設立した貴族には申請すれば毎年ある程度の金額の運営費を税金から支払う制度を作った。

申請はかなり面倒なので、ほとんどの場合は俺たちに賛同して本気で貧しい領民や子どもたちの生活を支援したいという貴族だ。

しかし、ごく稀に運営費を懐に入れて浪費生活を送る輩もいる。それらを見つけ出し、正すために抜き打ちの視察を行っている。抜き打ちの視察にしたのは、事前に通告すると実態を隠ぺいされる可能性があるからだ。

院長は俺たちの姿を認めると、明らかに慌てていた。なんとか理由をつけて養護院の方へ行かせまいとする院長を押しのけて、俺たちは養護院の建物へと向かう。

大きな屋敷の敷地内にはお世辞にも綺麗とは言えない二階建ての古びた屋敷が建っていた。

「なんだよ……これ」
あまりのひどさに唖然としてしまう。

「ひどすぎるな」
「ありえねーだろ。どうなってんだよ」
ジェラルドとウォルターの顔つきも一気に険しくなる。ウォルターは院長が逃げないように魔力で拘束して俺たちの前を歩かせる。


開け放たれた玄関扉の近くではボロボロの服を着た子どもたちが地面に絵を描いたり、追いかけっこをしたりして遊んでいる。

皆、体は驚くほど細い。髪の毛は男の子も女の子も伸び放題で、顔も手足も汚れている。少し近づくと、異臭が漂ってきた。

前世、駅や路上で生活している人たちの横を通り過ぎた時と同じ臭いがする。

「おいジジイ。どういうことだよ」
ウォルターに凄まれ、院長はひぃと小さく悲鳴を上げた。

「これは……その……運営費用が不足しておりまして」
その言葉にジェラルドが口角を上げる。だがその目は冷たく凍っていた。

「運営費が不足? 毎年100万リーブルの支給で事足りないのですか。それは大変ですね。すぐに確認させてもらいましょう」

そう言うと俺の手を引いて建物の中に入って行く。後ろからは「いけません、だめです」と叫ぶ院長の声とウォルターの怒声が聞こえる。

足を踏み入れた瞬間、ジェラルドと俺は息を呑んだ。
入ってすぐ、右手には扉のないダイニングのような部屋がある。大きなテーブルはボロボロで、椅子は背もたれもない丸椅子だ。

近づいてみると、脚がガタガタになっていたり、釘が飛び出しているものもある。クッションも引いておらず、皮張りでもない椅子は少し座っているだけで尻が痛くなるはずだ。

その上、窓ガラスはところどころヒビが入ったり小さな穴が空いている。長い間、磨かれていないのか晴れているのにぼんやりと曇っていた。

「こんな不衛生な場所で子どもたちに食事をさせているのか」
ジェラルドが地を這うような声で唸る。

部屋を出て埃だらけの階段を上がる。申請書によれば、2階には子どもたちの寝室があることになっていた。

寝室にもドアがなく、申し訳程度のボロ布が暖簾のように掛けられている。くぐって中に入って、俺たちは絶句した。
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