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4章 社会人編

<2>ジェラルドと食事1

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ジェラルドは料理する俺を椅子に座って眺めたり話しかけたりしてくる。「ユージン補給」とやらが終わった俺たちはキッチンに移動した。

クレーニュの王宮はとても広い。
ジェラルドの私室がある東の棟の3階部分ははすべて彼に関する部屋で占められている。

今日のような場合、同じ階にある調理室で俺が料理をすることが多い。普段はここでジェラルド専属の使用人たちが調理をしている。だが俺が来るときは事前に指示が出ているのか、誰もいなかった。
とりあえず鍋にお湯を沸かしながらジェラルドに問いかける。

「何か食べたいものあります?」
「きみが僕のために作ってくれるものならなんでも」

「……ええと、昨晩は何を召し上がったのですか?」
「キャビアを添えたオマールとブレス鶏のドゥミドゥイユだったかな」

ドゥミドゥイユとは半喪服という意味だ。一見、縁起が悪そうな名前だが、鶏の肉と皮の間に薄くスライスしたトリュフを挟みこんで、香味野菜やブイヨンで煮込んだ非常に贅沢な料理である。

白いソースとトリュフの黒から“半喪服”と名づけられたらしいが、ネーミングセンスが微妙だなと思う。けれどそんな豪華なものばかり食べていたら、内臓も疲れてしまうだろう。

「今日はじゃあ、野菜多めの軽いものにしますね」
「いいな。きみの料理はなんでもおいしいから、楽しみだ」

ちょうど今度の炊き出しで作ってみようと思っていた料理がある。だがこの調理室にはその材料がない。

(仕方ない、家から取ってくるか)
とはいえ今から戻る時間はない。魔力を使って目の前に液晶画面のようなものを目の前に出す。そこには家の裏庭が映っている。

俺はここで、一般庶民でも苗を買ったり簡単に育てたりすることができる野草の数々を試験的に育ているのだ。

画面の中に手を突っ込むんで、いくつかの野草を必要な分だけ引っこ抜く。こういう時、魔法のある世界の素晴らしさを実感する。

「なんだそれは?」
ジェラルドが興味津々といった体で近づいてきた。

「うちの裏庭で育てている野草です。王都のあちこちに自生しているものも多いんです」
よく洗って土や汚れを落とし、用途別に選り分けていく。

まずはスウォンジーとレスターベリーを使ったサラダ。スウォンジーはキャベツを小さくしたような形で、キャベツとレタスの中間のような柔らかさを持つ。

これに枝豆のような実をつけるレスターベリーの実で作ったペーストをのせ、オリーブオイルと塩で調味する。全部緑色のサラダなのだが、これが実に美味しいのだ。

2品目はキッシュ。卵はこの国では安く簡単に手に入る栄養源でもある。具にはほうれん草によく似たランベスを使う。ほうれん草と違ってえぐみがないので、下ゆでをしなくても使うことができる。

さすがにランベスだけでは寂しいので、厚切りにした角切りのベーコンを少しと玉ねぎに似たリムリックという野草も投入する。

あとはデザートに紅茶を使ったシャーベットを作って完了だ。できた料理をジェラルドのダイニングに運びこむ。

サラダを一口食べるなりジェラルドが驚いた声を出す。
「なんだこれは! すごくおいしい。少しも青臭さがないし、甘みすら感じる」

「本当ですか? よかった!」
俺さっそくフォークを持った。どちらも試作はしていたものの、やはり第三者に食べてもらわないと心配なのだ。

「ああ。キッシュもうまい。ベーコンが少ないような気がしていたが、卵のコクがあるから、これくらいでちょうどいいのかもしれない」
ジェラルドは感想をいいながらもフォークを動かす。綺麗な仕草でたっぷりあった料理をあっという間に平らげていく。

「ユージン、今日もありがとう。きみが僕だけのために作った料理を食べていると、きみの愛情を体の中に取り込んでいるような気がする」
「あ、はは……ありがとうございます」

ジェラルドは立ち上がると俺の手を取る。
「俺の部屋で少し休憩しようか。食後のお茶を飲もう」
「はい」

俺はジェラルドについて彼の寝室へと移動した。
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