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3章 王立学院編ー後編―
<60>ルーイ先輩の荒療治
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久しぶりに訪れた部屋は相変わらずどこか薄気味悪い。先輩は腕を掴んだままソファに座る。腕をぐいと引っ張られてバランスを崩して、俺も隣に座ってしまった。
「ジェラルドと揉めてるようだな」
なんの前触れもなく核心を突かれて、言葉が出てこない。ルーイ先輩は何を考えているのかわからない目で俺を見た。
「揉めてるというか……もう婚約も破棄すると思うので、話すことも一緒にいる意味もないというか」
「ほう。面白い」
先輩はいつもこうだ。怒る気もなくして俺は笑った。
「ジェラルド様には、ちゃんと大事にしたい人がいるみたいですから」
ルーイ先輩は特に驚きもしなかったが、少し考える様子を見せた後、口を開いた。
「ジェラルドの相手というのはアバディーンの娘のことか?」
「相手のことは俺、知らなくて」
「薄紫色の髪に紫紺の目をした女生徒だ」
「なんで、知って」
言いかけて言葉を飲み込んだ。そりゃそうだよな。ルーイ先輩が気づかないわけがない。
「そうか、なるほどな。おまえはジェラルドがあの女のことを想っていると考えているわけか」
そうです、とい言葉は喉に張り付いてしまった。認めてしまうことで、何かが決定的になってしまうようで怖かった。
「ジェラルドとは直接、話をしてはいないのだろう」
「なんて言ったらいいか、わからなくて」
「俺は面白いからこのままでも問題ないがな。お前はそういうわけでもないんだろう。ずいぶんとつらそうな顔をしている」
言葉は相変わらず優しさのかけらもないが、赤い目に光るのは好奇の色だけではない。
「そうですね…….」
「話をしてみろ。お前の目で見て感じたことが真実とは限らない……対話せずに決めつけると碌なことにならないから」
「はい」
「ジェラルドと話をして、それでもおまえの心が晴れないのなら、俺と一緒にアウスブルクに来い」
「はい?」
「卒業など待たなくても問題ないだろう。俺に合わせてもお前も2年でやめてしまえばいい」
「いやいや…あの、え?」
何を言っているんだろうか。いつも突拍子とないことばかり言ったり自分ルールで動くことはよく知っている。だが、それにしたって理解に苦しむ。
「すみません。まったく意味がわかりません」
「なに。簡単だな話だ。ジェラルドと婚約破棄することになったら俺とアウスブルクに来いと言っている」
「どうしてですか?」
「俺が一番嫌いなことを知っているか?」
「嫌いなこと…そうですね、つまらないこととか」
ルーイ先輩は満足そうに頷く。
「そうだ。俺が何より忌み嫌うのは退屈だ。その点おまえはいつも思いもよらないことをしでかして、楽しませてくれる」
「はあ…」
褒められているのだろうか。なんだか複雑な気分になる。
「退屈しないということは大切だぞ。飽きることがないのと同じなのだから。それとも…」
ルーイ先輩は急にぐっと体を近づけてくると、片手で腰を抱いた。
「愛している、お前が欲しい。だから一緒に来てくれ…とでも言って欲しいのか」
「ちがっ、そんなんじゃ……うわっ」
笑いを含んだ低い声に背筋がゾワリとする。耳元で囁いたかと思うと、ぬるりとしたものが耳孔に入り込んできた。
「ちょっと、なにっ……うっ」
逃げようと暴れるが、腰に回された腕と、長い脚を絡ませられて簡単に抑え込まれてしまう。
両手首はもう片方の手に掴まれて身動きができない。
(油断した!こいつの部屋に連れ込まれて散々危ない目に遭ってきたっていうのに!)
耳全体を舌で舐め回したかと思うと、耳たぶを甘噛みされる。その度に意思とは無関係に腰が跳ねた。
「ほんと、に、も、やめ……」
今度は耳孔に尖らせた舌先を突っ込まれる。じゅぽじゅぽとわざとらしい音を立てて抜き差しされると、体中の力が抜けていく。
(やばい…これ、気持ちいい…)
快楽に弱いチョロい身体が緩く反応し始めている。
「あ、や、ん……んっ」
もうダメだ、そう思った瞬間にパッと身体が解放される。
「え?」
先輩は唾液で濡れた唇を真っ赤な舌で見せつけるように舐めた。
「なんだ。もっとして欲しいのか」
「ち…違います! なんでこんなこと…っ!」
「相談にのってやっただろう。その対価とでも思っておけ。話は終わりだ。帰っていいぞ」
まず俺、相談に乗ってほしいなんて一回も言ってないんだが。だがそんな正論がこの人に通用するはずがない。
扉の取手に手をかけると、名前を呼ばれた。
「なんでしょうか」
「冗談じゃないからな。ジェラルドと破局したら考えておけ。お前が俺を退屈させないなら、俺もおまえを楽しませてやる」
俺は曖昧に笑って誤魔化して、急いで魔の部屋を飛び出した。
「ジェラルドと揉めてるようだな」
なんの前触れもなく核心を突かれて、言葉が出てこない。ルーイ先輩は何を考えているのかわからない目で俺を見た。
「揉めてるというか……もう婚約も破棄すると思うので、話すことも一緒にいる意味もないというか」
「ほう。面白い」
先輩はいつもこうだ。怒る気もなくして俺は笑った。
「ジェラルド様には、ちゃんと大事にしたい人がいるみたいですから」
ルーイ先輩は特に驚きもしなかったが、少し考える様子を見せた後、口を開いた。
「ジェラルドの相手というのはアバディーンの娘のことか?」
「相手のことは俺、知らなくて」
「薄紫色の髪に紫紺の目をした女生徒だ」
「なんで、知って」
言いかけて言葉を飲み込んだ。そりゃそうだよな。ルーイ先輩が気づかないわけがない。
「そうか、なるほどな。おまえはジェラルドがあの女のことを想っていると考えているわけか」
そうです、とい言葉は喉に張り付いてしまった。認めてしまうことで、何かが決定的になってしまうようで怖かった。
「ジェラルドとは直接、話をしてはいないのだろう」
「なんて言ったらいいか、わからなくて」
「俺は面白いからこのままでも問題ないがな。お前はそういうわけでもないんだろう。ずいぶんとつらそうな顔をしている」
言葉は相変わらず優しさのかけらもないが、赤い目に光るのは好奇の色だけではない。
「そうですね…….」
「話をしてみろ。お前の目で見て感じたことが真実とは限らない……対話せずに決めつけると碌なことにならないから」
「はい」
「ジェラルドと話をして、それでもおまえの心が晴れないのなら、俺と一緒にアウスブルクに来い」
「はい?」
「卒業など待たなくても問題ないだろう。俺に合わせてもお前も2年でやめてしまえばいい」
「いやいや…あの、え?」
何を言っているんだろうか。いつも突拍子とないことばかり言ったり自分ルールで動くことはよく知っている。だが、それにしたって理解に苦しむ。
「すみません。まったく意味がわかりません」
「なに。簡単だな話だ。ジェラルドと婚約破棄することになったら俺とアウスブルクに来いと言っている」
「どうしてですか?」
「俺が一番嫌いなことを知っているか?」
「嫌いなこと…そうですね、つまらないこととか」
ルーイ先輩は満足そうに頷く。
「そうだ。俺が何より忌み嫌うのは退屈だ。その点おまえはいつも思いもよらないことをしでかして、楽しませてくれる」
「はあ…」
褒められているのだろうか。なんだか複雑な気分になる。
「退屈しないということは大切だぞ。飽きることがないのと同じなのだから。それとも…」
ルーイ先輩は急にぐっと体を近づけてくると、片手で腰を抱いた。
「愛している、お前が欲しい。だから一緒に来てくれ…とでも言って欲しいのか」
「ちがっ、そんなんじゃ……うわっ」
笑いを含んだ低い声に背筋がゾワリとする。耳元で囁いたかと思うと、ぬるりとしたものが耳孔に入り込んできた。
「ちょっと、なにっ……うっ」
逃げようと暴れるが、腰に回された腕と、長い脚を絡ませられて簡単に抑え込まれてしまう。
両手首はもう片方の手に掴まれて身動きができない。
(油断した!こいつの部屋に連れ込まれて散々危ない目に遭ってきたっていうのに!)
耳全体を舌で舐め回したかと思うと、耳たぶを甘噛みされる。その度に意思とは無関係に腰が跳ねた。
「ほんと、に、も、やめ……」
今度は耳孔に尖らせた舌先を突っ込まれる。じゅぽじゅぽとわざとらしい音を立てて抜き差しされると、体中の力が抜けていく。
(やばい…これ、気持ちいい…)
快楽に弱いチョロい身体が緩く反応し始めている。
「あ、や、ん……んっ」
もうダメだ、そう思った瞬間にパッと身体が解放される。
「え?」
先輩は唾液で濡れた唇を真っ赤な舌で見せつけるように舐めた。
「なんだ。もっとして欲しいのか」
「ち…違います! なんでこんなこと…っ!」
「相談にのってやっただろう。その対価とでも思っておけ。話は終わりだ。帰っていいぞ」
まず俺、相談に乗ってほしいなんて一回も言ってないんだが。だがそんな正論がこの人に通用するはずがない。
扉の取手に手をかけると、名前を呼ばれた。
「なんでしょうか」
「冗談じゃないからな。ジェラルドと破局したら考えておけ。お前が俺を退屈させないなら、俺もおまえを楽しませてやる」
俺は曖昧に笑って誤魔化して、急いで魔の部屋を飛び出した。
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