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3章 王立学院編ー後編―

56<叶わないとしても>※ジェラルド視点

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「バカだとは思ってたけど……アンタって本っ当にどうしようもないバカね」
手に持った手鏡には眉間に皺を寄せたオリヴィアが映っている。魔力消費がバカにならないのであまり使わない通信手段だが、今日は仕方ない。

「その通りだな……本当に。ああ、なんであんな事言ったんだろう」
抱き合う二人を見た瞬間、瞼の裏が真っ赤になって頭に血がのぼってしまった。思ってももないことがどんどん口をついて出て、自分でも制御することができなかった。

もともとユージンのことに関しては心が広くはない自覚はあったが、こんなにも激しい嫉妬と独占欲という感情が自分の中に存在していたとは。

「ていうか、前から思ってたけど、今のアンタはどんなに恋愛テクニックを勉強したってダメね。私も忙しいし、これからはもうアンタの相談に乗るのはやめる。あ、でも創作活動の取材はさせてもらうわよ」
「え!? そんな……」

頼みの綱に突然、匙を投げられて動揺してしまう。だがオリヴィアは呆れたように鼻を鳴らしたたけだった。

「これだけは教えてあげる。アンタは相手を大事にするって言いながら自分のことしか考えてない」
「そんなことは……」

ない、と言えなかった。今日の行動を振り返ってもユージンを大事になんてできていないのは明らかだ。黙る俺にオリヴィアがさらに畳み掛ける。

「アンタはね、あの子に自分がどう思われてるか、自分があの子のことをどれだけ好きかを伝えるかしか頭にないのよ。でも本当に大切なのは、アンタのことじゃなくて、あの子がどう思うか、でしょ?」
「あ……」

その通りだ。それなのになんでこんな簡単なこと、他人に指摘されるまで気付くことができなかったんだろう。視線と頭が下がる。

項垂れる俺に、ジェラルド、と厳しい声が飛ぶ。顔を上げるとオリヴィアが真剣な目で俺の顔を見据えていた。

「アンタは子どものころから大人の顔色読んだり、相手の意図を汲み取って振る舞うのは得意だったクセに、なんで恋愛になるとそんなに不器用なのかしらね。まあでも、それも人間らしくていいのかしら……まだ完全に振られてないんだから、しっかりしなさい」

「……そうだな。ありがとう、オリヴィア」
その言葉にオリヴィアは親指を立てる仕草をして見せる。その直後、鏡の通信が切れた。

テーブルに手鏡を置いて立ち上がり、深呼吸をしてみる。

正直、状況は絶望的で振り向いてもらえる自信はゼロどころかマイナスだ。でも、執着深い俺はユージンを諦めるなんてできそうにない。

最後のチャンスになるかもしれないが、本当に大切にしなければならないことと向き合って考えてからユージンともう一度、話がしたい。

「最後まで、諦めてたまるかよ……」
情けなくてもみっともなくても、最後まで足掻こう。人生で唯一、心から欲しいと願ったことのために。
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