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3章 王立学院編ー後編―

32<嵐の前触れ>

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「なんだアイツら」

もとのユージンも今の俺も常に自分のことでいっぱいいっぱいだった。だから周囲のことまで気を配れていなかったのだ。

(そりゃジェラルドに俺以外の候補がいないわけないよな)
婚約者候補のひとりだったということはクレメントもオメガなのだ。オメガにしては凡庸な顔立ちなことを考えても、名前も出てこない、スチルで背景のように描かれるモブキャラの一人だったのかもしれない。

(当たり前だけど、モブだろうがメインだろうがこうして生きてる以上それぞれの人生とかドラマがあるんだなあ)

人気のない中庭のベンチに腰かけ、一人考えを巡らす。
(あの人、オメガだったんだな)

「俺なんかより、全然お似合いだったよな」
それでいい。あの人とジェラルドが結婚して、俺は実家に帰って悠々自適に生きる。最初に目標にしていたことはすべて叶うのだ。

(ジェラルドが俺のこと好きだって思ってんのも、気の迷いかもしれないしな)
転生して性格が一変したユージンのことがもの珍しくて興味を持ったのを恋と勘違いしていただけなのかもしれない。

「そうだ生徒会、行かなきゃ」
なぜか体に力が入らない。よろよろと立ち上がって校舎の方へ向った。


「すみません、遅くなって」
生徒会室にはすでに全員が集合していた。中に入るとエディが駆け寄ってくる。
「大丈夫、ちょうど僕とウォルターも今きたところだから。というか具合悪いの? 顔色、すごく悪いけど」

「真っ青だぞ。帰った方がいいんじゃねえの?」
ウォルターも心配そうな目をしている。

「俺、大丈夫だよ」
なんとか笑顔を作ってみせるが、皆の目はごまかせない。

「ジェラルド、今日は急ぎで審議が必要なことはなかったな。ユージンは帰らせた方がいいだろう」

ルーイ先輩の言葉に、体が硬くなる。今日もジェラルドと目を合わせることができないが、彼の視線が全身に注がれているのを感じる。

束の間の沈黙の後、ジェラルドが口を開いた。
「……そうだな。ユージン、今日はもう帰ったほうがいい」

「すみません。ありがとうございます」
俺は斜め下に視線を向けたまま頭を下げる。寮まで送るというエディを制止して一人、廊下を歩く。

以前だったらこんな時は有無を言わさずジェラルドが送ってくれた。けれど今日は帰れと言われただけだ。

(そりゃ愛想も尽きるよな。これだけずっと避けてたら……)
ため息を吐いて校舎を出る。瞬間移動して部屋に戻ろうかとも思ったが、なんとなくもう少し外の空気を吸いたい気分だ。

すでに薄暗くなった敷地内を一人歩く。気がつくと足は自然に菜園に向いていた。空にはすでに月が顔を出し、星が輝いている。思わず足を止めてじっと見上げてみる。

「綺麗だな」
絵を描くとき、なぜか黄色や金色で表現されることが多いが月も星も白く輝いている。空も真っ黒ではなく、とても濃い青をしている。

前世と違いネオンや照明がないので、夜の空はとても美しい。
「天然のプラネタリウムだな」

どれくらいそうしていただろうか。少しだけすっきりした気がして、寮へ戻ろうとしたその瞬間。

後頭部に強い衝撃を受け、俺は意識を失った。
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