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3章 王立学院編ー後編―

18<マンドレイクの惚れ薬>

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「もう朝になったのか」
だるい体を叱咤してなんとか起き上がる。昨夜はよく眠れず、悶々としているうちに朝を迎えてしまった。

「……寒いな」
背筋に悪寒が走る。そんなに気温は低くないはずなのにやたらと寒い。身体をぶるりと震わすと鳥肌が立った。なんだか関節も痛いし頭も痛い。

どう考えても熱の出る前の症状に近い。少し考えてから、やはりベッドから出ることにした。部屋の中を歩き回ってみる。少しフラつくがこれなら1日くらいは大丈夫そうだ。

今のところ少し鼻が詰まっているくらいで、咳や喉の痛みもない。それに、今日の魔法薬草の授業にはどうしても出たい。

幸運なことに魔法薬草学の授業は1限目だった。もし具合が悪くなったら1限が終わった後に早退すればいいのだ。

薬草学は普段の教室ではなく、大学の講堂を小さくしたような薬草学実験室と呼ばれる教室で行う。先生に質問したいこともたくさんあるので、誰よりも早く教室へ息、一番前を陣取った。

やがて皆が少しずつ揃い、魔法薬草学のボーズウィック先生が現れる。濃紫色の髪に薄紫の瞳を持つ彼は、この分野においてはこの国で一番と言われるほどの研究成果を誇っている。

先生は室内を見渡すとにっこりと微笑む。
「みなさん、おはようございます。本日は魔法薬草を使った実験を行います」

その言葉に頬が緩んでしまう。今日の魔法薬草学で使用するのはマンドレイクという魔法薬草だ。前世のアニメや漫画の中では何度も見てきたことはあったが、この世界のものは少し違う。

まず引き抜いても悲鳴は上げないのでそれを聞いて死ぬこともない。根は二股に別れた大根のようになっていて、そのすべてにムンクの叫びのような模様が入っている。それがまるで人の顔のように見えて若干、気味が悪い。
ボーズウィック先生のアシスタントが数名、教室に入ってくると俺たちの前に一つずつ、マンドレイクの入った銀のトレイを静かに置いていく。

(これが……マンドレイク!)
薄気味悪いマンドレイクだが、ラブ・アップルという別名を持っている。味と香りが林檎に似ているらしいのだが、それだけではない。

マンドレイクは調剤方法によって、いくつかの薬となる。回復薬、睡眠薬、そして惚れ薬だ。俺はこの惚れ薬の技術を使って、将来的に我が領地の名物のひとつを作ろうと考えている。

惚れ薬といっても、マンドレイクから生成される惚れ薬は危険なものではない。お互いが両想い場合にのみ発動してどちらかが気持ちを伝えてしまうというハピーな薬なのだ。

(これを混ぜて作ったチョコレートをカレイドデーの日に売り出せば、絶対に売れる!)

授業で作るのは回復薬だけなのだが、向学のためにとレシピは睡眠薬と惚れ薬の分も渡される。先生の目を盗んで同時進行でこっそり惚れ薬も調合し始めたが、最後の仕上げの直前までしか作ることができなかった。
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