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3章 王立学院編ー後編―

15 <急降下した気持ちの正体>

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その後どうやって部屋に戻ったのか、ぼうっとしていてよく覚えていない。戻って来た部屋の中、ベッドに仰向けになって目を閉じる。

先ほどまでのジェラルドとの一連の行為が頭の中で勝手に何度もループする。キスをしすぎたせいか、唇が少しじんじんする。

熱っぽい体を持て余して何度も深呼吸を繰り返す。それでも熱はおさまらなくて、起き上がって窓に手をかけた。

「え……?」
何気なく視線を下ろした視線の先に見えた光景。にわかには信じられずに俺は何度も瞬きをした。

俺が見ていることに気づくはずもなく、ジェラルド先輩とあの女生徒が女子寮の方へ並んで歩いていく。急に心拍数が跳ねあがる。これはなにか良くないことに遭遇したときに起きる動悸だ。

女生徒の顔は初めてしっかりと見たが、とても綺麗な人だった。どことなくジェラルドに似ている気さえする。

一方のジェラルドは熱心に彼女に話しかけている。彼女の方はただ頷いて聞いているように見えたが、ジェラルドは嬉しそうに笑っていた。

(俺の前じゃなくても、あんなふうに笑うんだな)
そう思った瞬間、胸の奥がツキンと痛んだ。

(俺、ショック受けてるのかな……でも、なんでだ?)
ぼんやりと自問しているうちに、二人の姿はもう目で追うのがやっとというほどの距離に移動していた。

さっきまでのふわふわした気持ちは一瞬のうちにして消え去り、心はずっしりと重くなる。

さっきまで俺を抱き締めてキスして可愛い、好きだと甘い笑顔を浮かべていたのに、今は別の人の隣を歩いているなんて。
それに、どうして俺はこんなに嫌な気持ちになっているんだろう。考えがまとまらないまま、よろよろとベッドへ戻って再び仰向けに転がる。

「これから何するんだろ」
もしかして、寝ぼけて俺にしたようなことをするんだろうか。頭の中で2人が激しく絡み合う姿が嫌になるほどクリアな解像度で再生される。

「俺以外とするなって言ったくせに」
無意識に口を突いて出た言葉に自分でもハッとする。

(そうか、俺……ジェラルドが自分以外と楽しそうにしてるのが嫌なんだ)
その瞬間、頭の中に思い浮かんだのは前世でよく実家に現れていたノラ猫だった。

額の真ん中に三日月のような傷跡があるボスと呼ばれるオス猫で、その辺の人間なんて気圧されてしまうほどのオーラのある大きな猫だった。

節約のために作った家庭菜園を荒らすので、スーパーで買った激安のカリカリや猫缶を出しているうちになぜか俺にだけは頭や背中を撫でさせてくれたり、近寄ってくるようになった。

特段動物好きなわけでもなかったので特になにも感じていなかったのだが、数日家を開けて帰宅すると、ボスは母と姉にかわるがわる頭や背中を撫でられていたのだ。

それを見た時、俺はなんだか面白くない気分になっててボスに声をかけた。きっとボスは母や姉など見向きもせずに俺のところに来てくれるだろうと思ったのだ。

だがボスはチラリと俺を見た後、顔をふいと逸らしただけだった。俺だけに懐いていたと思ったボスを家族に取られてしまったような気がして、その後少しだけ母と姉に反抗的な態度を取ってしまったのだ。

この気持ちは間違いなくあの時感じたものと同じだと思う。
「そうか……俺、ジェラルドが他の人と楽しそうにするのが嫌なんだ…」
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