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3章 王立学院編ー後編―

9<弟のようなきみ>

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独り言を声に出した瞬間、コンコンと控えめに扉をノックする音が聞こえた。
(やべっ! 今の聞かれた!?)

慌てて起き上がって急いで扉を開ける。
「はいはーい! って…ウォルターじゃん」

「んだよ。俺じゃ悪ぃか」
「バーカ。そんなこと言ってないだろ。久しぶり…でもないな。3日前もうちに来てたもんな」

口を尖らせるウォルターを部屋の中へ招き入れると、彼は当たり前のように勝手にソファに腰かけた。

「なあ。喉渇いた」
ソファに座ったまま、顔だけ俺の方を向いて訴えてくる。

他の奴なら図々しいで終わるが、小さな頃から面倒を見てきたもう一人の弟のような存在のウォルターに甘えられるのは嫌いじゃない。

「はいはい。ちょうど今うちで試作してるお茶とお菓子持ってきたんだよ。
今出すから、ちょっと待ってな」

部屋の奥に箱ごと仕舞っていたお茶とお菓子を取り出す。
「これ、おまえが好きそうだとおも――」

振り返った瞬間、背後から優しく抱き締められた。驚きで身体が固まる。
「ウォルター? どうした?」

背中から心地良い体温と早い鼓動が伝わってきて、つられるように俺の心拍数も上がっていく。
「会いたかった」
ぶっきらぼうで少し怒ったような声。耳元に唇が当たって、さらに心音が跳ねあがる。

「な、に言って……まだ3日しか経ってないだろ」
「それでも寂しかった。俺は好きな奴には毎日会いたい」
ウォルターはそう言うと、俺の頬に音を立てて軽いキスを落とした。

「こらっ! なにしてんだ!」
ウォルターはすぐに離れた。悪びれもせず不敵に笑うアメジストの瞳は、俺が知らない顔をしている。

「いいだろ、これぐらい。そんな慌てなくてもこれ以上はしねーよ。それより喉渇いたから早く」
それだけ言って彼はソファに戻っていく。たった1年で見上げるほどに大きくなかった後ろ姿に見惚れている自分に気づき、俺はハッとした。

ブンブンと音が出そうなほど頭を激しく左右に振って煩悩を退散させると、俺はお茶とお菓子の準備に集中する。

食べる頃にはウォルターの雰囲気もいつも通りに戻っていて、楽しく時間を過ごすことができた。

「じゃ俺、そろそろ戻るわ」
「え? もう?」

「時間見てみろよ。もう3時間も経ってる」
「あ! ほんとだ。ウォルターと話してるといつもあっという間に時間たってる気がする。今日も楽しかった! またいつでも遊びに来いよ」

心からの笑顔を浮かべたつもりなのにウォルターの顔からは笑みが消える。
「ウォルター? どうした――」

次の瞬間、俺は扉の前で振り返ったウォルターに気づいたら正面から抱き締められていた。
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