上 下
71 / 152
3章 王立学院編ー後編―

9<弟のようなきみ>

しおりを挟む
独り言を声に出した瞬間、コンコンと控えめに扉をノックする音が聞こえた。
(やべっ! 今の聞かれた!?)

慌てて起き上がって急いで扉を開ける。
「はいはーい! って…ウォルターじゃん」

「んだよ。俺じゃ悪ぃか」
「バーカ。そんなこと言ってないだろ。久しぶり…でもないな。3日前もうちに来てたもんな」

口を尖らせるウォルターを部屋の中へ招き入れると、彼は当たり前のように勝手にソファに腰かけた。

「なあ。喉渇いた」
ソファに座ったまま、顔だけ俺の方を向いて訴えてくる。

他の奴なら図々しいで終わるが、小さな頃から面倒を見てきたもう一人の弟のような存在のウォルターに甘えられるのは嫌いじゃない。

「はいはい。ちょうど今うちで試作してるお茶とお菓子持ってきたんだよ。
今出すから、ちょっと待ってな」

部屋の奥に箱ごと仕舞っていたお茶とお菓子を取り出す。
「これ、おまえが好きそうだとおも――」

振り返った瞬間、背後から優しく抱き締められた。驚きで身体が固まる。
「ウォルター? どうした?」

背中から心地良い体温と早い鼓動が伝わってきて、つられるように俺の心拍数も上がっていく。
「会いたかった」
ぶっきらぼうで少し怒ったような声。耳元に唇が当たって、さらに心音が跳ねあがる。

「な、に言って……まだ3日しか経ってないだろ」
「それでも寂しかった。俺は好きな奴には毎日会いたい」
ウォルターはそう言うと、俺の頬に音を立てて軽いキスを落とした。

「こらっ! なにしてんだ!」
ウォルターはすぐに離れた。悪びれもせず不敵に笑うアメジストの瞳は、俺が知らない顔をしている。

「いいだろ、これぐらい。そんな慌てなくてもこれ以上はしねーよ。それより喉渇いたから早く」
それだけ言って彼はソファに戻っていく。たった1年で見上げるほどに大きくなかった後ろ姿に見惚れている自分に気づき、俺はハッとした。

ブンブンと音が出そうなほど頭を激しく左右に振って煩悩を退散させると、俺はお茶とお菓子の準備に集中する。

食べる頃にはウォルターの雰囲気もいつも通りに戻っていて、楽しく時間を過ごすことができた。

「じゃ俺、そろそろ戻るわ」
「え? もう?」

「時間見てみろよ。もう3時間も経ってる」
「あ! ほんとだ。ウォルターと話してるといつもあっという間に時間たってる気がする。今日も楽しかった! またいつでも遊びに来いよ」

心からの笑顔を浮かべたつもりなのにウォルターの顔からは笑みが消える。
「ウォルター? どうした――」

次の瞬間、俺は扉の前で振り返ったウォルターに気づいたら正面から抱き締められていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら、ラスボス様が俺の婚約者だった!!

ミクリ21
BL
前世で、プレイしたことのあるRPGによく似た世界に転生したジオルド。 ゲームだったとしたら、ジオルドは所謂モブである。 ジオルドの婚約者は、このゲームのラスボスのシルビアだ。 笑顔で迫るヤンデレラスボスに、いろんな意味でドキドキしているよ。 「ジオルド、浮気したら………相手を拷問してから殺しちゃうぞ☆」

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと

糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。 前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!? 「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」 激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。 注※微エロ、エロエロ ・初めはそんなエロくないです。 ・初心者注意 ・ちょいちょい細かな訂正入ります。

音楽の神と呼ばれた俺。なんか殺されて気づいたら転生してたんだけど⁉(完)

柿の妖精
BL
俺、牧原甲はもうすぐ二年生になる予定の大学一年生。牧原家は代々超音楽家系で、小さいころからずっと音楽をさせられ、今まで音楽の道を進んできた。そのおかげで楽器でも歌でも音楽に関することは何でもできるようになり、まわりからは、音楽の神と呼ばれていた。そんなある日、大学の友達からバンドのスケットを頼まれてライブハウスへとつながる階段を下りていたら後ろから背中を思いっきり押されて死んでしまった。そして気づいたら代々超芸術家系のメローディア公爵家のリトモに転生していた!?まぁ音楽が出来るなら別にいっか! そんな音楽の神リトモと呪いにかけられた第二王子クオレの恋のお話。 完全処女作です。温かく見守っていただけると嬉しいです。<(_ _)>

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

BL
 俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。  ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。 「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」  モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?  重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。 ※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。 ※第三者×兄(弟)描写があります。 ※ヤンデレの闇属性でビッチです。 ※兄の方が優位です。 ※男性向けの表現を含みます。 ※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。

処理中です...