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3章 王立学院編ー後編―

6<突然素直になられても>

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「ほう。招くがいい」
ルーイ先輩が体をぴったりとくっつけたまま、楽し気に笑う。ニックはかしこまりました、と呟いて部屋を出ていく。

「……先輩、なに勝手なこと言ってるんですか。ここ俺の家なんですけど」
話しながらも抵抗を試みる。が、変わらずびくともしない。そうこうしているうちに、廊下にコツコツとブーツの音が響き、部屋の前で止まる。

扉が開く。そこにはいつも通りキラキラと無駄に輝くジェラルドが立っていた。
完璧な王子スマイルを浮かべた彼は俺たちの座るソファまで近づいてくる。

途端に、俺の身体は見えない強い力に吸い寄せられるようにルーイ先輩から離れた。そうして浮いた身体はジェラルドの腕の中まで飛んでいき、お姫様抱っこのような形で落ち着いた。

今までなら離してくださいとすぐに言えたはずが、顔を合わせるのがあの日以来ということもあり、声をかけることができない。

ジェラルドは俺を抱いたまま周囲を見回した。
「ユージンと二人だけで話しがあるから失礼するよ。じゃあ」

言い終わるや否や、目の前の風景が変化する。ここは庭の奥にあるバラ園だ。ジェラルドは俺を抱えたまま、園内にあるガゼボと呼ばれる洋風の東屋へと歩いていく。

「……懐かしいな。むかしはこのバラ園で遊んだこともあったよな」
「え? ああ、はい……」

真っすぐに前を向いて歩きながら、ジェラルドが話しかけてきた。あの日が嘘のような、いつもと変わらない様子に戸惑ってしまう。

ガゼボまで辿り着くとジェラルドは中のベンチに俺をそっと降ろしてくれた。

しばらく沈黙流れる。心地良いそよ風にのって、バラの甘く爽やかな香りが漂ってくる。そのおかげで緊張した気まずい空気の中でも、ほんの少し心が和らいだ。


「この前は、すまなかった。……気が動転していて…あれは本心じゃない」

「えーと、あの…本心じゃないっていうのは、その……俺、のことが…好…きだっていうのが本心じゃないって意味ですよ、ね……?」

ジェラルドの地雷を無自覚に踏んでしまう癖があるので、慎重に言葉を選ぶ。緊張して、何度もつっかえそうになり訊ねると、ずっと前を見たまま話していたジェラルドが初めてこちらに視線を向けた。

久しぶりに正面から見るジェラルドは、見惚れるくらい美しい。
アクアマリンの双眸は吸い込まれそうなほど澄んでいる。日を受けて輝く白銀の髪は、依然より少しだけ伸びた気がした。

「そうじゃない。もう二度と触れないと言っただろう。本心じゃないのは、そっちのことだ」
「え、じゃあ本当に俺のこと――」
「好きだ」

被せるように、けれどきっぱりとした声で気持ちを告げられる。

「ユージン、好きだ。本当は、ずっと前から好きだった。だから…婚約破棄の話はなかったことにしてほしい」

「えっ」
人間、驚きすぎるとリアクションが薄くなるらしい。驚きのあまり声が喉に張りついて出てこなくなった俺は、何度も小さく「え」と意味のなさない言葉を繰り返した。
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