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2章 王立学院編ー前編―
51<灰色のカリアドデー>※2章最終話
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季節はあっという間に過ぎていく。
ジェラルドと話をしなくなってから、数ヶ月が経った。もう上期も終わりにさしかかっている。
学院は2つの学期に分かれているのだが9月の終業式の後、ひと月ほどの休暇をはさみ再び11月から下期の授業が始まる。
今までは休暇でもジェラルドは三日にあけず屋敷へ顔を見せていたが、今回はきっと会う事はないだろう。
生徒会で顔を合わせるとき以外、俺はもう彼がどこで何をして、誰といるのかも知らない。
(寂しいけど……これで良かったのかもしれないな)
静かな部屋の中でぼんやりと窓辺に座って外を眺めてる。学院の周囲は自然が多く、景色を眺めているだけでも心が癒されるのだ。
それにしてもいつもより外に人が多い。それもそのはず今日は終業式前の最後の一大イベントである、カリアドデーなのだ。
カリアドデーとは愛の日という意味の古語で、この日はオメガからアルファに愛や感謝をお菓子とともに伝えることになっている。
元々は恋人同士や意中の相手に想いを伝える日だったらしいが、今では友達同士や家族、仕事関係の知人などにも渡すケースも多い。ただこれはあくまでもアルファとオメガだけのイベントなので、ベータしか存在しない一般市民には浸透していない。あくまでも王侯貴族だけのイベントだ。
前世でいうところのバレンタインデーのようなもので、俺はいつもチョコレートクッキーを焼いて家族や友達に配っていた。
――形だけでも婚約者だからな。俺のは皆とは区別して作れよ――
ジェラルドはそう言って、他の誰より大きなクッキーを希望した。
綺麗にラッピングしてありきたりの感謝のメッセージを書いたカードを添えて渡すと、悪態を吐きながらも嬉しそうに目を輝かせていたのを思いだす。
俺の作るチョコレートクッキーはもともとジェラルドの好物だった。だから喜んでいるのだと思っていた、つい数ヶ月前までは。
今年はどうしようか直前まで迷ったけれど渡す気にもなれずこうして部屋に引きこもっている。
だが、ライティングチェストの上には青い包装紙と白銀色のリボンでラッピングした大きな包みが置いてあった。
(作るだけは作っちゃったんだよな……どうしよう。部屋の扉の前にでも置いておこうかな。それぐらいなら許してくれるかな)
ため息を吐いて、チェストの上から再び窓に視線を戻す。その瞬間、心臓がドクリと嫌な音を立てた。
「……え」
窓の外、少し遠くに見える均整の取れた後ろ姿と白銀の髪。そしてその横には、薄紫色の長い髪をなびかせた見知らぬ女性徒が歩いていた。
女生徒が横を向く。紫紺の大きな瞳が嬉しそうに細められ、隣を歩くジェラルドも彼女を見て微笑んでいた。
その手にはピンク色の包装紙に包まれたプレゼントボックスが抱かれていた。ジェラルドが手にしているのは明らかにカリアドデーのお菓子だろう。
今まで彼は俺のクッキー以外を受け取ったことがなかった。少なくとも俺の知る限りでは。その彼が、俺以外からのお菓子を受け取ったという事は。
「もしかして婚約破棄、予定より早まっちゃったりして」
部屋中に俺の情けなく震えた声が響く。
そうしてジェラルドとは一度も碌に言葉を交わすことはなく終業式を迎え、俺たちは長い休暇に突入してしまったのだった。
ー3章へ続くー
ジェラルドと話をしなくなってから、数ヶ月が経った。もう上期も終わりにさしかかっている。
学院は2つの学期に分かれているのだが9月の終業式の後、ひと月ほどの休暇をはさみ再び11月から下期の授業が始まる。
今までは休暇でもジェラルドは三日にあけず屋敷へ顔を見せていたが、今回はきっと会う事はないだろう。
生徒会で顔を合わせるとき以外、俺はもう彼がどこで何をして、誰といるのかも知らない。
(寂しいけど……これで良かったのかもしれないな)
静かな部屋の中でぼんやりと窓辺に座って外を眺めてる。学院の周囲は自然が多く、景色を眺めているだけでも心が癒されるのだ。
それにしてもいつもより外に人が多い。それもそのはず今日は終業式前の最後の一大イベントである、カリアドデーなのだ。
カリアドデーとは愛の日という意味の古語で、この日はオメガからアルファに愛や感謝をお菓子とともに伝えることになっている。
元々は恋人同士や意中の相手に想いを伝える日だったらしいが、今では友達同士や家族、仕事関係の知人などにも渡すケースも多い。ただこれはあくまでもアルファとオメガだけのイベントなので、ベータしか存在しない一般市民には浸透していない。あくまでも王侯貴族だけのイベントだ。
前世でいうところのバレンタインデーのようなもので、俺はいつもチョコレートクッキーを焼いて家族や友達に配っていた。
――形だけでも婚約者だからな。俺のは皆とは区別して作れよ――
ジェラルドはそう言って、他の誰より大きなクッキーを希望した。
綺麗にラッピングしてありきたりの感謝のメッセージを書いたカードを添えて渡すと、悪態を吐きながらも嬉しそうに目を輝かせていたのを思いだす。
俺の作るチョコレートクッキーはもともとジェラルドの好物だった。だから喜んでいるのだと思っていた、つい数ヶ月前までは。
今年はどうしようか直前まで迷ったけれど渡す気にもなれずこうして部屋に引きこもっている。
だが、ライティングチェストの上には青い包装紙と白銀色のリボンでラッピングした大きな包みが置いてあった。
(作るだけは作っちゃったんだよな……どうしよう。部屋の扉の前にでも置いておこうかな。それぐらいなら許してくれるかな)
ため息を吐いて、チェストの上から再び窓に視線を戻す。その瞬間、心臓がドクリと嫌な音を立てた。
「……え」
窓の外、少し遠くに見える均整の取れた後ろ姿と白銀の髪。そしてその横には、薄紫色の長い髪をなびかせた見知らぬ女性徒が歩いていた。
女生徒が横を向く。紫紺の大きな瞳が嬉しそうに細められ、隣を歩くジェラルドも彼女を見て微笑んでいた。
その手にはピンク色の包装紙に包まれたプレゼントボックスが抱かれていた。ジェラルドが手にしているのは明らかにカリアドデーのお菓子だろう。
今まで彼は俺のクッキー以外を受け取ったことがなかった。少なくとも俺の知る限りでは。その彼が、俺以外からのお菓子を受け取ったという事は。
「もしかして婚約破棄、予定より早まっちゃったりして」
部屋中に俺の情けなく震えた声が響く。
そうしてジェラルドとは一度も碌に言葉を交わすことはなく終業式を迎え、俺たちは長い休暇に突入してしまったのだった。
ー3章へ続くー
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