58 / 152
2章 王立学院編ー前編―
47<義弟と弟分>
しおりを挟む
先に我に返ったのはウォルターだった。
「偽装婚約って……どういうことだよ」
ずっと嘘をついていたことを怒っているんだろう。よく考えたら当然のことだ。いつもより低く真剣な声に心がズキリと痛む。
真っすぐに見つめてくるアメジストの瞳に向き合う勇気が出せず目を伏せると、膝の上で握りしめた拳にあたたかい手が触れた。
「大丈夫だよ兄さん。ウォルターは顔と声がもともと怖いだけで怒ってるわけじゃないから」
顔を上げてよ、という弟の優しい声にゆっくりと顔を上げる。
「そりゃ、僕もすごくびっくりしたし。ていうか今もしてるけど。それにずっと内緒にされてたのはちょっとショックだけど……でも兄さんのことだから何か事情があったんでしょう?」
気まずそうな咳払いをしてウォルターが頭を掻く。
「エディの言う通り、驚いただけだ……怒ってるわけじゃねえ。悪ぃ」
義弟の包みこむような優しさと幼馴染の弟分の不器用な優しさに触れ、かたくなっていた心が溶けていく。
「二人とも……ありがとな」
鼻の奥がツンとする。今にも涙が溢れそうな情けない顔に2人はきっと気づいている。なのにそれには触れずに話を続けてくれるのが嬉しい。
そうして俺はジェラルドの婚約について、そして最近の彼との揉め事について2人に話した。
「じゃあ兄さんは最後の自殺未遂で頭を打ってから価値観とか考え方とか、そういうものが全部変わっちゃったってこと?」
「う、うん」
さすがに転生して別の世界の人間の魂が入っているとは言いづらい。
(言ったところで頭がおかしくなったと思われて、違う方向に心配されそうだよなあ)
「でも頭を打つ前は本当にアイツのこと好きだったんだろ? どこが好きだったんだよ」
「うーん……顔、かな。多分」
「は!?」
椅子から立ち上がらんばかりに驚いたウォルターをエディが引っ張って座らせた。
「ウォルターは変わる前の兄さんを知らないから信じられないと思うけどさ、兄さんはその……なんていうか、すごかったんだよホントに」
エディは簡潔にメンヘラ時代のユージンについて説明してくれた。優しい義弟は自分が俺にされたことは触れなかった。本当に天使だ。
「マジか……」
ウォルターは驚きすぎて言葉もないといった顔をしている。
「自分でもどうかしてたと思ってる。365日24時間、頭の中はジェラルド様のことでいっぱいだったんだ。ただ、今思うとジェラルド様のことを思ってたわけじゃなかった。自分があの方にどう思われてるのか、それしか考えてなかったよ」
ユージンの日記を思い出す。ジェラルドが好きだと言いながら、綴られているのは彼が自分にしてくれたことや言ってくれたことだけ。
自分のことを理解してほしい、知ってほしいと叫ぶばかりでジェラルド自身のことを理解しようという思いは微塵も感じられなかった。
「てことは元々ユージンはアイツのこと好きじゃなかったってことだろ」
ウォルターの言葉に意識が現在に戻る。
「え?」
「だってそうだろ。今の話聞いてると、前のユージンは顔がアイツぐらいよくて家柄もそれなりにあれば、別にアイツじゃなくても良かったってことじゃん」
「確かに。あの頃の兄さんは好きって気持ちを勘違いしてたのかもしれないね」
「そうだな…俺も、そう思う」
あの頃のユージンは確かにジェラルドを好きだと思い込んでいただけで、国で一番美しい容姿の王子と婚約した自分が好きだったと思う。
「で、アイツは偽装婚約に乗ったはずがいつの間にかユージンに惚れたわけだ」
「そう、なのかな……」
「そりゃそうでしょ。僕たちも気づいてたし」
「えっ!?」
エディは少しだけ呆れたような、残念なものをみるような目になる。
「あれが演技だったらジェラルド様は王子より舞台に立つ方が向いてるよ」
「偽装婚約って……どういうことだよ」
ずっと嘘をついていたことを怒っているんだろう。よく考えたら当然のことだ。いつもより低く真剣な声に心がズキリと痛む。
真っすぐに見つめてくるアメジストの瞳に向き合う勇気が出せず目を伏せると、膝の上で握りしめた拳にあたたかい手が触れた。
「大丈夫だよ兄さん。ウォルターは顔と声がもともと怖いだけで怒ってるわけじゃないから」
顔を上げてよ、という弟の優しい声にゆっくりと顔を上げる。
「そりゃ、僕もすごくびっくりしたし。ていうか今もしてるけど。それにずっと内緒にされてたのはちょっとショックだけど……でも兄さんのことだから何か事情があったんでしょう?」
気まずそうな咳払いをしてウォルターが頭を掻く。
「エディの言う通り、驚いただけだ……怒ってるわけじゃねえ。悪ぃ」
義弟の包みこむような優しさと幼馴染の弟分の不器用な優しさに触れ、かたくなっていた心が溶けていく。
「二人とも……ありがとな」
鼻の奥がツンとする。今にも涙が溢れそうな情けない顔に2人はきっと気づいている。なのにそれには触れずに話を続けてくれるのが嬉しい。
そうして俺はジェラルドの婚約について、そして最近の彼との揉め事について2人に話した。
「じゃあ兄さんは最後の自殺未遂で頭を打ってから価値観とか考え方とか、そういうものが全部変わっちゃったってこと?」
「う、うん」
さすがに転生して別の世界の人間の魂が入っているとは言いづらい。
(言ったところで頭がおかしくなったと思われて、違う方向に心配されそうだよなあ)
「でも頭を打つ前は本当にアイツのこと好きだったんだろ? どこが好きだったんだよ」
「うーん……顔、かな。多分」
「は!?」
椅子から立ち上がらんばかりに驚いたウォルターをエディが引っ張って座らせた。
「ウォルターは変わる前の兄さんを知らないから信じられないと思うけどさ、兄さんはその……なんていうか、すごかったんだよホントに」
エディは簡潔にメンヘラ時代のユージンについて説明してくれた。優しい義弟は自分が俺にされたことは触れなかった。本当に天使だ。
「マジか……」
ウォルターは驚きすぎて言葉もないといった顔をしている。
「自分でもどうかしてたと思ってる。365日24時間、頭の中はジェラルド様のことでいっぱいだったんだ。ただ、今思うとジェラルド様のことを思ってたわけじゃなかった。自分があの方にどう思われてるのか、それしか考えてなかったよ」
ユージンの日記を思い出す。ジェラルドが好きだと言いながら、綴られているのは彼が自分にしてくれたことや言ってくれたことだけ。
自分のことを理解してほしい、知ってほしいと叫ぶばかりでジェラルド自身のことを理解しようという思いは微塵も感じられなかった。
「てことは元々ユージンはアイツのこと好きじゃなかったってことだろ」
ウォルターの言葉に意識が現在に戻る。
「え?」
「だってそうだろ。今の話聞いてると、前のユージンは顔がアイツぐらいよくて家柄もそれなりにあれば、別にアイツじゃなくても良かったってことじゃん」
「確かに。あの頃の兄さんは好きって気持ちを勘違いしてたのかもしれないね」
「そうだな…俺も、そう思う」
あの頃のユージンは確かにジェラルドを好きだと思い込んでいただけで、国で一番美しい容姿の王子と婚約した自分が好きだったと思う。
「で、アイツは偽装婚約に乗ったはずがいつの間にかユージンに惚れたわけだ」
「そう、なのかな……」
「そりゃそうでしょ。僕たちも気づいてたし」
「えっ!?」
エディは少しだけ呆れたような、残念なものをみるような目になる。
「あれが演技だったらジェラルド様は王子より舞台に立つ方が向いてるよ」
449
お気に入りに追加
5,060
あなたにおすすめの小説
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜
N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間)
ハーレム要素あります。
苦手な方はご注意ください。
※タイトルの ◎ は視点が変わります
※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます
※ご都合主義です、あしからず
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる