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2章 王立学院編ー前編―

38<ドS王子の混乱>※ジェラルド視点

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目を覚ますと視界に広がっているのは見慣れた自室の天井だった。

なんだかやけにスッキリしている気がするのは、あの夢の続きを見たせいだろうか。記憶はすでにおぼろげな部分も多いが、触れた肌の温度や感触が驚くほどリアルに残っている。

そのせいか、明らかに睡眠中に欲を吐き出した形跡があった。すでに乾いてしまい気持ちが悪い。

シャワーを浴びようと腹筋を使って勢いよく起き上がったその瞬間、枕に見覚えのないものが落ちていることに気が付いた。

枕元に落ちているそれを注意深くつまみ上げる。
「金色の、毛髪……?」

短めの金色の髪は明らかに俺のものではない。まさか眠っている間に侵入者がやって来たというのか。

だがその線は薄い。王子であるが故に幼い頃から命を狙われたり誘拐されそうになる事態は数えきれないほど経験している。

その俺が侵入者の気配に気づかず眠り続けるはずがない。それにこの複雑な結界が張り巡らされた部屋に転移できる者がいるとも考えにくい。

「いったい誰の――」
ある可能性に思い当たった瞬間、動揺で息が止まりそうになった。
まさか。そんな事あるはずがない。

もしそうなのだとしたら、俺が見た夢は夢じゃなかったということになる。だが目が覚める前、俺がユージンの部屋にいたのは確かだ。

髪の毛が付着していた枕から、微かに甘い香りが漂っている。ゆっくりと顔を近づけ確かめた。

間違いなく俺がよく知っている香り――ユージンが好んでつけている香水の匂いだった。ユージンが自分の領地で試験的に開発しているというその香水は、ベルガモットの甘すぎず爽やかでとても印象に残る。

校内でも話題になるほどだったし、類似した香りもかいだことがない。
だからこそ間違いようがなかった。

「ここに、ユージンがいたのか…!?」
なぜ。どうして。疑問符が頭の中でぐるぐると回りだす。そうして一人、頭を悩ませていたのたが。

突然、俺はとんでもない事に気がついた。まさか夢だと信じて疑わなかった、最初の夢も夢じゃなかったとしたら――。

欲に任せた淫らな行為はもちろんのこと、自分の気持ちをユージンに告げてしまった気がする。

「これは……だいぶマズいな」
独り言は情けなく震えてしまう。このままではユージンに嫌われてしまうのではないか。というか嫌われるに決まっている。いや、もしかしてもう嫌われてしまった後かもしれない。

加速する悲観的な思考と妄想を落ち着かせるために、俺は何度も大きく息を吸って気持ちを落ち着けようと試みる。

もし俺がユージンの立場だったとしたらどう感じるだろうか。1年後の俺の卒業時に婚約破棄すると言い放ったくせに、本当は自分のことが好きでおぞましいほどの欲望を向けられていると知ったら――。

俺なら間違いなく距離を置いて速やかに婚約破棄を申し出る。しかも学院にはユージンを狙っている奴らが何人もいる。

ウォルターとエディはもちろん、ルーイやジュリアンもユージンに惹かれていることに俺は気づいていた。

「どうしたらいいんだ……」
俺はシャワーを浴びることも忘れ、ベッドの上で蹲った。
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