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2章 王立学院編ー前編―
32<最恐のルートヴィヒ②>
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「なんでそれ……あっ!」
口を両手で抑えたがもう遅い。ルーイ先輩は楽しげにふふ、と笑った。
「おまえはもう少し嘘が上手くなった方がいいな」
「あ、いやいや! これはその……あのですねっ」
なんとかごまかそうと試みる。だがルーイ先輩は穏やかな、けれど確かな圧のある声で制す。
「ユージン。おまえに俺が騙せると思うか?」
「思いません……」
ルーイ先輩は満足げに頷くと腰に回していた手にぐっと力を入れて俺を引き寄せた。
身体が密着しすぎて、とても居心地がよろしくない。普段からよく頭を撫でてくれたりとスキンシップは多めの人なのだが、こんなふうに接触したことはあまりない気がする。だからといって跳ねのけたら何をされるかわからないし、身分的にも許されない。
(どういう状況だよこれ……)
心の中で独り言を呟きながら一人の世界に入り込んでいると、赤い瞳と端正な顔立ちが視界いっぱいに広がった。
「何をブツブツ言っている」
「あ、いえ。なんでもないです」
追求されるかと思ったのに、先輩はあっさり顔を離すとそうかと小さく呟いた。
「ところで何か飲むか」
「は!? じゃなくて、いやあの、すみません」
唐突な発言に、無礼な返しをしてしまう。すぐに謝罪をしたが、先輩はそれにはあまり興味が無いようであっさりと無視される。
「もう一度聞くぞ。何か飲むか」
「け、結構です。というか、俺もう部屋に戻りますから」
「駄目だ」
「……はい?」
「駄目だと言っている。しばらくここにいて、俺の話し相手をしろ。わかったな?」
「わかりました……」
抵抗を諦めて大人しくするとルーイ先輩は爽やかな笑顔を見せる。あまりにも爽やかすぎて胡散臭いと感じるのは、やっぱりこの人の本性を知ってしまっているからだろう。
正ヒーローでもないのにほとんどのルートに出張って、主人公の恋路を邪魔するのがこのルートヴィヒなのである。だがそれによって攻略対称が激しく嫉妬をするなどおいしい展開や過激スチルも拝むことができたので、その点は感謝している。
サブキャラとしてはいい働きをしてくれるルートヴィヒなのだが、彼のルートに入るとホラーを感じるほどに主人公を追い求めてくる。というかバッドエンドでは、永遠に自分のものにするために主人公を毒殺して魔力で防腐処理を施し、全身舐めまわして歓喜するという頭のおかしい奴なのだ。
ちなみにルートヴィヒのルートでは、ユージンは主人公の気持ちを確かめるための道具として主人公の目の前でルートヴィヒに偽りの愛を囁かれ、イロイロなことをさせられる。
その現場を見た主人公が傷ついて涙を流すのだがルートヴィヒはその泣き顔を見て喜びに震える――という描写がある。
ちなみに用済みとなったユージンはルートヴィヒに捨てられるが、メンヘラを発揮してつきまとった挙げ句、不審死を装って毒殺される。ルートヴィヒは毒薬の使い手としても有名なのである。
ウォルターがアルファになり主人公キャラ不在の今、ルートヴィヒが俺の人生にどう絡んでくるのか予測がつかない。というか…できれば絡みたくないのが本音だ。
どう言い訳して自室に戻ろうか脳をフル回転して考える。だが目の前で綺麗な指がパチンと鳴らされ、意識を戻されてしまった。
「俺が隣にいるのに考え事とはいい度胸だな」
「申し訳ありません! 違うんです、その…寝不足で、ぼーっとしてしまって」
「なるほどな」
何がなるほどなのかわからないがルーイ先輩は納得したようで一人頷いている。
彼が再び指を鳴らすと、漆黒のテーブルの上に脚付きの黒いタンブラーのような形をした器が二つ現れた。
中の液体は沸騰しているのか、ボコボコと音がしてもうもうと湯気が立っている。匂いだけはコンソメスープのようで美味そうだが、なんとも怪しい。
ルーイ先輩は手を伸ばして真っ黒な器を手に取り、片方を俺に突き出した。
「アウスブルクの鉱石のスープだ。体にも心にも効く」
そのままにしておくわけにもいかないので、ずっしりと重い器を受け取る。器は内側も真っ黒なのでスープ本来の色はわからない。見ると表面には細かな金箔のようなものが浮いている。
(匂いはいいし、大丈夫……だよな)
手元に注がれている視線が痛い。公爵令息とはいえ、ルーイ先輩はほぼ王族に等しい。一口でも飲まなければ無礼に当たる。それこそ不敬罪で殺されてしまうかもしれない。
(覚悟を決めろ、俺!)
ぎゅっと目を閉じて器を唇に近づけたとの時。
「安心しろ。毒は入っていない」
「え…」
ハッとして目を上げると赤い瞳が面白そうに細められた。
口を両手で抑えたがもう遅い。ルーイ先輩は楽しげにふふ、と笑った。
「おまえはもう少し嘘が上手くなった方がいいな」
「あ、いやいや! これはその……あのですねっ」
なんとかごまかそうと試みる。だがルーイ先輩は穏やかな、けれど確かな圧のある声で制す。
「ユージン。おまえに俺が騙せると思うか?」
「思いません……」
ルーイ先輩は満足げに頷くと腰に回していた手にぐっと力を入れて俺を引き寄せた。
身体が密着しすぎて、とても居心地がよろしくない。普段からよく頭を撫でてくれたりとスキンシップは多めの人なのだが、こんなふうに接触したことはあまりない気がする。だからといって跳ねのけたら何をされるかわからないし、身分的にも許されない。
(どういう状況だよこれ……)
心の中で独り言を呟きながら一人の世界に入り込んでいると、赤い瞳と端正な顔立ちが視界いっぱいに広がった。
「何をブツブツ言っている」
「あ、いえ。なんでもないです」
追求されるかと思ったのに、先輩はあっさり顔を離すとそうかと小さく呟いた。
「ところで何か飲むか」
「は!? じゃなくて、いやあの、すみません」
唐突な発言に、無礼な返しをしてしまう。すぐに謝罪をしたが、先輩はそれにはあまり興味が無いようであっさりと無視される。
「もう一度聞くぞ。何か飲むか」
「け、結構です。というか、俺もう部屋に戻りますから」
「駄目だ」
「……はい?」
「駄目だと言っている。しばらくここにいて、俺の話し相手をしろ。わかったな?」
「わかりました……」
抵抗を諦めて大人しくするとルーイ先輩は爽やかな笑顔を見せる。あまりにも爽やかすぎて胡散臭いと感じるのは、やっぱりこの人の本性を知ってしまっているからだろう。
正ヒーローでもないのにほとんどのルートに出張って、主人公の恋路を邪魔するのがこのルートヴィヒなのである。だがそれによって攻略対称が激しく嫉妬をするなどおいしい展開や過激スチルも拝むことができたので、その点は感謝している。
サブキャラとしてはいい働きをしてくれるルートヴィヒなのだが、彼のルートに入るとホラーを感じるほどに主人公を追い求めてくる。というかバッドエンドでは、永遠に自分のものにするために主人公を毒殺して魔力で防腐処理を施し、全身舐めまわして歓喜するという頭のおかしい奴なのだ。
ちなみにルートヴィヒのルートでは、ユージンは主人公の気持ちを確かめるための道具として主人公の目の前でルートヴィヒに偽りの愛を囁かれ、イロイロなことをさせられる。
その現場を見た主人公が傷ついて涙を流すのだがルートヴィヒはその泣き顔を見て喜びに震える――という描写がある。
ちなみに用済みとなったユージンはルートヴィヒに捨てられるが、メンヘラを発揮してつきまとった挙げ句、不審死を装って毒殺される。ルートヴィヒは毒薬の使い手としても有名なのである。
ウォルターがアルファになり主人公キャラ不在の今、ルートヴィヒが俺の人生にどう絡んでくるのか予測がつかない。というか…できれば絡みたくないのが本音だ。
どう言い訳して自室に戻ろうか脳をフル回転して考える。だが目の前で綺麗な指がパチンと鳴らされ、意識を戻されてしまった。
「俺が隣にいるのに考え事とはいい度胸だな」
「申し訳ありません! 違うんです、その…寝不足で、ぼーっとしてしまって」
「なるほどな」
何がなるほどなのかわからないがルーイ先輩は納得したようで一人頷いている。
彼が再び指を鳴らすと、漆黒のテーブルの上に脚付きの黒いタンブラーのような形をした器が二つ現れた。
中の液体は沸騰しているのか、ボコボコと音がしてもうもうと湯気が立っている。匂いだけはコンソメスープのようで美味そうだが、なんとも怪しい。
ルーイ先輩は手を伸ばして真っ黒な器を手に取り、片方を俺に突き出した。
「アウスブルクの鉱石のスープだ。体にも心にも効く」
そのままにしておくわけにもいかないので、ずっしりと重い器を受け取る。器は内側も真っ黒なのでスープ本来の色はわからない。見ると表面には細かな金箔のようなものが浮いている。
(匂いはいいし、大丈夫……だよな)
手元に注がれている視線が痛い。公爵令息とはいえ、ルーイ先輩はほぼ王族に等しい。一口でも飲まなければ無礼に当たる。それこそ不敬罪で殺されてしまうかもしれない。
(覚悟を決めろ、俺!)
ぎゅっと目を閉じて器を唇に近づけたとの時。
「安心しろ。毒は入っていない」
「え…」
ハッとして目を上げると赤い瞳が面白そうに細められた。
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