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2章 王立学院編ー前編―
23<ジェラルドの本心>※ジェラルド視点
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背中を優しく撫でてくれていた手の動きが次第に緩慢になり、ついに止まった。
(まさか寝たのか!?)
そっと胸元へ視線を降ろすと、軽く開いた唇からはすーすーと可愛らしい寝息が聞こえてきた。ユージンは完全に眠っている。
「おい、ユージン」
「ん……」
声をかけたが目覚める気配はない。返事の代わりに桜貝の唇から零れた鼻にかかった声に身体がさらに熱を持つ。
本当は熱なんかあるわけがない。けれども突然触れ合った額や、キスできそうなほどの距離にある想い人の唇に体も心も平静ではいられなかった。
自分の意思とは無関係に体温が上昇し脈も早くなる。まるで全身でユージンが好きだ、欲しいと叫んでいるようだと思った。だが呆れるほどに鈍感な我が婚約者は体調不良だと誤認し、見当外れの看病を始めた。
「その挙げ句、眠るなんて。本当いい度胸してるよ」
起こさないように小さな声で文句を呟く。そんな俺の思いも知らずに、ユージンは気持ちよさそうな顔ですやすやと寝息を立てている。
前髪をかき分けて額にそっと唇を押し付けた。夢の中のユージンは気がつきもしない。なんだか悔しくなって、今度は両頬に同じことをする。そして今度はあと少し動いたら唇同士がくっついてしまう距離まで、顔を近づけた。
軽く開いた唇から、赤い舌と白い歯が少し覗いている。今すぐに指を差し込み口をこじ開け、舌に吸い付きたい衝動に駆られてしまう。俺はユージンから少し身体を引き離すと、目を閉じて大きく深呼吸をした。
(これは夢じゃないんだ。いきなりキスなんかしたら嫌われてしまうだろう)
自分に言い聞かせ、これ以上おかしなことにならないように自制する。
少し落ち着いた俺は少しずつ注意深く動き、体に回されたユージンの腕を起こさずに外すことに成功した。
「う……んぅ……」
小さく呻いたユージンはモゴモゴと何か聞き取れない程度の寝言を発して、ゴロリと寝返りを打つ。
背中を向けられて、少し寂しい気持ちになってしまうが長期的な目で考えると、この行動は絶対に間違っていない。
本当はこのまま今すぐ自分の部屋に戻るべきなのだろうが、まだユージンの側にいたかった。普段、二人きりで過ごせる時間などほとんどないのだから。
誰にともなく情けない言い訳をして、俺は再びベッドへ横になった。枕からはユージンの匂いがする。堪らなくなって枕に顔を押し付けるようにして、何度も匂いを吸い込んでしまう。
絶妙に手の届かない距離で、背中を向けて寝るユージンをじっと見つめる。側にいるのに、俺のものにはならない。まるで今の俺たちの状況のような距離感に、苦い笑いが浮かぶ。
「早く俺のものになってくれ……」
心の中で呟いたつもりが、願望が口から零れる。今にも襲いかかりたい衝動を抑えながら、俺は目を閉じて枕に顔を埋めた。
(まさか寝たのか!?)
そっと胸元へ視線を降ろすと、軽く開いた唇からはすーすーと可愛らしい寝息が聞こえてきた。ユージンは完全に眠っている。
「おい、ユージン」
「ん……」
声をかけたが目覚める気配はない。返事の代わりに桜貝の唇から零れた鼻にかかった声に身体がさらに熱を持つ。
本当は熱なんかあるわけがない。けれども突然触れ合った額や、キスできそうなほどの距離にある想い人の唇に体も心も平静ではいられなかった。
自分の意思とは無関係に体温が上昇し脈も早くなる。まるで全身でユージンが好きだ、欲しいと叫んでいるようだと思った。だが呆れるほどに鈍感な我が婚約者は体調不良だと誤認し、見当外れの看病を始めた。
「その挙げ句、眠るなんて。本当いい度胸してるよ」
起こさないように小さな声で文句を呟く。そんな俺の思いも知らずに、ユージンは気持ちよさそうな顔ですやすやと寝息を立てている。
前髪をかき分けて額にそっと唇を押し付けた。夢の中のユージンは気がつきもしない。なんだか悔しくなって、今度は両頬に同じことをする。そして今度はあと少し動いたら唇同士がくっついてしまう距離まで、顔を近づけた。
軽く開いた唇から、赤い舌と白い歯が少し覗いている。今すぐに指を差し込み口をこじ開け、舌に吸い付きたい衝動に駆られてしまう。俺はユージンから少し身体を引き離すと、目を閉じて大きく深呼吸をした。
(これは夢じゃないんだ。いきなりキスなんかしたら嫌われてしまうだろう)
自分に言い聞かせ、これ以上おかしなことにならないように自制する。
少し落ち着いた俺は少しずつ注意深く動き、体に回されたユージンの腕を起こさずに外すことに成功した。
「う……んぅ……」
小さく呻いたユージンはモゴモゴと何か聞き取れない程度の寝言を発して、ゴロリと寝返りを打つ。
背中を向けられて、少し寂しい気持ちになってしまうが長期的な目で考えると、この行動は絶対に間違っていない。
本当はこのまま今すぐ自分の部屋に戻るべきなのだろうが、まだユージンの側にいたかった。普段、二人きりで過ごせる時間などほとんどないのだから。
誰にともなく情けない言い訳をして、俺は再びベッドへ横になった。枕からはユージンの匂いがする。堪らなくなって枕に顔を押し付けるようにして、何度も匂いを吸い込んでしまう。
絶妙に手の届かない距離で、背中を向けて寝るユージンをじっと見つめる。側にいるのに、俺のものにはならない。まるで今の俺たちの状況のような距離感に、苦い笑いが浮かぶ。
「早く俺のものになってくれ……」
心の中で呟いたつもりが、願望が口から零れる。今にも襲いかかりたい衝動を抑えながら、俺は目を閉じて枕に顔を埋めた。
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