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2章 王立学院編ー前編―

21<ジェラルド、寝込む!?>

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「……これは」
テーブルの上に置かれた白い皿には、サファイアのような青色のゼリーと白いレアチーズ部分が層になった美しいケーキが載っている。

「この青い色はクリトリアという植物を使っているんですよ」
「クリトリア? 聞いたことがないな」
ジェラルドは首を傾げた。

「この国では飼料として栽培されている植物です。家畜を持つ農家以外では馴染みが薄いかもしれません」
「なるほどな。知らないわけだ。だが飼料ということは、食用ではないのだろう?」

「それが、クリトリアの花はお茶にして楽しむことができるんです。この青いゼリーの部分、ここはクリトリアの花で着色したんです。青い花なのですが、お茶も綺麗な青色になるんですよ」
「食用の青というのが存在するのか」
ジェラルドは驚いて何度も瞬きをする。長くて濃いまつ毛が上下すると、バサバサと音が聞こえてきそうだ。

「はい。これも改良して、そのうち商品化しようと思っているんです」
「さすがな。貴族とは思えないほど商魂逞しい奴だ」
だがジェラルドの声には蔑むような響きはない。むしろ関心してくれているのがわかる。

「その言葉、褒め言葉として受け取らせていただきますね」
俺は嬉しくなってさらにしゃべり続けた。彼のこういうところは嫌いじゃないんだよな。

「それにしてもこの青い色、まるでジェラルド様の瞳のようで綺麗でしょう。でもジェラルド様の目はもっともっと綺麗な色ですから、もう少し手を加えて色味や味を微調整してからお見せしたかったんです、本当は」

食べ物のことになってしまうとどうしても饒舌になってしまう。夢中になってしゃべっている間、黙りっぱなしのジェラルドにさすがに不安になりチラリと視線を向けた。

「ジェ、ジェラルド様!?」
顔が驚くほど赤くなっている。もしかして実は具合が悪かったんだろうか。心配になり、ジェラルドの頭に両手を伸ばして自分の方へ引き寄せて額と額をくっつけた。

「なっ……!!」
「ご無礼、申し訳ありません。ですが熱を測るにはこれが一番早いのです」

前世で貧乏大家族だった俺には年の離れた弟や妹がたくさんいた。子どもはすぐに熱を出すのでよくこうして額を合わせて熱を確かめていたものだ。

無礼者と怒りだすかと思ったがジェラルドはそれきり、何も言わなかった。だが彼の額は焼けるように熱い。

額を合わせたときはそうでもなかったのだが、温度はどんどん上昇しているように感じる。ジェラルドは今や林檎どころか首も手もすべてが真っ赤で、赤べこのようになっていた。

(これはやばいな。高熱を出し始めたところに違いない)
俺は額を合わせたまま、頬や首筋に手を当ててみる。驚いたのか、一瞬びくりとジェラルドの肩が跳ねた。

頬もひどく熱いばかりか、首筋で測った脈も驚くほど早い。魔法を使うのも、歩いて部屋に戻るのも今は辛いだろう。

「ジェラルド様、こちらに」
俺が手を引くと、ジェラルドはよろよろと立ち上がる。手を引かれるままにふらふらとついてくる姿にやはり高熱があると確信した。

ベッドの縁に座らせると、靴と上着を脱がせた。彼はもはや自分で動くこともままならないようで、俺も一緒にベッドに上がる。なんとか長身を真ん中に寝かせて、ブランケットをかけた。

よほどつらいのか、いつもなら悪態のひとつも吐くだろうジェラルドは顔を赤くしたまま、されるがままで黙りこんでいる。冷やすものを準備しようとベッドから降りかけたその時。

「……どこへ行く」
ジェラルドの熱い手が俺の手首を掴んだ。
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