上 下
27 / 153
2章 王立学院編ー前編―

16<腹黒ドS王子の独白※ジェラルド視点>

しおりを挟む
身体の痛みを感じて意識が浮上した。
確かユージンの部屋にいたと思っていたが、いつのまにか戻っていたようだ。

それにしてもベッドではなくソファで着替えもせず寝るなんて、久しぶりにだらしないことをしてしまった。

今週末は公務もないし勉強も新学期を迎えたばかりでそれほど忙しい時期ではない。今日は久しぶりにゆっくりできそうだ。面倒なので魔法を使い一瞬で部屋に着替えるとベッドに横たわる。

ソファで寝てしまった俺が起きた時にはユージンも座ったまま眠っていた。その姿勢で長時間眠ったら身体を痛めてしまう。

俺はそっと彼を抱き上げるとベッドまで運んだ。そのまま帰るつもりだったのに、あどけない寝顔が可愛くてたまらなくて、ベッドに乗り上げるとしばらくそのまま寝顔を見つめてしまった。

そこから先は覚えていない。

「それにしても都合の良い夢をみたものだな」

夢の中の俺は、普段押し殺している心の中の欲望のままに行動していた。ユージンの羞恥で赤らんだ顔や潤んだ目、震えながら下着を履き替える姿、息も絶え絶えに喘ぐ声に己の嗜虐心を煽られた。

思い出すだけで下半身が兆してしまう。一国の王子らしからぬ獣そのものの自分に腹が立つ。
「……クソッ」

ユージンのことは大嫌いだった。俺の見た目にしか興味がないくせに、金にものを言わせて未来を奪った軽薄で頭の悪い、それでいて忌々しいほどの魔力を持つオメガ。それが彼に対する印象だった。

その上少しでも放っておくと騒いで自殺未遂を繰り返す。気に入らないことがあれば腕を切りつける。そんな彼を俺は心の底から嫌悪し、軽蔑していたのに。

自室から飛び降りるという最強に頭の悪い行動を起こしたと聞いたとき、俺の忍耐も限界を超えた。世の中、死ぬ死ぬと騒ぐ奴ほど伸び伸びと生きている。どんなにあいつが喚こうがしばらくは絶対に訪問しないと強く誓ったのに。

ところが久しぶりに会ったユージンはまるで別人になっていた。

目には強い意志の力が宿り、肌も髪も輝いて身体も細いが健康的になっている。小突き回していた義弟とも目を疑うほど仲良くなっていた。最初はいつもの気まぐれか、新たなバカ騒ぎの始まりかと疑っていたがユージンはその後もずっとそのままで今に至る。

強く頭を打った影響で脳が変化したらしい。連絡をしなくても多忙で訪問が延期になっても、今までのように騒ぎを起こすことは一切ない。婚約も自ら破棄したいと申し出てくれたし、素の姿を見せても幻滅せず当たり前のように自然に受け入れてくれている。

そんな彼に興味が湧き、恋愛的な意味ではなく仲良くしてもいいと思っていたはずだったのに。
いつも明るく笑顔で、自分のことより他者のことを大事にして行動するユージンに気付けば強い想いを抱くようになっていた。

まだその時ではないと思い適当に合わせているが、俺は婚約破棄などするつもりはない。ユージンには悪いが絶対にしない。俺の嫁になるのはユージンしかいない。

この一年、ユージンに恋をしているウォルターやエドワードがやってくる前に持てる力のすべてを駆使してユージンとの仲を深めてきたつもりだ。

学年が違うので、半ば強制的に彼を生徒会に所属させて共に過ごす時間を増やしに増やした。だが人誑しのユージンは面倒な奴らに気に入られてしまった。彼自身は無自覚なので質が悪い。

おかげで今ではルートヴィヒとジュリアンという新たな恋敵まで現れている。彼らはクレーニュの貴族ではなく隣国の大貴族と王子だ。こちらが隙を見せれば外交問題と絡めてユージンを奪うくらいの権力と頭脳は持っている。

婚約者としてだけでなく、ユージンの豊かな発想力と強い魔力はクレーニュの発展と繁栄のためにもとても大切だ。彼を奪われることは国としても大損失になる。

「ユージンは俺のものだ。誰にも渡さない」

いつもは奥底に沈み込ませているおぞましい欲望が増幅していく。ユージンの美しい心も身体も蹂躙したい。どこにも逃げられないように、俺以外の誰にも触れさせないように俺しか知らない場所に拘束してしまいたい。

そうして獣のような口づけをして、壊れるほど激しく突き上げて鳴かせたい。泣きながら快感に喘ぐユージンの顔が見たい。真珠色に輝く素肌のあちこちに噛み跡や紅い華を散らした姿が見たい。
彼のことを大切にしたい気持ちも確かに持っているのに、同じくらいの強さで彼を泣かせたいと思ってしまう。

想像しただけで自分の息が荒くなっているのがわかる。品行方正で誰より爽やかで穏やかな王子と言われる俺の本当の姿は、婚約者を激しく犯す妄想で興奮する異常者だ。

すでに腹につくほど立ち上がったものを処理するために、体勢を変えて目を瞑る。妄想の中で泣きながら乱れるユージンをいつか必ず現実のものにすると誓いながら俺は果てた。
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

処理中です...