17 / 153
2章 王立学院編ー前編―
6<緊急事態発生③>
しおりを挟む
ジェラルドの引き締まった胸板にぴったりと頬がくっついている。婚約者とはいえ今までこんな風に接触したことはない。意識した瞬間、俺の鼓動は急に速くなった。
いやいや、どうした俺。なにドキドキしてんだよ。自覚すればするほど顔が熱くなってくる。自分の気持ちを持て余してどうしようもなくなった頃、銀色のまつ毛がパッと上がった。それと同時に瞼の裏に隠れていたアクアマリンの美しい瞳が現れる。
ジェラルドはゆっくりと視線を動かし、自分の腕の中にいる俺を見ると大きく目を瞠いた。
「これは夢なのか……」
「現実です! ジェラルド様、寝ぼけないでください!!」
「俺はまだ眠ってるんだな。じゃなきゃこんなことありえない」
必死に叫んだが、彼はすっかり夢だと思い込んでいるみたいだ。俺の頬を右手の指先でくすぐるように撫でると、見たこともないような甘い瞳をこちらに向ける。
「ジェラルド、様……?」
呼びかけると花のような笑顔でユージン、と名前を呼ばれた。寝起きの低く掠れた声で囁かれるとなんだか心がざわめく。
俺の顔を見たまま、ジェラルドが右手の人差し指を空中に漢字の一を書くように動かす。すると部屋中のカーテンがすべて閉じる。室内は一瞬にして薄暗くなった。
何をするつもりなのかと身を固くしているとジェラルドが身体を起こす。
上半身に乗り上げるようにしていた俺はずり落ちてしまう。ジェラルドは俺の肩を押し、ひっくり返すように仰向けにする。驚いて起き上がろうとすると、上からジェラルドがのしかかってきた。
細身だがしっかりと筋肉のついた身体は見た目以上にズシリと重い。腰の辺りを跨ぐようにして乗られているため、足先をバタつかせるぐらいの抵抗しかできない。
転生してから多少は鍛え始めたが、まだまだひょろひょろと細い俺とは格が違う。迫りくる上半身から逃げようと胸板を押してみるが、びくともしない。そればかりか両手首をひとまとめにして拘束されてしまった。
俺も魔法を使えば逃げられるかもしれないが、そんなことをしてジェラルドを怒らせたら、何をさせるかわからない。せっかく今のところ順調に進んでいる異世界転生ライフが一発で終わってしまう可能性だってあるのだ。
今この場での最適解は、大人しくしておくことだろう。寝ぼけている人間の行動に一貫性なんて求められない。次はどう出るかわからないジェラルドに瞬間的にベストな対応をしなければ最悪、人生が詰む。
「……考えごとをしているな。ユージン、こっちを見ろ」
低く獣が唸るような声。怒らせたのかと冷や汗が背中を伝う。頬を片手で挟むように掴まれて、無理矢理視線を合わせられた。
薄暗がりの中でもキラキラと輝くプラチナの髪。乱れた髪の隙間から、ギラギラと光るアクアマリンの瞳が俺を凝視している。
「誰のことを考えていた」
いやいや、どうした俺。なにドキドキしてんだよ。自覚すればするほど顔が熱くなってくる。自分の気持ちを持て余してどうしようもなくなった頃、銀色のまつ毛がパッと上がった。それと同時に瞼の裏に隠れていたアクアマリンの美しい瞳が現れる。
ジェラルドはゆっくりと視線を動かし、自分の腕の中にいる俺を見ると大きく目を瞠いた。
「これは夢なのか……」
「現実です! ジェラルド様、寝ぼけないでください!!」
「俺はまだ眠ってるんだな。じゃなきゃこんなことありえない」
必死に叫んだが、彼はすっかり夢だと思い込んでいるみたいだ。俺の頬を右手の指先でくすぐるように撫でると、見たこともないような甘い瞳をこちらに向ける。
「ジェラルド、様……?」
呼びかけると花のような笑顔でユージン、と名前を呼ばれた。寝起きの低く掠れた声で囁かれるとなんだか心がざわめく。
俺の顔を見たまま、ジェラルドが右手の人差し指を空中に漢字の一を書くように動かす。すると部屋中のカーテンがすべて閉じる。室内は一瞬にして薄暗くなった。
何をするつもりなのかと身を固くしているとジェラルドが身体を起こす。
上半身に乗り上げるようにしていた俺はずり落ちてしまう。ジェラルドは俺の肩を押し、ひっくり返すように仰向けにする。驚いて起き上がろうとすると、上からジェラルドがのしかかってきた。
細身だがしっかりと筋肉のついた身体は見た目以上にズシリと重い。腰の辺りを跨ぐようにして乗られているため、足先をバタつかせるぐらいの抵抗しかできない。
転生してから多少は鍛え始めたが、まだまだひょろひょろと細い俺とは格が違う。迫りくる上半身から逃げようと胸板を押してみるが、びくともしない。そればかりか両手首をひとまとめにして拘束されてしまった。
俺も魔法を使えば逃げられるかもしれないが、そんなことをしてジェラルドを怒らせたら、何をさせるかわからない。せっかく今のところ順調に進んでいる異世界転生ライフが一発で終わってしまう可能性だってあるのだ。
今この場での最適解は、大人しくしておくことだろう。寝ぼけている人間の行動に一貫性なんて求められない。次はどう出るかわからないジェラルドに瞬間的にベストな対応をしなければ最悪、人生が詰む。
「……考えごとをしているな。ユージン、こっちを見ろ」
低く獣が唸るような声。怒らせたのかと冷や汗が背中を伝う。頬を片手で挟むように掴まれて、無理矢理視線を合わせられた。
薄暗がりの中でもキラキラと輝くプラチナの髪。乱れた髪の隙間から、ギラギラと光るアクアマリンの瞳が俺を凝視している。
「誰のことを考えていた」
897
お気に入りに追加
5,163
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる