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2章 王立学院編ー前編―

5<緊急事態発生②>

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手が何かを探すように上半身を這い回る。嘘だろ、おい。何の夢見てんだよ。ふいに指先が胸の先端を掠めた。

「あっ」
変な声が出てしまう。俺は声が出ないように下唇を噛んで目をぎゅっと閉じた。そういえばユージンに転生してから生きることに必死で、そういうコトしてなかったな…なんて思ったのがまずかった。

当たり前だが前世では童貞どころか処女も卒業済みだ。ジェラルドの指先が胸の先端を掠めるたびに、体がじわじわと熱くなり、同時に腰のあたりに甘い痺れのような感覚が走る。

このままだと、いよいよとんでもないことになる。焦り始めた瞬間、這い回っていた手が突然動きを停止した。横目で確認するが、まぶたは閉じられたままだ。寝息も聞こえる。軽く開いた口からは赤い舌が覗き、ひどく煽情的に見える。この舌はどんなキスをするんだろう。

「いやいやいや!!」

なんてことを考えてるんだ俺は。バカな煩悩を追い出すように頭を左右に振る。落ち着け、俺。こうなったら寝るしかない。何度か深呼吸をして目を閉じる。しばらくそうしてじっとしていると、ジェラルドがもぞもぞと動くのがわかった。寒いのか、左半身にピッタリと体を密着させてくる。

「……」
ぴったりとくっつけられた太ももの辺りに、何かが当たっている。俺は思わず目を開けて横を見た。ジェラルドは相変わらず規則的な寝息を立てている。

自然と太ももに当たっているモノに意識が集中してしまう。固い。しかもかなり大きい気がする。アラサーの俺に、これが何なのかわからないわけがない。睡眠時になぜか息子が元気になってしまう誤作動は、男なら誰しも経験したことがあるはずだ。

失恋してひどいショックを受けているのかと思っていたが、この分だとすぐ立ち直れるかもしれない。よかった。
俺は再び目を閉じると、極力よけいなことを考えないように意識を集中した。

次に目が覚めた時には、すでに朝になっていた。窓から差し込む日差しが眩しい。隣にはまだジェラルドの姿がある。昨日は金曜日だったので、今日は休みだ。だがいつまでもここにいられても正直、困る。

俺はまだ眠っているジェラルドの肩をそっと揺すってみた。
「ジェラルド様、朝です。そろそろお部屋にお戻りください」
呼びかけてみるが、一向に起きる気配がない。どれだけ深く眠っているのだろうか。

「ジェラルド様、ジェラルド様! 起きてくださ――」
少し大きめの声で呼び、再び肩を揺すったその時。アクアマリンの瞳が俺を捉える。眉を顰め、掠れた声でうるさい、と呟く。その直後、白く引き締まった腕が伸びてきて、あっという間に鍛え上げられた胸板に抱きこまれてしまった。

「ジェラルド様っ!?」
だがジェラルドは目を閉じたまま小さな声で再びうるさい、と呟くとまた寝息を立て始める。両腕で閉じ込めるように抱きしめられて、身動きが出きない。下半身は自由だが、脚をバタつかせてみたところで腕の力が弱まるなんてことはなかった。
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