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プロローグ

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「ユージンが望むことはもちろん全部叶えてあげたいと思っているんだ。でも、それだけは何があっても叶えてあげられない」

プラチナの髪が陽を受けてキラキラと輝き、その下にはさらに眩しいアクアマリンの双眸が鎮座している。クレーニュ王国でもっとも美しいと評判のジェラルド王子は、真珠のような歯を見せて笑う。きちんと訓練された王族らしい表情に腹が立つ。

というかこの人はキラキラしすぎて目に良くない、本当に。

俺は胡乱な目でうさんくさい笑顔をジト目で眺める。
王子は睨む俺にはまるで気づかないふりをして言葉を続ける。

「今日も久しぶりに会えるから喜んでいたんだ。それなのに、2人きりじゃなくてガッカリしたよ」

言いながらテーブルの上に置かれた俺の手に自らの右手を重ねる。だが重なったのは一瞬だった。強い力で後ろに引っ張られたせいで、手もテーブルから離れてしまった。

「しつけえな。嫌がってんだろうがよ」

ウォルターは俺を自分の方へを引き寄せるとジェラルド王子に真っ赤な舌をべえと出してみせる。

本来ならジェラルドに対して許されるべき行為ではない。だが王弟であるシャーリー公爵の子息にして、13番目の王位継承権を持つウォルターは実質的に王子と同等の扱いを受けているのだ。

すみれ色の瞳にストロベリーブロンドの髪を持つウォルターも、実はジェラルド王子に負けず劣らずの秀麗な顔立ちをしている。だが荒い気性と剣の強さで他国からも”クレーニュの虎”として恐れられているのだ。

「おまえこそ俺の婚約者からその手を退けてくれるかな? ユージンに俺以外が触れるのを許せるほど心が広くないんでね」

「あ? なんだとコラ」
2人の間に火花が散り始める。これもいつもの光景だ。俺の義弟であるエドワードは、ウォルターの腕の中から俺を救出すると小声で囁いた。

「兄さん、今日の午後は視察に行く予定だったよね。そろそろ準備しないとまずくない?」
「もうそんな時間か。行くぞ、エディ」

ヒートアップしている2人を放置して、俺とエディはその場を静かに離れる。これも王宮では日常茶飯事の光景だ。
「あれ?もう帰るの? ユージン、次はもっと可愛いお願いをしに来てくれることを期待しているよ」

ジェラルド王子の声が背後から追いかけてきたが、断固として無視を決め込んだ。

王子と俺――ユージン・ジェニングスの正式な結婚まであと1年。ああ、今日も頭が痛い。
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