68 / 85
第七章 真実の愛
<7>エリス・ラムズデールについて ※レヴィ視点
しおりを挟む
エリス・ラムズデールを別邸に追いやってからあっという間に数ヶ月が経過した。
別邸のある領地は王都からさほど離れていない。だがよく言えば牧歌的、悪くいえばかなり田舎だ。
芸術と花の国と言われる華やかなアイルズベリーで浪費生活を送ってきたような貴族には耐えられないかもしれない。
それで根を上げて自ら国へ帰りたいと言ってくれれば離婚もだいぶ簡単にすむ。
別邸へ移したのは同じ屋敷にいると嫌でも気を遣うというのもあったが、離婚を少しでも早めるためでもあったのだ。
だが肝心のエリスは別邸へ行ったきり、特になんの連絡も寄越さない。
必要なものがあればマークを通じて依頼して良いと伝えたが、それも特にないという。
それならば特に問題ないはずなのに、なぜだか心がざわついて仕方ない。
「本当に何も言ってこないわけ」
「なんの話です?」
書類の確認をしているマークが目を上げた。
「アイツだよアイツ」
「アイツ、とは」
マークは小首を傾げる。
(こいつ、わかってて僕に言わせようとしているな)
マークの手に乗るのは腹立たしいが、いつまでも押し問答をしているのはくだらなすぎる。
「アイツだよ! エリス」
「ああ。レヴィ様が強制的に別邸に押しやった夫人のことですか」
「何その言い方。嫌味?」
「ええ」
何なんだこいつは。返す言葉を失って唇を噛む。
なんだって皆、アイツの方を持つんだろう。
「エリス様からのご連絡はありませんが、オーウェンから報告書は上がっていますよ。ご覧になりますか?」
マークが差し出した紙の束を、悔し紛れにひったくるようにして受け取る。
「ま、まあいくら離婚するとはいえ現在進行形で形だけでもお嫁さんだからね。目を通しておく必要はあるよね」
誰にともなく言い訳めいたことを口にして、僕は報告書に目を落とした。
「は?」
読み進めていくうちに、驚きと予想外のエリスの行動に混乱してしまう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
エリス様の活動報告書
クインスベリーで作ったワインを大変気に入ってくださいました。
我が国にこんなに素晴らしいワインがあったのかとお褒めくださり、販路拡大の計画を進めてくださっております。
ワインに合うスナックの開発の素晴らしい提案書も作成してくださいました。
申請書の形に整えてわたくしからレヴィ様にお送り致すことを計画中です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おや。どうかなさいましたか」
マークに声をかけられてハッと我に返る。
「ここに書いてあることは確かなの? 結婚前の調査書とは別人みたいだけど」
「オーウェンが適当なことや嘘を書く訳はないでしょう」
「そんなの僕だってわかってるよ! ただ、ちょっとびっくりしただけだよ」
「そんなに気になるようでしたら、ご自分の目で確かめてみては」
「わかったよ。明日、別邸に行く。おまえも付いてきて」
マークが意地悪い微笑みを浮かべて僕を見る。
煽るような物言いに勢いで返してしまった気もして悔しい。
「オーウェンは優しい奴だから、騙されているのかもしれないし。アイツの正体を僕がしっかり見極めないとね」
「かしこまりました。では後ほど準備をして参ります」
マークは呆れたようにため息を吐いて、書類に再び目を落とす。
(数ヶ月ぶりに会うし、なにか手土産でも用意してした方がいいよな。エリスは何が好きなんだろ。どうせ珍しいものとか高価なものなんなろうけど)
目を閉じて考えを巡らせていると、自然とエリスの顔が思い出される。
鬱陶しくて顔なんかほとんど見ていなかったはずなのに笑った顔や怒った顔、悲しそうな顔や嬉しそうな顔などさまざまな表情がはっきりと瞼の裏に浮かび上がる。
(なぜ僕はこの表情を知っているんだろう)
理由がわかっている確信があるのに、思い出そうとすると脳内に霧がかかったような状態になり、何も考えられず思い出せない。
(何だか気持ちが悪いな)
頭を強く振って目を開く。
明日、彼を目の前にすれば何かがはっきりするかもしれない。
再び書類を手に取って、目の前の仕事に意識を集中させた。
別邸のある領地は王都からさほど離れていない。だがよく言えば牧歌的、悪くいえばかなり田舎だ。
芸術と花の国と言われる華やかなアイルズベリーで浪費生活を送ってきたような貴族には耐えられないかもしれない。
それで根を上げて自ら国へ帰りたいと言ってくれれば離婚もだいぶ簡単にすむ。
別邸へ移したのは同じ屋敷にいると嫌でも気を遣うというのもあったが、離婚を少しでも早めるためでもあったのだ。
だが肝心のエリスは別邸へ行ったきり、特になんの連絡も寄越さない。
必要なものがあればマークを通じて依頼して良いと伝えたが、それも特にないという。
それならば特に問題ないはずなのに、なぜだか心がざわついて仕方ない。
「本当に何も言ってこないわけ」
「なんの話です?」
書類の確認をしているマークが目を上げた。
「アイツだよアイツ」
「アイツ、とは」
マークは小首を傾げる。
(こいつ、わかってて僕に言わせようとしているな)
マークの手に乗るのは腹立たしいが、いつまでも押し問答をしているのはくだらなすぎる。
「アイツだよ! エリス」
「ああ。レヴィ様が強制的に別邸に押しやった夫人のことですか」
「何その言い方。嫌味?」
「ええ」
何なんだこいつは。返す言葉を失って唇を噛む。
なんだって皆、アイツの方を持つんだろう。
「エリス様からのご連絡はありませんが、オーウェンから報告書は上がっていますよ。ご覧になりますか?」
マークが差し出した紙の束を、悔し紛れにひったくるようにして受け取る。
「ま、まあいくら離婚するとはいえ現在進行形で形だけでもお嫁さんだからね。目を通しておく必要はあるよね」
誰にともなく言い訳めいたことを口にして、僕は報告書に目を落とした。
「は?」
読み進めていくうちに、驚きと予想外のエリスの行動に混乱してしまう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
エリス様の活動報告書
クインスベリーで作ったワインを大変気に入ってくださいました。
我が国にこんなに素晴らしいワインがあったのかとお褒めくださり、販路拡大の計画を進めてくださっております。
ワインに合うスナックの開発の素晴らしい提案書も作成してくださいました。
申請書の形に整えてわたくしからレヴィ様にお送り致すことを計画中です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おや。どうかなさいましたか」
マークに声をかけられてハッと我に返る。
「ここに書いてあることは確かなの? 結婚前の調査書とは別人みたいだけど」
「オーウェンが適当なことや嘘を書く訳はないでしょう」
「そんなの僕だってわかってるよ! ただ、ちょっとびっくりしただけだよ」
「そんなに気になるようでしたら、ご自分の目で確かめてみては」
「わかったよ。明日、別邸に行く。おまえも付いてきて」
マークが意地悪い微笑みを浮かべて僕を見る。
煽るような物言いに勢いで返してしまった気もして悔しい。
「オーウェンは優しい奴だから、騙されているのかもしれないし。アイツの正体を僕がしっかり見極めないとね」
「かしこまりました。では後ほど準備をして参ります」
マークは呆れたようにため息を吐いて、書類に再び目を落とす。
(数ヶ月ぶりに会うし、なにか手土産でも用意してした方がいいよな。エリスは何が好きなんだろ。どうせ珍しいものとか高価なものなんなろうけど)
目を閉じて考えを巡らせていると、自然とエリスの顔が思い出される。
鬱陶しくて顔なんかほとんど見ていなかったはずなのに笑った顔や怒った顔、悲しそうな顔や嬉しそうな顔などさまざまな表情がはっきりと瞼の裏に浮かび上がる。
(なぜ僕はこの表情を知っているんだろう)
理由がわかっている確信があるのに、思い出そうとすると脳内に霧がかかったような状態になり、何も考えられず思い出せない。
(何だか気持ちが悪いな)
頭を強く振って目を開く。
明日、彼を目の前にすれば何かがはっきりするかもしれない。
再び書類を手に取って、目の前の仕事に意識を集中させた。
715
お気に入りに追加
3,414
あなたにおすすめの小説
【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
気付いたら囲われていたという話
空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる!
※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。
ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話
かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。
「やっと見つけた。」
サクッと読める王道物語です。
(今のところBL未満)
よければぜひ!
【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる