上 下
50 / 85
第五章 ヴァンダービルトの呪い

<7>エリスの決意

しおりを挟む
「こんなんじゃダメだっ!!」
勢いよく飛び起きる。隣で眠っていたレヴィも目を覚ました。

「エリス様? どうなさったんです?」
「レヴィ。俺たち今日、何してたと思う?」

俺の問いにレヴィは小首を傾げ、それからにっこりと笑う。
「今日は朝からエリス様の体調が思わしくなかったので、僕も早く仕事を終わらせてベッドでゆっくり過ごしましたね。あ、魔力供給もいつもより長めにして頂きました。ふふ。まだ夜なので朝まではゆっくり二人で過ごすことができます」

「それ! それだよ! ダメだろこんなの!」
「何がです?」

「こんな……1日中ベッドの上で過ごすなんてダメだ。こんな爛れた生活をしてたら俺、おかしくなっちまうぞ!」
「そうでしょうか……?」

レヴィはやや不満そうに口を尖らせる。可愛い。可愛いけど、ここで引いたらダメだ。
「俺はもっと健全に過ごす。決めたぞ! 今日だっておまえに呪いの話をするつもりだったんだから」

「呪い? ヴァンダービルト家のですか?」
「ああ。月の女神と銀の狼の話が、まさかこの家にまつわるものだとは知らなかったよ」
「そうですね。民話の方はだいぶ脚色もされていますし」

「おまえは呪いについて調べてたんだよな? 薬も作ってたぐらいだから」
「はい。わが家に伝わる呪いについての文献や資料がありますから」

「それ、俺も見たい! どこにあるんだ?」
「この屋敷の図書室です。明日、案内して差し上げますね」

「サンキュ! 助かる。でもおまえ忙しいだろ? シェーンかリアムがいれば――」
「エリス様」

「な、なに」
「僕、言いましたよね? エリス様のお手伝いをするのは僕だけだと」
「あ、そういえば……ああ、うん」

しまった。すっかり忘れていた。俺としては多忙なレヴィを気遣うつもりで言ったのに、レヴィの目はまったく笑っていない。これは少し怒っている。

「僕が、ご案内します。いいですね?」
「わかった……ありがとう」

「エリス様の望みは僕だけに向けられていてほしいんです。そして、エリス様の願いを叶えるのも常に僕でありたい。それぐらい、好きなんです」
「そ、そうか……」

前触れもなく甘い言葉を吐くのをやめてほしい。毎回慣れないし、どうしていいかわからなくなる。

レヴィの前では元師匠として常にかっこよくありたい。それなのに今の俺はしどろもどろで目を泳がせている。クソダサい。

そんな俺の気持ちなど知らないレヴィは俺の両肩を優しく押して、ベッドへ寝かせる。
「今日はもう休みましょう。夜更かしをしすぎると、朝起きられなくなります」
「うん、そうだな」

レヴィは俺の方に身体を向けたまま自分も横になる。薄闇の中でも綺麗に光るアクアマリンの双眸がこっちを見ているのがわかり、俺は寝返りを打つふりをして背を向けた。

「……っ」
するとレヴィの手が伸びてきて、ベッドの中でバッグハグされる体勢になる。
「おやすみなさい、エリス様」

耳元で囁かれると、背筋がゾクゾクする。
「お、おやすみ」

目を瞑っても体に巻き付いた腕と背中から伝わる体温に意識をもっていかれてしまう。レヴィの規則的な寝息が背後から聞こえてきても俺はしばらく眠ることができずにいたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

気付いたら囲われていたという話

空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる! ※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。

ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話

かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。 「やっと見つけた。」 サクッと読める王道物語です。 (今のところBL未満) よければぜひ! 【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

溺愛お義兄様を卒業しようと思ったら、、、

ShoTaro
BL
僕・テオドールは、6歳の時にロックス公爵家に引き取られた。 そこから始まった兄・レオナルドの溺愛。 元々貴族ではなく、ただの庶子であるテオドールは、15歳となり、成人まで残すところ一年。独り立ちする計画を立てていた。 兄からの卒業。 レオナルドはそんなことを許すはずもなく、、 全4話で1日1話更新します。 R-18も多少入りますが、最後の1話のみです。

処理中です...