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第二章 氷狼騎士団長の秘密

<5>レヴィとの再会3

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レヴィが右の人差し指を立てると、指先からオレンジ色の炎の蝶がいくつも生まれ、天井のシャンデリアへと上っていく。

シャンデリアのロウソクにとまった火の蝶は、すぐに普通の炎へと変化して部屋はすぐに明るくなった。
(懐かしい。最初にレヴィに教えた魔法だ)

懐かしい気持ちで蝶に見入っていると、声をかけられた。

「どうぞ、座って。きみは話しておくことが色々とあるんだ」
ふかふかの真紅のクッションが並ぶ真っ黒のビロード張りのソファを勧められ、青年と向い合う形で座る。

「え……この部屋……はぁ!?」
明るくなった部屋を見回し、その場で立ち上がって叫んでしまった。

「きみ、声大きいよね。ちょっとうるさい」
レヴィはうんざりしたような表情で俺に視線を向けた。だがそんなことはどうでもいい。あの壁に掛けられたどでかい肖像画。いったいなんのつもりだ。

「だって、え……あの、あれ……」
震える手で壁に設置されたデカすぎる肖像画を指さす。

「ああ。気になる?」
「気になるっていうか、えーと、その……」

見間違いじゃないよな。俺は何度も目を瞬いたりこすったりしてみるが、そこに描かれている人物が変わることはない。だがどうしてこんなものがレヴィの部屋に飾られているんだろうか。

「綺麗な人でしょ。実際はこの肖像画よりもずっともっと綺麗な人だったんだ。容姿だけじゃなくて、心も」
「そ、そうなんすか……」

なぜかレヴィは得意げな表情で俺の方を見た。それからうっとりとした表情で視線を肖像画に移す。

「この方はね、アラン・ベリンガム様。この国の第五王子で、帝国騎士団の団長を務めていた方なんだ」

やっぱりそうだ。この絵は俺だ。生きている間にもこんなにデカい自分の顔と対面する機会はなかったので、なんとも言えない気持ちになる。

「アラン様の姿を記憶が鮮やかなうちに残しておきたくて。亡くなられてすぐに絵師に描かせたんだ。でも、なかなかアラン様の美しさを表すことは難しくて。この絵も完成までに510回描き直させたんだ」

「はぁ!? 何やってんだよおまえ!!」
反射的にまたしても大きな声が出てしまう。だが許してほしい。レヴィが俺の死後、こんなバカみたいなことに取り組んでいたなんて想像もできなかったのだから。

「だからきみうるさいって。それに僕のことおまえなんて呼ばないでもらえる?」
レヴィは不愉快そうに眉を顰め、俺はハッとした。

(しまった。つい昔みたいな口聞いちまったけど、今はコイツの方が年上なんだった)
「レヴィ様、大変失礼いたしました。その、あまりに驚きすぎてしまって」

素直に頭を下げる。
「そう。次からは気をつけてね。僕、そんなに気が長い方でもないから」

レヴィに促されて再びソファに座る。
「話さないといけないことが多すぎるな。まず初めに、僕――というかヴァンダービルト家にかけられた呪いについて話すよ」

ヴァンダービルト家に呪いがあるなんて。そんな話、今まで聞いたことがない。一体どんな類のものなんだろうか。レヴィの言葉に、俺は背筋を伸ばして小さく頷いた。
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