1 / 85
<プロローグ>
しおりを挟む「レヴィ、婚約者様は明日には王都に到着するそうだ」
乳兄弟であり側近のマークが執務室に入るなり告げた。
「思ったより早かったね」
大貴族の移動は大がかりだ。魔法で転移してしまえばいいものを、婚姻のような儀式に関してはしきたりや伝統を重んじて、それらは使わずに移動するという昔からのしきたりがある。
レヴィの言葉にマークが頷く。その顔は何か言いたげに見える。
「なに」
言いたいことがあるなら言えと告げると、マークは躊躇いがちに口を開いた。
「おまえの気持ちはわかる。だがあの家の魔力を借りなければ、この先おまえ自身がどうなるかわからない。だから――」
言いたいことはわかっている。結婚が決まってから耳にタコができるほど聞かされてきたことだ。右手を挙げて制するとマークは口を噤んだ。
「大丈夫だって。心配するな、上手くやるよ。たとえ気持ちはなくても大切にはするさ。彼には協力してもらわないと困る」
マークが呻くように相槌を打つ。
「民たちが安心して幸せに暮らせるような国を作る。あの方に託された使命を果たすまでは死ねないし、そのためなら何だってするよ」
婚約者には悪いが、目的のために死ぬまで利用させてもらうつもりだ。
愛を与えることはできないが、これまでと変わらない不自由のない豪華な暮らしを提供することならいくらでもできる。そもそもが愛のない政略結婚だ。向こうも気持ちなど求めてもないだろう。
次男である自分は子どもを残す必要もないと思っている。だから妻になるオメガにヒートがきても相手をするつもりはない。
代わりになるアルファならいくらでもいるし、避妊さえしっかりしてくれれば好きにやってくれればいい。結婚はしても番になる気はさらさらないのだから。
(それにもし気持ちを向けられても、僕が応えることは絶対にない)
心の中で呟きながら、ネックレスの鎖に通した古びた指輪にキスを落とす。あの日、命をかけて自分を護ってくれたあの人が最後にくれたもの。
(アラン様が亡くなられて、もう20年以上も経つのか……)
時間というものは、信じられないほどあっという間にすぎていく。目を閉じれば王子と過ごした日々が昨日のことのように思い出されるというのに。
幸せな記憶に浸っていると、マークがため息を吐くのが聞こえた。いつまでも過去に囚われている自分を案じているのだろう。
けれど、どれだけ時間が経っても想いは褪せることがない。
「僕がこの生涯で愛するのはアラン・ベリンガム様をおいて他にないんだ」
1,681
お気に入りに追加
3,414
あなたにおすすめの小説
【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
気付いたら囲われていたという話
空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる!
※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。
ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話
かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。
「やっと見つけた。」
サクッと読める王道物語です。
(今のところBL未満)
よければぜひ!
【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる