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4章

<4話>

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(あ、これ夢だな……)
直感したのは、近くに立つ水色の髪とピンク色の瞳の少年を見つけたからだ。昨日やってきたユーリよりも、ずっと小さい姿をしている。おそらく7歳くらいだろうか。
俺は彼のすぐ近くに立っているというのに、まったく気づく気配がない。
小さなユーリは今とは比較にならないぐらい邪気のない瞳を隣に立つ少年に向けている。ユーリの視線の先には、彼と同じ水色の髪の、少し背の高い少年が寄り添っている。
「兄上が父上の跡を継いだら、僕がずっとお側でお支えするんだ」
ユーリが嬉しそうに微笑むと、隣の少年がその頭を優しく撫でた。
「ありがとうユーリ。これからも俺たちはずっと一緒だな」
そうして二人は真っ黒い石造りの荘厳な城に続く階段を上っていく。
その姿に既視感を覚える。目を閉じて記憶の糸を手繰り寄せた俺は、あっと声を漏らした。
「そうだ、ユーリが過去を語るスチル……!」
思い出した途端、ゲームをプレイしていたときの記憶が鮮明に蘇る。ゲームで描かれていたものに加え、資料に書かれていた詳細が頭の中を駆け巡っていく。
(クソ、今すぐメモしたいのに! 早く目ぇ覚ませよ、俺!!)
願いが通じたのか、その瞬間パッと意識が浮上した。
「メモっ! 早くしないと!」
俺は叫ぶと、ベッドに転がっていたペンとノートを手に取って勢いよく書き連ねた。字の汚さなんて気にしていられない。後で解読できるレベルなら何でもいい。
ペンを放り投げる頃には、手が少し痛くなっていた。
「よかった……ほぼ思い出せたな」
しばしの休憩の後、殴り書きの文字を追っていく。
ユーリの実家であるギレスベルガー公爵家は、剣で競い合って跡取りを決めるのが伝統だった。数多の兄弟たちの中でも、ユーリは剣に初めて触れた7歳の頃から天才的な能力を発揮した。その結果、ユーリは跡取りを決める剣術の試合で、慕っていた長兄まで倒してしまったのだ。
小さなユーリは自分の勝利が何をするのかよくわかっていなかった。
試合後、駆け寄った長兄に伸ばした手を振り払われ、憎悪に燃える瞳で投げかけられた「おまえのせいで俺の人生は壊れた」という言葉によって、ユーリの性格も激変したのだ。
さらに次期公爵としての人生が確定したユーリは、兄弟たちと隔離されて公爵になるための教育を徹底的に受けるようになった。
だが、末弟が家を継ぐことに納得のできない兄弟たちやその取り巻きたちは、たびたびユーリに嫌がらせを仕掛ける。
見かねた公爵夫妻は、ユーリを「勉強のため」という名目でオーランドに送り出したのだ。
「ユーリは来年からオーランドの魔法学校に留学するんだよな」
ユーリだけではない。来年からはレイ、ルーク、そしてアシュリーも魔法学校に通い始めることになるのだ。
オーランドの魔法教育は隣国の中でも高い水準を誇る。そのため、近隣諸国から留学してくる王侯貴族も少なくないのだ。ただし、留学生たちは国内の入学よりもさらに高いレベルの魔力や学力基準をクリアする必要がある。それを踏まえてもユーリはかなり優秀なのだろう。
彼らが通うことになるのは、チャールトンカレッジというオーランドの魔法学校の中でも1、2を争う名門校だ。脳筋ニキのジェシーも、ああ見えてチャールトンカレッジの卒業生である。
(推しと離れるの、考えるだけで鬱になる……じゃなくて、今はユーリのことを考えないと!)
雑念を振り払うように頭を振って、向かうべき問題に意識を集中させる。
レイとアシュリーは互いに大貴族の跡取り息子として、社交の場ですでに顔見知りではあるはずだ。
本来、二人が出会うのは魔法学校に入学した後である。誰もいない音楽室でピアノを弾くユーリと、忘れ物を取りに来たレイが鉢合わせする……というエモいイベントなのだが。
先ほど、二人はすでに出会ってしまった。しかもその場面にはアシュリーとルーク、それに俺も立ち会っていたし、あの場で互いに一目ぼれしたようにも見えなかった。
これまでのさまざまなストーリー改変によって、ユーリのレイがどうやって惹かれあっていくのかがわからない。
これから先、何か選択をミスって、レイとユーリのラブストーリーが始まったら今までの苦労が水の泡になってしまう。
俺は頭を抱えたくなった。だが、ここで諦めるわけにはいかない。
「このルートさえ潰せば、今後こそ推しの幸せが完全なものになるはずだ……やってやるぞ!」
俺は手にしたペンを天に掲げてベッドの上でぴょんぴょんと跳ねた。

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