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4章
<3話>
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部屋に戻った俺はベッドの上でノートを広げた。この世界で過ごす時間が長くなるにつれて、前世の記憶が少しずつ薄れていっている気がする。
そのため、推しをはじめレイやルークの情報は忘れないようにノートに書き留めているのだ。とはいえ誰かに見られたら困るので、クローゼットの奥の方に普段は隠している。
「ユーリ・ギレスベルガーっと」
まずは名前から書いていく。
年は確かアシュリーと同い年。小さな頃は夏と冬、年に2回ほど遊びに来ていた。アシュリーが離れに引きこもる前は一緒に庭を走り回っていた気がする。
だが当時から大人の前と俺たちや使用人の前での態度を使い分けていた。
彼の母国であるリエンツ帝国は俺たちの国が存在する大陸の中でも群を抜いた大国だ。中でもギレスベルガー公爵は国政の中枢を担う大貴族として近隣諸国にもその名を轟かせている。
ユーリの父であるギレスベルガー公爵は、リエンツの鷹という異名を持つ。とにかく頭が切れるのだ。彼が宰相になってからリエンツは領土を大きく拡大したが、そのほとんどが争いなしに進められた。
血を流さずに領土を拡大する手腕に、震えあがっている国も少なくないという。
その上リエンツ帝国は情報統制と管理が厳しく行われており、国交があっても他国に情報が流れてくることがあまりない。
リエンツの国民が他国へ行くことはそう難しくないのだが、他国の人間がリエンツに足を踏み入れるのは非常に難しいとも言われている。
少しでもリエンツの情報を入手し、かつ良好な関係を築きたいグラスミアの宮廷は、10大名家であるクロフォード家の令嬢をギレスベルガー家に嫁がせたのだ。
政略結婚とはいえ、美丈夫の公爵に叔母上はすっかり夢中になったらしい。公爵もグラスミアで一番賢く美しいと言われていた叔母上に一目ぼれし、すぐに愛し合うようになったそうだ。
そんな二人の間に生まれたのがユーリなのだ。ギレスベルガー公爵は周囲の反対を押し切って、叔母上以外の側室や愛妾をいっさい作っていないという。
公爵はその必要がないと周囲を納得させるためもあり、叔母上との間にたくさんの子を成した。今では息子が5人、娘が3人いる。ユーリは8人兄弟中、4番目で下に弟が一人と妹が四人いるはず。その中で、なぜかユーリだけがよくクロフォード家に来ていたのを覚えている。
他の従兄弟たちとは、前に会ったのがいつだったのか、思い出せないほどだ。
「そういえば、なんでユーリだけグラスミアに来てるんだろ」
たしかゲームではグラスミアにやってくる前のユーリについては、あまり描かれていなかった気がする。
「う~ん……でも設定資料には色々と書いてあった気がするんだよなあ」
正直言って、ユーリは性格が俺の好みと一番遠いこともあって、流してプレイしてしまった。
そのため資料もざっとしか目を通していない。
「クソ。思い出せない……」
ベッドに寝転んで、天井を眺めてみるが、たいしたことは思い出せない。記憶の中を深探ろうと目を閉じると、次第に睡魔に襲われる。
「ダメだこれ……寝ちゃう」
頭脳は大人だが、体はまだ小さな子どもなので体のほうの充電がぷつりと切れてしまうことがあるのだ。
(ああ……寝ちゃダメなのに……)
だがもう瞼も開けられない。そうして俺は抵抗むなしく夢の世界へと入っていった。
そのため、推しをはじめレイやルークの情報は忘れないようにノートに書き留めているのだ。とはいえ誰かに見られたら困るので、クローゼットの奥の方に普段は隠している。
「ユーリ・ギレスベルガーっと」
まずは名前から書いていく。
年は確かアシュリーと同い年。小さな頃は夏と冬、年に2回ほど遊びに来ていた。アシュリーが離れに引きこもる前は一緒に庭を走り回っていた気がする。
だが当時から大人の前と俺たちや使用人の前での態度を使い分けていた。
彼の母国であるリエンツ帝国は俺たちの国が存在する大陸の中でも群を抜いた大国だ。中でもギレスベルガー公爵は国政の中枢を担う大貴族として近隣諸国にもその名を轟かせている。
ユーリの父であるギレスベルガー公爵は、リエンツの鷹という異名を持つ。とにかく頭が切れるのだ。彼が宰相になってからリエンツは領土を大きく拡大したが、そのほとんどが争いなしに進められた。
血を流さずに領土を拡大する手腕に、震えあがっている国も少なくないという。
その上リエンツ帝国は情報統制と管理が厳しく行われており、国交があっても他国に情報が流れてくることがあまりない。
リエンツの国民が他国へ行くことはそう難しくないのだが、他国の人間がリエンツに足を踏み入れるのは非常に難しいとも言われている。
少しでもリエンツの情報を入手し、かつ良好な関係を築きたいグラスミアの宮廷は、10大名家であるクロフォード家の令嬢をギレスベルガー家に嫁がせたのだ。
政略結婚とはいえ、美丈夫の公爵に叔母上はすっかり夢中になったらしい。公爵もグラスミアで一番賢く美しいと言われていた叔母上に一目ぼれし、すぐに愛し合うようになったそうだ。
そんな二人の間に生まれたのがユーリなのだ。ギレスベルガー公爵は周囲の反対を押し切って、叔母上以外の側室や愛妾をいっさい作っていないという。
公爵はその必要がないと周囲を納得させるためもあり、叔母上との間にたくさんの子を成した。今では息子が5人、娘が3人いる。ユーリは8人兄弟中、4番目で下に弟が一人と妹が四人いるはず。その中で、なぜかユーリだけがよくクロフォード家に来ていたのを覚えている。
他の従兄弟たちとは、前に会ったのがいつだったのか、思い出せないほどだ。
「そういえば、なんでユーリだけグラスミアに来てるんだろ」
たしかゲームではグラスミアにやってくる前のユーリについては、あまり描かれていなかった気がする。
「う~ん……でも設定資料には色々と書いてあった気がするんだよなあ」
正直言って、ユーリは性格が俺の好みと一番遠いこともあって、流してプレイしてしまった。
そのため資料もざっとしか目を通していない。
「クソ。思い出せない……」
ベッドに寝転んで、天井を眺めてみるが、たいしたことは思い出せない。記憶の中を深探ろうと目を閉じると、次第に睡魔に襲われる。
「ダメだこれ……寝ちゃう」
頭脳は大人だが、体はまだ小さな子どもなので体のほうの充電がぷつりと切れてしまうことがあるのだ。
(ああ……寝ちゃダメなのに……)
だがもう瞼も開けられない。そうして俺は抵抗むなしく夢の世界へと入っていった。
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