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3章
<2話>
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「どうした?」
ジェシーがきょとんとした表情でたずねる。
顔は一族の血を受け継いで綺麗なのに身体は帰ってくる度に大きくなっている気がしてならない。
まるで雑なコラ画像みたいに見えてくる。
「皆の前であまり恥ずかしいことを言わないでください。ただでさえこんなに目立つことになっていたたまれないのに」
「そうかそうか。悪かったな。でもおまえは自慢の弟だから自慢したくなるんだ!」
若干意味不明なことを言いながら、ジェシーはアシュリーの頭をポンポンと撫でる。
(くそ、今度は頭ポンかよ。いいなあ。俺も推しの頭撫でたい)
さっきから兄ポジのうまみを見せつけられて羨ましくてたまらない。
アシュリーはジェシーの言葉にさらに真っ赤になって、小さな声でありがとうございますと呟いた。
それを聞いたジェシーもにこにこと笑っている。
部屋中にほわほわした、花でも飛びそうな空気が流れる中、アシュリーが場を仕切り直すようにコホンと咳払いをした。
「そ、そうだ兄上。今日のパーティーの最初の挨拶文ですが事前に一度、聞いていただけますか? 父上と母上に相談したのですが、好きにしゃべればいいとおっしゃるばかりで」
「好きにしゃべればいいじゃないか! 俺なんていつもその場で考えているぞ」
それはアンタだけだよとつっこみたい気持ちをぐっと抑え、俺は無邪気にはしゃいだ声を出した。
「アシュリー兄さまのご挨拶、僕聞いてみたいです!」
「ルイスがそういうならそうだな! アシュリー、ぜひ聞かせてくれ」
アシュリーはほっとしたように微笑む。
「ありがとうございます、兄上。それにルイスも」
ジェシーは俺を降ろし、二人並んでソファに座った。
アシュリーはその俺たちの前に立つと、ポケットから丁寧に折りたたまれた紙を取り出した。
グラスミアでは公式の場での挨拶では紙を用意するのが礼儀となっている。
貴族の私邸で行われるパーティーは公的なものではないのだが、家族以外の招待客が参加する一定以上の規模のパーティーの場合は公的な場に倣うのが一般的なのだ。
アシュリーは紙を広げて両手で持つ。
(あ、手が震えてる)
緊張のせいか、紙を持つ指が細かく震えている。それでも推しは大きく息を吸って澄んだ声を部屋に響かせた。
「ほ、本日、は……わたくしアシュリー・クロフォード、の誕生日パーティーにご参加下さり……あ、ありがとうございます」
そこまで読み上げると、アシュリーは両手を下げてがっくりと肩を落とす。
「ダメだ。今までろくに人前に出ることなんてなかったのに。怖すぎる」
顔はいつの間にか蒼白になっている。
「アシュリー兄さま!」
俺は反射的に駆け寄った。そのまま推しの手を引っ張ってソファに連れていく。
「ありがとう」
アシュリーの顔は暗く沈んでいる。
「大丈夫か!? シェフに何か喉の通りがよくなる飲み物を作ってもらおう!」
ジェシーはそう言って部屋を飛び出していく。
アシュリーはジェシーに何かを言いかけたが、結局俯いてしまった。
もしかして、慣れないイベントでストレスがかかり体調を崩してしまったのかもしれない。
いてもたってもいられず、推しに声をかけた。
「どうしたのですか、アシュリー兄さま。もしかして体調が悪くなったのでしょうか?」
「ううん、違うから心配しないで」
「でも、とても元気がないように見えます。僕、心配でたまりません」
ひんやりとした手をそっと両手で握ると、アシュリーはこちらを見て、それからまた視線を逸らした。
「……ルイスに」
「僕?」
「ルイスに情けない姿を見せてちゃったから……ちょっと落ち込んでる」
恥ずかしいのか、言いながら顔がうっすら紅く染まっていく。
つられて俺も自分の顔に熱が集中していくのを感じた。
(ええ! なにそれ!! 理由が可愛すぎるんだが!! 萌え死ぬ!!)
にやけてしまいそうになるのを必死で抑える。
「兄さまはいつでも、誰よりも素敵でかっこいいです!」
「あまり僕を甘やかさないで……さすがにさっきのはカッコ悪すぎる。自分でもわかるよ」
アシュリーはそう言うと、背もたれに背中を預けて上を向く。
「人前に出るのは本当に苦手なんだ。たくさんの目が僕を見ていると思うと、気持ちが悪くなってしまうんだ。ダメだよね、挨拶もろくにできないなんて」
「そんなこと……あ! いいことを思いつきました」
俺は部屋の隅にあるサイドデスクの引き出しを開け、1本のペンを取り出す。
それを持ってアシュリーの側へと戻った。
「どうしたの? 急にペンなんか持ってきて。この部屋には紙がないから、必要なら取りに行こうか」
立ち上がりかけたアシュリーの手を慌てて引っ張る。
「違います! 兄さま、右手を貸してください」
「え? はい」
アシュリーはきょとんした顔で小首を傾げ、手を差し出してきた。
俺は左手アシュリーの右手をしっかり掴むと、真っ白い手のひらに黒いペンを走らせる。
「ルイス? 何をしているの? くすぐったいよ」
たまらずアシュリーがくすくす笑いだす。
「兄さま、少しだけ! ほんの少しだけじっとしていてくださいね……っと。はい、できました!」
「え? これは……?」
アシュリーは手のひらに描かれた花丸を眺めながら不思議そうな顔をしている。
「兄さまのご挨拶がうまくいくように、僕が考えたおまじないです! 緊張したらこれを見てくださいね。きっとうまくいきますから」
アシュリーはなぜか一瞬泣きそうな顔をして俺のことをそっと抱きしめた。
「兄さま? どうなさったのですか? どこか痛いのですか」
アシュリーはゆっくり体を離すと俺の目を覗き込むように微笑んだ。
「違うよ……ありがとう。ルイスのおかげで頑張れそうだよ」
慈愛に満ちた微笑みに、胸がきゅんを通り越してぎゅんときて胸が苦しくなった。
「はい! 僕、応援してます!」
そう言うとアシュリーはますます笑みを深め、俺のことを優しく抱きしめてくれる。
思いもよらない推しからのファンサを受けて、俺は誕生日パーティーの前に尊死してしまいそうになった。
ジェシーがきょとんとした表情でたずねる。
顔は一族の血を受け継いで綺麗なのに身体は帰ってくる度に大きくなっている気がしてならない。
まるで雑なコラ画像みたいに見えてくる。
「皆の前であまり恥ずかしいことを言わないでください。ただでさえこんなに目立つことになっていたたまれないのに」
「そうかそうか。悪かったな。でもおまえは自慢の弟だから自慢したくなるんだ!」
若干意味不明なことを言いながら、ジェシーはアシュリーの頭をポンポンと撫でる。
(くそ、今度は頭ポンかよ。いいなあ。俺も推しの頭撫でたい)
さっきから兄ポジのうまみを見せつけられて羨ましくてたまらない。
アシュリーはジェシーの言葉にさらに真っ赤になって、小さな声でありがとうございますと呟いた。
それを聞いたジェシーもにこにこと笑っている。
部屋中にほわほわした、花でも飛びそうな空気が流れる中、アシュリーが場を仕切り直すようにコホンと咳払いをした。
「そ、そうだ兄上。今日のパーティーの最初の挨拶文ですが事前に一度、聞いていただけますか? 父上と母上に相談したのですが、好きにしゃべればいいとおっしゃるばかりで」
「好きにしゃべればいいじゃないか! 俺なんていつもその場で考えているぞ」
それはアンタだけだよとつっこみたい気持ちをぐっと抑え、俺は無邪気にはしゃいだ声を出した。
「アシュリー兄さまのご挨拶、僕聞いてみたいです!」
「ルイスがそういうならそうだな! アシュリー、ぜひ聞かせてくれ」
アシュリーはほっとしたように微笑む。
「ありがとうございます、兄上。それにルイスも」
ジェシーは俺を降ろし、二人並んでソファに座った。
アシュリーはその俺たちの前に立つと、ポケットから丁寧に折りたたまれた紙を取り出した。
グラスミアでは公式の場での挨拶では紙を用意するのが礼儀となっている。
貴族の私邸で行われるパーティーは公的なものではないのだが、家族以外の招待客が参加する一定以上の規模のパーティーの場合は公的な場に倣うのが一般的なのだ。
アシュリーは紙を広げて両手で持つ。
(あ、手が震えてる)
緊張のせいか、紙を持つ指が細かく震えている。それでも推しは大きく息を吸って澄んだ声を部屋に響かせた。
「ほ、本日、は……わたくしアシュリー・クロフォード、の誕生日パーティーにご参加下さり……あ、ありがとうございます」
そこまで読み上げると、アシュリーは両手を下げてがっくりと肩を落とす。
「ダメだ。今までろくに人前に出ることなんてなかったのに。怖すぎる」
顔はいつの間にか蒼白になっている。
「アシュリー兄さま!」
俺は反射的に駆け寄った。そのまま推しの手を引っ張ってソファに連れていく。
「ありがとう」
アシュリーの顔は暗く沈んでいる。
「大丈夫か!? シェフに何か喉の通りがよくなる飲み物を作ってもらおう!」
ジェシーはそう言って部屋を飛び出していく。
アシュリーはジェシーに何かを言いかけたが、結局俯いてしまった。
もしかして、慣れないイベントでストレスがかかり体調を崩してしまったのかもしれない。
いてもたってもいられず、推しに声をかけた。
「どうしたのですか、アシュリー兄さま。もしかして体調が悪くなったのでしょうか?」
「ううん、違うから心配しないで」
「でも、とても元気がないように見えます。僕、心配でたまりません」
ひんやりとした手をそっと両手で握ると、アシュリーはこちらを見て、それからまた視線を逸らした。
「……ルイスに」
「僕?」
「ルイスに情けない姿を見せてちゃったから……ちょっと落ち込んでる」
恥ずかしいのか、言いながら顔がうっすら紅く染まっていく。
つられて俺も自分の顔に熱が集中していくのを感じた。
(ええ! なにそれ!! 理由が可愛すぎるんだが!! 萌え死ぬ!!)
にやけてしまいそうになるのを必死で抑える。
「兄さまはいつでも、誰よりも素敵でかっこいいです!」
「あまり僕を甘やかさないで……さすがにさっきのはカッコ悪すぎる。自分でもわかるよ」
アシュリーはそう言うと、背もたれに背中を預けて上を向く。
「人前に出るのは本当に苦手なんだ。たくさんの目が僕を見ていると思うと、気持ちが悪くなってしまうんだ。ダメだよね、挨拶もろくにできないなんて」
「そんなこと……あ! いいことを思いつきました」
俺は部屋の隅にあるサイドデスクの引き出しを開け、1本のペンを取り出す。
それを持ってアシュリーの側へと戻った。
「どうしたの? 急にペンなんか持ってきて。この部屋には紙がないから、必要なら取りに行こうか」
立ち上がりかけたアシュリーの手を慌てて引っ張る。
「違います! 兄さま、右手を貸してください」
「え? はい」
アシュリーはきょとんした顔で小首を傾げ、手を差し出してきた。
俺は左手アシュリーの右手をしっかり掴むと、真っ白い手のひらに黒いペンを走らせる。
「ルイス? 何をしているの? くすぐったいよ」
たまらずアシュリーがくすくす笑いだす。
「兄さま、少しだけ! ほんの少しだけじっとしていてくださいね……っと。はい、できました!」
「え? これは……?」
アシュリーは手のひらに描かれた花丸を眺めながら不思議そうな顔をしている。
「兄さまのご挨拶がうまくいくように、僕が考えたおまじないです! 緊張したらこれを見てくださいね。きっとうまくいきますから」
アシュリーはなぜか一瞬泣きそうな顔をして俺のことをそっと抱きしめた。
「兄さま? どうなさったのですか? どこか痛いのですか」
アシュリーはゆっくり体を離すと俺の目を覗き込むように微笑んだ。
「違うよ……ありがとう。ルイスのおかげで頑張れそうだよ」
慈愛に満ちた微笑みに、胸がきゅんを通り越してぎゅんときて胸が苦しくなった。
「はい! 僕、応援してます!」
そう言うとアシュリーはますます笑みを深め、俺のことを優しく抱きしめてくれる。
思いもよらない推しからのファンサを受けて、俺は誕生日パーティーの前に尊死してしまいそうになった。
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