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「あ、はい!」
動揺のせいか、無駄に大きな声で反応してしまう。金成はそんな俺を可笑しそうに見ている。
ドアが開き、雨宮さんーーこのカフェのオーナーが入ってきた。俺たちの前にそれぞれ、赤と青の薩摩切子のグラスが置かれる。
マスターはグラスに水を注ぎながら、古めかしい緑色のブック型のメニューを俺に手渡した。
「メニューだよ。あの頃と何も変わっていないけどね」
「懐かしいです……ほんとに」
俺はメニューをそっと撫でる。この店でアルバイトしていた期間はそう長い訳じゃない。けれど、飛鳥にとってはとても大切な絆を作ることができた場所だった。
「その方は……聞いてもいいのかな?」
「あ、こいつは俺の……」
どう伝えればいいんだろう。本来は義理の兄と説明するべきなんだろうが、今の金成は明らかに俺よりも年上には見えない。言い淀んでいると、横から声がした。
「弟です。親同士が再婚の連れ子なんで、血は繋がってはいないけど」
「そうなんだね。飛鳥は昔、この店でアルバイトをしていたことがあるんだよ」
「そうなんですね。知らなかったです」
「そんなに長い期間じゃなかったからね。ほら、今やテレビで見ない日はない人気者だし」
「やめてくださいよ、オーナー、テレビ見ないじゃないですか」
「私は見ないけど、蓮は飛鳥の出るドラマや映画は全部観ているから」
「えっ! 蓮さんが? どうせ笑ってるんでしょ……」
あの人のことだ。俺の演技にいちいちツッコミを入れているに違いない。
「そんなことないよ。たまに感動しているみたいだし。ところで注文はどうする? また後で聞きにこようか?」
「あ、俺は大丈夫です。もう決まってるんで。金成は?」
「俺、こんなにたくさんのコーヒーの種類、初めて見たから…。何がなんだか」
「おまえも甘いの好きだし、俺と同じにする? ここのメニューは極めてるから」
「うん、そうする」
「オーナー、すみません。カフェオレ……はやっぱなしで。ギシルコーヒーのホット2つと、バナナクレープ2つお願いします」
「かしこまりました。蓮が運んでくる思うから、楽しみにしていてね」
そう言い残してオーナーは音もなく部屋を出ていった。
部屋中が再び静かな沈黙に包まれる。俺たちは再び席に着いた。本当はもう少し金成とくっついていたかったなと、正面に座る恋人をチラリと見る。
金成は、さっきキスをしたことなんて忘れてしまったみたいな顔をして、熱心にメニューを読み込んでいた。自分だけ熱が引かないことが悔しくて、テーブルの下でつま先を軽く蹴る。
「なに。どうしたの?」
金成は目を丸くして顔を上げた。
「べつに」
俺は年甲斐もなく、ふてくされたように応じる。
「どうしたの? 飛鳥。なんか怒ってる?」
「べつに」
「べつにじゃわかんないよ。俺、なんかした?」
金成はメニューをテーブルの上に置くと、手を前に伸ばして俺の両手を優しく包み込んだ。恋人の意識がしっかり自分に向いたことがわかって、気分が良くなる。
「あ、笑った」
緩んだ表情を指摘され、俺はふいっと横を向く。
「笑ってない」
「笑ってんじゃん……怒ってるわけじゃないんだね。よかった」
横目で見ると、俺の両手を強弱をつけて優しく握りながらニコニコしている。その笑顔を見ているだけで、今すぐくっつきたくなる。
「……さっき」
「ん?」
「さっきまで、してたのに……なのにおまえが、もう今は、そんなの全然知りませんって顔してるから……もっとしたいの、俺ばっかじゃんって」
金成がどんな表情をしているのか見るのが気まずくて、そっぽを向いたまま話し続ける。揶揄われるか呆れられるかと思ったのに、無反応だった。
「おい。なんか言えよ、恥ずいだろ」
横を向いたまま抗議したが、それでも反応はない。さらに、触れていた手も離されてしまった。
「おいって……!」
たまらず金成の方を振り返った瞬間、ものすごい力で腕を引かれて半ば強制的に立ち上がらせられる。
何が起こっているのかわからないうちに、大きな手が項を押さえ、同時に、呼吸を奪うような激しさで深い口づけを受けた。
身体中に電流のような快感が走る。
「んっ……んぅっ」
突然のことに、うまく息ができない。苦しくなって抗議のつもりで胸板を押したが、腰と項を掴む手にさらに力が込められただけだった。
腔内を蹂躙していた舌が糸を引いて離れると、今度は下唇を甘噛みされたり、音を立てて吸われたりする。
久しぶりの激しいキスに脚が震える。金成は椅子に腰かけると、俺を横抱きして膝の上に乗せた。
「いきなり可愛いこと言わないで……止まんなくなる」
ギラギラした光を目に浮かべた恋人は、再び俺の唇を貪った。
動揺のせいか、無駄に大きな声で反応してしまう。金成はそんな俺を可笑しそうに見ている。
ドアが開き、雨宮さんーーこのカフェのオーナーが入ってきた。俺たちの前にそれぞれ、赤と青の薩摩切子のグラスが置かれる。
マスターはグラスに水を注ぎながら、古めかしい緑色のブック型のメニューを俺に手渡した。
「メニューだよ。あの頃と何も変わっていないけどね」
「懐かしいです……ほんとに」
俺はメニューをそっと撫でる。この店でアルバイトしていた期間はそう長い訳じゃない。けれど、飛鳥にとってはとても大切な絆を作ることができた場所だった。
「その方は……聞いてもいいのかな?」
「あ、こいつは俺の……」
どう伝えればいいんだろう。本来は義理の兄と説明するべきなんだろうが、今の金成は明らかに俺よりも年上には見えない。言い淀んでいると、横から声がした。
「弟です。親同士が再婚の連れ子なんで、血は繋がってはいないけど」
「そうなんだね。飛鳥は昔、この店でアルバイトをしていたことがあるんだよ」
「そうなんですね。知らなかったです」
「そんなに長い期間じゃなかったからね。ほら、今やテレビで見ない日はない人気者だし」
「やめてくださいよ、オーナー、テレビ見ないじゃないですか」
「私は見ないけど、蓮は飛鳥の出るドラマや映画は全部観ているから」
「えっ! 蓮さんが? どうせ笑ってるんでしょ……」
あの人のことだ。俺の演技にいちいちツッコミを入れているに違いない。
「そんなことないよ。たまに感動しているみたいだし。ところで注文はどうする? また後で聞きにこようか?」
「あ、俺は大丈夫です。もう決まってるんで。金成は?」
「俺、こんなにたくさんのコーヒーの種類、初めて見たから…。何がなんだか」
「おまえも甘いの好きだし、俺と同じにする? ここのメニューは極めてるから」
「うん、そうする」
「オーナー、すみません。カフェオレ……はやっぱなしで。ギシルコーヒーのホット2つと、バナナクレープ2つお願いします」
「かしこまりました。蓮が運んでくる思うから、楽しみにしていてね」
そう言い残してオーナーは音もなく部屋を出ていった。
部屋中が再び静かな沈黙に包まれる。俺たちは再び席に着いた。本当はもう少し金成とくっついていたかったなと、正面に座る恋人をチラリと見る。
金成は、さっきキスをしたことなんて忘れてしまったみたいな顔をして、熱心にメニューを読み込んでいた。自分だけ熱が引かないことが悔しくて、テーブルの下でつま先を軽く蹴る。
「なに。どうしたの?」
金成は目を丸くして顔を上げた。
「べつに」
俺は年甲斐もなく、ふてくされたように応じる。
「どうしたの? 飛鳥。なんか怒ってる?」
「べつに」
「べつにじゃわかんないよ。俺、なんかした?」
金成はメニューをテーブルの上に置くと、手を前に伸ばして俺の両手を優しく包み込んだ。恋人の意識がしっかり自分に向いたことがわかって、気分が良くなる。
「あ、笑った」
緩んだ表情を指摘され、俺はふいっと横を向く。
「笑ってない」
「笑ってんじゃん……怒ってるわけじゃないんだね。よかった」
横目で見ると、俺の両手を強弱をつけて優しく握りながらニコニコしている。その笑顔を見ているだけで、今すぐくっつきたくなる。
「……さっき」
「ん?」
「さっきまで、してたのに……なのにおまえが、もう今は、そんなの全然知りませんって顔してるから……もっとしたいの、俺ばっかじゃんって」
金成がどんな表情をしているのか見るのが気まずくて、そっぽを向いたまま話し続ける。揶揄われるか呆れられるかと思ったのに、無反応だった。
「おい。なんか言えよ、恥ずいだろ」
横を向いたまま抗議したが、それでも反応はない。さらに、触れていた手も離されてしまった。
「おいって……!」
たまらず金成の方を振り返った瞬間、ものすごい力で腕を引かれて半ば強制的に立ち上がらせられる。
何が起こっているのかわからないうちに、大きな手が項を押さえ、同時に、呼吸を奪うような激しさで深い口づけを受けた。
身体中に電流のような快感が走る。
「んっ……んぅっ」
突然のことに、うまく息ができない。苦しくなって抗議のつもりで胸板を押したが、腰と項を掴む手にさらに力が込められただけだった。
腔内を蹂躙していた舌が糸を引いて離れると、今度は下唇を甘噛みされたり、音を立てて吸われたりする。
久しぶりの激しいキスに脚が震える。金成は椅子に腰かけると、俺を横抱きして膝の上に乗せた。
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