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第一章 お屋敷編
第二十話 御珠様の悪戯??
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俺の部屋に有る木製のタンスと、本棚。両方とも俺と同じぐらいの高さで、荘厳な雰囲気を醸し出していて、良い意味で骨董品と言っても良いかもしれない。
昨日からずっと気にかかってはいたけれど……今まで調べられる機会が無かったのだ。
まずはタンスの前に立った俺は、早速開けてみることにする。
全部で七段有るので、まずは一番下の段から。黒い鉄でできた取っ手を引く。
すると、中に入っていたのは硯と墨と文鎮と、筆と万年筆が数本ずつ。
それから、カレンダーの様に上が綴じられている、大きめのメモ帳のような物が五冊ほど。他にものりとかはさみとか、色々な道具が沢山詰め込まれていた。
それからそれらの上には、一枚の薄い紙が裏返しになって置かれていた。
『景へ。この箪笥と本棚の物は自由に使ってよい。足りなくなったら蓬か私に頼むこと。御珠』
拾い上げてめくってみれば真っ白な紙の上には、達筆な細い筆文字でこう書かれてある。
タンスの中に伝言を入れておくなんて、何となく粋だな、御珠様。
面白く感じながら、俺は白紙の冊子を一冊と、万年筆を取り出して机の上に置いた。多分これらはすぐに使うことが有るだろう。
一段目を閉じて下から二段目を開ければ今度は、タオル、帯、足袋、ふんどしの様な細かい衣服が入っていた。
三段目と四段目には、代えの着物が沢山。柄が豪華なのは物は多分、他所行きの物なのだろう。
シンプルなのは部屋着とか寝間着だ。
五段目から上には鞄とか財布とか算盤とか、色々な物が入っていて。
……多分、御珠様が手当たり次第に無理やり詰め込んだんだろう。
できれば全部調べてみたかったけれど、元通りタンスに収まり切らなかったら困るので、今はそっとしておくことにした。
そして俺は今度は、本棚の方に近付いた。こっちもタンスに劣らず立派で、高さ約170センチ、横幅一メートルぐらいの中には、沢山の本が並んでいる。
「これは……」
完全に、予想外だった。
この世界の本といったら何となく、紙を紐かのりでつなぎとめた、簡単な物を想像していたけれど……。
そんなイメージは完全に間違いだったみたいで、本棚の本の装丁と外見はとても丁寧に作られていて、俺の知っている現代の物と全く変わらない。
違いといえば、表紙カバーの有る本が殆ど無いことぐらいだ。
小説は有るかな? 嬉しい気分になりながら、試しに一冊を引き抜いてみる。
「!」
その表紙に描かれている絵を見て、ただ驚愕する。
それは背中に翼の生えた、明るい毛並みの犬獣人の女の子が、楽しそうに大空を飛んでいるイラストで。
色彩が鮮やかでポップなタッチで、とにかくかわいらしいその絵柄は、元の世界で好きだった漫画やアニメの画風とそっくりで……。
……まさか、この世界にも、ライトノベルが有ったとは。
そういう娯楽はこっちには無いかと思っていた俺にとって、それは、まさに希望も同然だった。
原画は物凄く細い筆で書かれているらしく、線の一本一本に独特の躍動感が有って今にも動き出しそうで、それでいて、やっぱりかわいい。見ていて飽きない、表紙だった。
震える手でめくってみれば、中にも十枚以上挿絵が挟まれていて、期待を裏切らない。
もしかして、これ一冊じゃないのか?
本棚を探ってみれば、同じ系統の挿絵のついた本が、他にも何冊も出てくる。
しかも、どれもこれもかなり面白そう。
一体、お屋敷の誰が置いてくれたんだろう?
分からないけれど、これは嬉しい。非常に嬉しい。本当に、ただただ嬉しい。
昨日から今まで大変なこと尽くしだったけれど、ようやく癒しの時間がやって来た……。
この分だと、探せば漫画だって有るのかもしれない。期待を抱きながら、一冊ずつ本を調べていく。
「あれ」
すると途中で、奇妙なことに気が付いた。
よく見ると、棚に並んだ本の奥に、一冊の薄めの本が、横向きになって隠されている。
不思議に思いながら、周りの本を取り除いて、その本を引っ張り出してみる。
「………」
手元のその本を見て、俺は更に疑惑を強めていく。
一見すると、これもライトノベルに見える。
表紙に書かれている色んな種族の女の子たちが、何故か着物をギリギリまではだけさせている点や、全体的に装丁がピンク色っぽい点を除けば……。
……これは、絶対、ヤバいやつだ。勿論、18禁的な意味で。
こんなことやりそうな人は、どう考えても一人しかいない。
……御珠様の悪戯か? もしそうだとしても、訳が分からないのは同じ。
この表紙はただのダミーで、本当は開いた瞬間に発動する呪いの書とかだったりして……。
俺は怪しいところがないか、もう一度、じっと表紙を確かめてみた。
いや、違う。多分これ、本当にただのエロ本だ……。
何となくだけど、どうしようもないぐらいに、それ以外の気配がしない。
と、とにかく、俺は今17だ。こんないかがわしい本を堂々と読んで良い訳ではない。
たった1年の差とは言えど、大っぴらに読んだらマズいだろう、一応、建前として。
……いや、でも、それは元の世界だけの話で、この世界での年齢区分は違っているのかも知れない。
もしそうなら、別にちょっとぐらい見ても構わないよな。
そもそもここは部屋の中だ。今なら別に、他の誰かに見られている訳じゃないし……。
ばれなきゃ、全然大丈夫、大丈夫だよな。うん。
早まる鼓動を感じながら、俺は表紙に手をかけて、ゆっくりとめくろうとする。
その時。
ガラッ! と背後で、部屋のふすまが開く音。
「――っ!!」
完全なる不意打ちに、心臓が止まりそうになりながら、慌てて振り向いた。
だ、誰だ……?!
昨日からずっと気にかかってはいたけれど……今まで調べられる機会が無かったのだ。
まずはタンスの前に立った俺は、早速開けてみることにする。
全部で七段有るので、まずは一番下の段から。黒い鉄でできた取っ手を引く。
すると、中に入っていたのは硯と墨と文鎮と、筆と万年筆が数本ずつ。
それから、カレンダーの様に上が綴じられている、大きめのメモ帳のような物が五冊ほど。他にものりとかはさみとか、色々な道具が沢山詰め込まれていた。
それからそれらの上には、一枚の薄い紙が裏返しになって置かれていた。
『景へ。この箪笥と本棚の物は自由に使ってよい。足りなくなったら蓬か私に頼むこと。御珠』
拾い上げてめくってみれば真っ白な紙の上には、達筆な細い筆文字でこう書かれてある。
タンスの中に伝言を入れておくなんて、何となく粋だな、御珠様。
面白く感じながら、俺は白紙の冊子を一冊と、万年筆を取り出して机の上に置いた。多分これらはすぐに使うことが有るだろう。
一段目を閉じて下から二段目を開ければ今度は、タオル、帯、足袋、ふんどしの様な細かい衣服が入っていた。
三段目と四段目には、代えの着物が沢山。柄が豪華なのは物は多分、他所行きの物なのだろう。
シンプルなのは部屋着とか寝間着だ。
五段目から上には鞄とか財布とか算盤とか、色々な物が入っていて。
……多分、御珠様が手当たり次第に無理やり詰め込んだんだろう。
できれば全部調べてみたかったけれど、元通りタンスに収まり切らなかったら困るので、今はそっとしておくことにした。
そして俺は今度は、本棚の方に近付いた。こっちもタンスに劣らず立派で、高さ約170センチ、横幅一メートルぐらいの中には、沢山の本が並んでいる。
「これは……」
完全に、予想外だった。
この世界の本といったら何となく、紙を紐かのりでつなぎとめた、簡単な物を想像していたけれど……。
そんなイメージは完全に間違いだったみたいで、本棚の本の装丁と外見はとても丁寧に作られていて、俺の知っている現代の物と全く変わらない。
違いといえば、表紙カバーの有る本が殆ど無いことぐらいだ。
小説は有るかな? 嬉しい気分になりながら、試しに一冊を引き抜いてみる。
「!」
その表紙に描かれている絵を見て、ただ驚愕する。
それは背中に翼の生えた、明るい毛並みの犬獣人の女の子が、楽しそうに大空を飛んでいるイラストで。
色彩が鮮やかでポップなタッチで、とにかくかわいらしいその絵柄は、元の世界で好きだった漫画やアニメの画風とそっくりで……。
……まさか、この世界にも、ライトノベルが有ったとは。
そういう娯楽はこっちには無いかと思っていた俺にとって、それは、まさに希望も同然だった。
原画は物凄く細い筆で書かれているらしく、線の一本一本に独特の躍動感が有って今にも動き出しそうで、それでいて、やっぱりかわいい。見ていて飽きない、表紙だった。
震える手でめくってみれば、中にも十枚以上挿絵が挟まれていて、期待を裏切らない。
もしかして、これ一冊じゃないのか?
本棚を探ってみれば、同じ系統の挿絵のついた本が、他にも何冊も出てくる。
しかも、どれもこれもかなり面白そう。
一体、お屋敷の誰が置いてくれたんだろう?
分からないけれど、これは嬉しい。非常に嬉しい。本当に、ただただ嬉しい。
昨日から今まで大変なこと尽くしだったけれど、ようやく癒しの時間がやって来た……。
この分だと、探せば漫画だって有るのかもしれない。期待を抱きながら、一冊ずつ本を調べていく。
「あれ」
すると途中で、奇妙なことに気が付いた。
よく見ると、棚に並んだ本の奥に、一冊の薄めの本が、横向きになって隠されている。
不思議に思いながら、周りの本を取り除いて、その本を引っ張り出してみる。
「………」
手元のその本を見て、俺は更に疑惑を強めていく。
一見すると、これもライトノベルに見える。
表紙に書かれている色んな種族の女の子たちが、何故か着物をギリギリまではだけさせている点や、全体的に装丁がピンク色っぽい点を除けば……。
……これは、絶対、ヤバいやつだ。勿論、18禁的な意味で。
こんなことやりそうな人は、どう考えても一人しかいない。
……御珠様の悪戯か? もしそうだとしても、訳が分からないのは同じ。
この表紙はただのダミーで、本当は開いた瞬間に発動する呪いの書とかだったりして……。
俺は怪しいところがないか、もう一度、じっと表紙を確かめてみた。
いや、違う。多分これ、本当にただのエロ本だ……。
何となくだけど、どうしようもないぐらいに、それ以外の気配がしない。
と、とにかく、俺は今17だ。こんないかがわしい本を堂々と読んで良い訳ではない。
たった1年の差とは言えど、大っぴらに読んだらマズいだろう、一応、建前として。
……いや、でも、それは元の世界だけの話で、この世界での年齢区分は違っているのかも知れない。
もしそうなら、別にちょっとぐらい見ても構わないよな。
そもそもここは部屋の中だ。今なら別に、他の誰かに見られている訳じゃないし……。
ばれなきゃ、全然大丈夫、大丈夫だよな。うん。
早まる鼓動を感じながら、俺は表紙に手をかけて、ゆっくりとめくろうとする。
その時。
ガラッ! と背後で、部屋のふすまが開く音。
「――っ!!」
完全なる不意打ちに、心臓が止まりそうになりながら、慌てて振り向いた。
だ、誰だ……?!
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