121 / 145
新章Ⅰ「忌み子と騎士のゆくところ」
27.鮮緑の瞳
しおりを挟む
アシャギの奏でる旋律はさざ波を思わせた。柔らかくうねりながら砂浜に手を伸ばしては、大きな力に引き戻される。『おいで』、『来て』、と呼ぶ音色につられて、心なしか外の波も高くなって見える。青くぼんやりと光る沖を、隣の揉み師が「魚の群れが光っているんです」と説明した。
「魚たちは、大きな月の真下でお見合いをします。……人間と同じですね」
「…………」
揉み師として客を口説いているのだ。ルカはそっと身をひき、拒否を示した。
もう一人の揉み師は、上裸でオリノコの肩を揉んでいた。たまに二人でこそこそ話しているのは、布団に行くかどうかの駆け引きをしているらしい。ルカは早く行ってほしかった。身の安全のためにも今夜は寝ない。女神への祈りを唱え、日の出を見る心づもりだった。
「はぁー、固いんだからな、もう」
オリノコがそう言った時は、てっきり肩のことかと思った。しかしゴキッと首を鳴らした彼はルカのほうを見ていた。
「真面目さは父親譲りか」
「…………」
「そうかぁ。考えてみれば、君の両親も狭い檻の中で結ばれたんだったね」
ルカは警戒して返事しなかったが、オリノコは独り言のように続けた。
「いや……違うな。あの二人は確固とした目的を持って檻へ入ったのだから」
「……どういう意味ですか」
「ん? あ、しまった。この話はナイショなんだった」
わざとらしく話をひっこめると、後ろ手に揉み師の体をさわり「ね、お布団でもっと下のほうを揉んでくれるかい?」などと言い出す。ルカは思わず追求した。
「なんなのですか、いったい」
「いやいや、僕は難しい話をしに来たんじゃないよー。美味い酒と極上のかわいこちゃんを楽しみに来たんだから……」
竪琴の音色がプツンととだえた。抱き寄せられたアシャギは「あら」と瞑目したままオリノコに頬ずりする。
「せんせ、ひどいわ。さっきは奏でてと言ったのに」
「あぁごめんよ。せっかく気持ちよく弾いていたのにね。でもこのお客さんは酒も色事も嫌なんだってさ。つまらないから一緒にお布団の部屋に行こうね」
「……私がお酒につきあえば、知っていることを教えてくれますか」
「うう~ん? ふふ……」
暗がりで若い娘の唇を吸うオリノコは、魂をむさぼる鬼のように見えた。ルカを向いてにっこりと笑うのがますます恐ろしい。
「じゃ、飲み比べといこうか。おじさんはこう見えて強いんだぞ~!」
ルカは嫌な予感がした。「ほどほどのところで諦めてくださいね」と先に言ったけれど、オリノコは聞いていなかったようだ。
数刻後、オリノコは一人で酔い潰れた。アシャギの膝に顔をうずめ、足をジタバタさせる。
「うぐぅーっ!! ずるい、ずるいって!」
「すみません……」
忌み子のルカは酒に酔わない。修道士として儀式で口にした際、明らかになった。ジェイルは『毒が効かないのはいいことだ』と納得していたが、ルカは複雑な思いだった。
「……私のような化け物を相手にお酒を飲むなど、つまらないことです。お酒がもったいない」
とはいえこれほど大量に飲んだことはなかった。酒精の分解が追いつかず、全身の感覚が遠い。オリノコの酔い方を見ると相当に強い酒のようだ。彼は軟体動物のようにグニャグニャしている。
「……いえ、私はもう結構ですから」
空いた盃に揉み師が酒を注ぐ。断ろうとするルカに、酔ったオリノコは「のみなさぁい!」と声高に主張した。
「勝ったのだから、なお飲むべきだ。うぅ~ん、ヒック……」
「オリノコ様……」
ルカは仕方なく、一息に盃を干した。水のようだと思っていたものが、急に苦く感じられる。
(なぜこんなものを飲みたがるのか……)
口を拭い、盲目のアシャギからオリノコを引き剥がす。自分のせいかと思うと見過ごせなかった。
「寝るなら顔は横に向けてください。嘔吐物を喉に詰まらせるおそれがあります」
「オッ? 酔った男に自分から近づいてくるのか君は? 無防備だなぁ~」
「私は修道士ですから、ッ!?」
襟を掴まれる。ルカは酔ったオリノコの力がこれほどとは思わなかった。
(違う。力が入らないのは私のほうだ)
ぐりん、と視界が反転する。ルカは寝技をかけられた。瞬きの間にオリノコが上に来る。彼は「はーっ……」と酒臭いため息をついた。
「料理は手をつけないし酒にも酔わないし、一体どうなることかと思ったが……よかったよかった。ようやく効いたみたいだ」
「あ……な、なに……」
目がかすむ。口が回らない。「戯れだよ」とオリノコは嗤った。
「なるほどね、君は想像以上に幼かった。ジェイル君よりも両親の話に隙を見せるとは」
「……!」
一服盛られた。
硬直するルカに、オリノコは「まだ意識がある?」と、困ったように首をかしげた。
「……それじゃ、仕方ない。君の聞きたがっていた両親の話をしてあげよう」
「せんせ、それは……」
「いいじゃないかアシャギ、この子には知る権利があるよ。なんといっても二人の愛と努力の結晶なのだから」
ルカは頭を動かせなかった。オリノコがアシャギを猫のように撫でている。
「ルカ、君のお父さんはね。緑の民を軍事運用できないかと考えていた」
難しい話をするつもりはないと言っていたオリノコの口の動きは、なめらかだった。
「君の生まれる前から、帝国の脅威は伝わっていたからね。緑の民の人ならざる身体能力。神秘に満ちた遺物の力。もしも制御できれば王国は盤石の守りを得る」
表情は固まっているのに、心はあっけなく動く。ルカの緑の瞳は潤んでいた。
「国民の理解さえ得られれば緑の騎士団なんてものも組織する気でいたんだ。……まぁ斬新すぎて誰もついていけなかったんだけど。その成果は奇跡的に残った」
オリノコは指でルカの涙をぬぐった。
「君だよ。ルカ」
ぬぐったものを気持ち悪そうに床になすりつける。
「君の両親が努力を積み重ねたおかげでジェイル君への処置も形になった。遺物による人体強化は今までも行われてきたが、戦闘特化にあれほど成功した例はない。愛だねえ、愛」
ルカはもう、意識を保てなかった。
オリノコは「さて」と三人の揉み師たちに指示を出した。
「アシャギはルカの頭の中を覗いてくれ。君は馬の準備だ。ひとり残った君には、仕方ない。奥で僕のことをタップリ揉みほぐしてもらおう!」
アシャギはむくれた。
「せんせったら。そのためにあたしを呼んだの?」
「いや、逆だよ。そのために君のもとへ来たんだ」
ふくらんだ頬を、つんつんと人差し指でつつく。
「ルカの頭の中にはまだ有益な情報がありそうだ。女王様に渡す前に、君の目でよーく見てもらわないと」
「…………」
一人の揉み師は馬の手配へ向かい、オリノコはもう一人と奥へ入った。残されたアシャギはルカの頭を膝に抱き「もうっ!」と怒った。
「……ごめんなさいね、修道士さん」
アシャギは開眼し、ルカの髪に手を当てた。暗闇の中で、彼女の盲いた瞳は鮮緑に輝いていた。
「魚たちは、大きな月の真下でお見合いをします。……人間と同じですね」
「…………」
揉み師として客を口説いているのだ。ルカはそっと身をひき、拒否を示した。
もう一人の揉み師は、上裸でオリノコの肩を揉んでいた。たまに二人でこそこそ話しているのは、布団に行くかどうかの駆け引きをしているらしい。ルカは早く行ってほしかった。身の安全のためにも今夜は寝ない。女神への祈りを唱え、日の出を見る心づもりだった。
「はぁー、固いんだからな、もう」
オリノコがそう言った時は、てっきり肩のことかと思った。しかしゴキッと首を鳴らした彼はルカのほうを見ていた。
「真面目さは父親譲りか」
「…………」
「そうかぁ。考えてみれば、君の両親も狭い檻の中で結ばれたんだったね」
ルカは警戒して返事しなかったが、オリノコは独り言のように続けた。
「いや……違うな。あの二人は確固とした目的を持って檻へ入ったのだから」
「……どういう意味ですか」
「ん? あ、しまった。この話はナイショなんだった」
わざとらしく話をひっこめると、後ろ手に揉み師の体をさわり「ね、お布団でもっと下のほうを揉んでくれるかい?」などと言い出す。ルカは思わず追求した。
「なんなのですか、いったい」
「いやいや、僕は難しい話をしに来たんじゃないよー。美味い酒と極上のかわいこちゃんを楽しみに来たんだから……」
竪琴の音色がプツンととだえた。抱き寄せられたアシャギは「あら」と瞑目したままオリノコに頬ずりする。
「せんせ、ひどいわ。さっきは奏でてと言ったのに」
「あぁごめんよ。せっかく気持ちよく弾いていたのにね。でもこのお客さんは酒も色事も嫌なんだってさ。つまらないから一緒にお布団の部屋に行こうね」
「……私がお酒につきあえば、知っていることを教えてくれますか」
「うう~ん? ふふ……」
暗がりで若い娘の唇を吸うオリノコは、魂をむさぼる鬼のように見えた。ルカを向いてにっこりと笑うのがますます恐ろしい。
「じゃ、飲み比べといこうか。おじさんはこう見えて強いんだぞ~!」
ルカは嫌な予感がした。「ほどほどのところで諦めてくださいね」と先に言ったけれど、オリノコは聞いていなかったようだ。
数刻後、オリノコは一人で酔い潰れた。アシャギの膝に顔をうずめ、足をジタバタさせる。
「うぐぅーっ!! ずるい、ずるいって!」
「すみません……」
忌み子のルカは酒に酔わない。修道士として儀式で口にした際、明らかになった。ジェイルは『毒が効かないのはいいことだ』と納得していたが、ルカは複雑な思いだった。
「……私のような化け物を相手にお酒を飲むなど、つまらないことです。お酒がもったいない」
とはいえこれほど大量に飲んだことはなかった。酒精の分解が追いつかず、全身の感覚が遠い。オリノコの酔い方を見ると相当に強い酒のようだ。彼は軟体動物のようにグニャグニャしている。
「……いえ、私はもう結構ですから」
空いた盃に揉み師が酒を注ぐ。断ろうとするルカに、酔ったオリノコは「のみなさぁい!」と声高に主張した。
「勝ったのだから、なお飲むべきだ。うぅ~ん、ヒック……」
「オリノコ様……」
ルカは仕方なく、一息に盃を干した。水のようだと思っていたものが、急に苦く感じられる。
(なぜこんなものを飲みたがるのか……)
口を拭い、盲目のアシャギからオリノコを引き剥がす。自分のせいかと思うと見過ごせなかった。
「寝るなら顔は横に向けてください。嘔吐物を喉に詰まらせるおそれがあります」
「オッ? 酔った男に自分から近づいてくるのか君は? 無防備だなぁ~」
「私は修道士ですから、ッ!?」
襟を掴まれる。ルカは酔ったオリノコの力がこれほどとは思わなかった。
(違う。力が入らないのは私のほうだ)
ぐりん、と視界が反転する。ルカは寝技をかけられた。瞬きの間にオリノコが上に来る。彼は「はーっ……」と酒臭いため息をついた。
「料理は手をつけないし酒にも酔わないし、一体どうなることかと思ったが……よかったよかった。ようやく効いたみたいだ」
「あ……な、なに……」
目がかすむ。口が回らない。「戯れだよ」とオリノコは嗤った。
「なるほどね、君は想像以上に幼かった。ジェイル君よりも両親の話に隙を見せるとは」
「……!」
一服盛られた。
硬直するルカに、オリノコは「まだ意識がある?」と、困ったように首をかしげた。
「……それじゃ、仕方ない。君の聞きたがっていた両親の話をしてあげよう」
「せんせ、それは……」
「いいじゃないかアシャギ、この子には知る権利があるよ。なんといっても二人の愛と努力の結晶なのだから」
ルカは頭を動かせなかった。オリノコがアシャギを猫のように撫でている。
「ルカ、君のお父さんはね。緑の民を軍事運用できないかと考えていた」
難しい話をするつもりはないと言っていたオリノコの口の動きは、なめらかだった。
「君の生まれる前から、帝国の脅威は伝わっていたからね。緑の民の人ならざる身体能力。神秘に満ちた遺物の力。もしも制御できれば王国は盤石の守りを得る」
表情は固まっているのに、心はあっけなく動く。ルカの緑の瞳は潤んでいた。
「国民の理解さえ得られれば緑の騎士団なんてものも組織する気でいたんだ。……まぁ斬新すぎて誰もついていけなかったんだけど。その成果は奇跡的に残った」
オリノコは指でルカの涙をぬぐった。
「君だよ。ルカ」
ぬぐったものを気持ち悪そうに床になすりつける。
「君の両親が努力を積み重ねたおかげでジェイル君への処置も形になった。遺物による人体強化は今までも行われてきたが、戦闘特化にあれほど成功した例はない。愛だねえ、愛」
ルカはもう、意識を保てなかった。
オリノコは「さて」と三人の揉み師たちに指示を出した。
「アシャギはルカの頭の中を覗いてくれ。君は馬の準備だ。ひとり残った君には、仕方ない。奥で僕のことをタップリ揉みほぐしてもらおう!」
アシャギはむくれた。
「せんせったら。そのためにあたしを呼んだの?」
「いや、逆だよ。そのために君のもとへ来たんだ」
ふくらんだ頬を、つんつんと人差し指でつつく。
「ルカの頭の中にはまだ有益な情報がありそうだ。女王様に渡す前に、君の目でよーく見てもらわないと」
「…………」
一人の揉み師は馬の手配へ向かい、オリノコはもう一人と奥へ入った。残されたアシャギはルカの頭を膝に抱き「もうっ!」と怒った。
「……ごめんなさいね、修道士さん」
アシャギは開眼し、ルカの髪に手を当てた。暗闇の中で、彼女の盲いた瞳は鮮緑に輝いていた。
24
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
番外編は思いついたら追加していく予定です。
<レジーナ公式サイト番外編>
「番外編 相変わらずな日常」
レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる