92 / 143
間章「ニャンヤンのお祭り」
39.埋火★
しおりを挟む
夢うつつに、ジェイルは髪を梳く女を見た。彼女は床に裸で座り、濡らした櫛を髪にあてている。
ジェイルは綺麗な川を見ているような気がした。せせらぎは岩目に沿ってゆるく流れ、青草と野花を養う。
蝋燭の火に照らされたルカの髪は、春の水のようにきらきら光っていた。
「あ……」
のっそりと起きたジェイルは、ルカの背中を抱いた。櫛が床に落ちる。
「いけません……まだ……」
「いいから来い」
思った通り、ルカの肌は冷えていた。狭い部屋だ。寝台で休むジェイルに気を遣ったらしい。
ジェイルはルカを寝台へ引き込んだ。腕の中にとじこめ、こめかみに唇をつけると、ルカの肩から力が抜ける。ぬくもりは、ジェイルの肌からルカの肌へうつった。かえって熱くなりすぎたようで、ルカは頬を赤くしている。
唇と唇が触れる。互いに誘い合うように舌が蠢く。
「ん……っ」
埋火が白い灰の中で色づくように、ルカの肌は熱を持つ。ジェイルの唇が触れたところから火が点いて、真っ赤に燃え上がる。耳を噛むジェイルの声には苛立ちがこもっていた。
「外はまだ暗いのに、どうして俺の腕の中から脱け出すんだ、おまえは」
「で、でも……」
「おまえは俺のものだろう」
ジェイルは早口に命令した。
「俺のものが俺より早く起きるな。勝手に身なりを整えるな」
「そんな」
有無を言わせず、ルカの胴をぎゅうっと締め上げる。先に起きて身ぎれいにしているところを見ると、どこかに置いて行かれそうな焦りを覚えるのだ。
「……からだはもう清めたか」
「は、はい」
「ケツの中も?」
「……!」
「まだだな」
容赦なく壁際に追い詰められたルカは「自分でできます!」と主張する。ジェイルは「バカか」と一蹴した。
「俺は自分で汚したものは自分で片づける主義だ。大人しく後ろを向け」
「でも、これは私の体です……!」
「黙れ。おまえは腹を下したいのか。俺が寝てる隙に何をちんたら髪なんか梳いてやがる。順序ってものがまるでなってない。これだからお坊ちゃんは」
おかげで本当に女みたいに見えた、と言いたくなるのを、ジェイルは詰ることで耐えていた。邪な欲望に狂っている時ならともかく、素面でそれを言ったら宗教者のルカがどう反応するか、ジェイルにははっきりとわかっていた。『やはりあなたは女性と結ばれるべきです!』などと抜かすに違いない。
「ごめんなさい」
何も知らないルカは、悲しそうに謝った。
「あなたが起きた時、お目汚しになると思っただけなのです」
「あぁ?」
「……あなたは私の髪を褒めてくださるから、ちゃんとしておきたかったのです。……お尻のことは……その……お情けをいただいた証と思っていました。ごめんなさい、いつまでも処理せずグズグズとして」
「おなさけ」
ジェイルは耳に入ってきた言葉を処理しきれずに繰り返しただけだが、ルカは怒られていると思うらしい。
「ごめんなさい」
眉尻を下げて謝ったうえ壁に手をついて、ジェイルに尻を差し出した。お願いします、とかすれた声で告げられ、ジェイルは頭がカッと熱くなった。
「……つまり、俺の前で綺麗でいようと、腕の中から脱け出してコソコソ身づくろいしてたってわけか?」
「あんっ……」
「ふうん! 尻を撫でただけでみっともない声を出すのに、今さらなにを取り繕ってんだか……!」
「ごめんなさ、あ、ううっ」
尻たぶを開かれたルカは、額を壁にこすりつけた。肩や背中が小刻みに震えている。ジェイルが大量に放った精液は、掻き出さずともタラタラと垂れた。くぐもった声を漏らしながら後穴から白い残滓を漏らすさまは、あまりにも卑猥だった。
「何がお情けだ……自分の腹の中に、俺の種を取っておきたいだけのくせに……」
「んっ……ん、んっ」
「おい、なんとか言え。そうなんだろうが。違うのか」
「あぁあ、ごぇんなひゃいい……!」
謝るばかりのルカにジェイルはいっそう苛立った。腹立ちまぎれに、下腹部を手のひらでグッと押す。
「んぇあああっ」
ルカは突き出した腰をぶるぶると震わせた。
後穴から固くこごった精液がボタボタと垂れてくる。ルカはそれを、頭を振って嫌がった。
「あぁっ、あっ、もえう、もれちゃうぅ……! やら、やらぁあ……」
「出したくないんだな、ほら、早く認めろよ……おまえはまだ俺の子種を抱いてたいんだろうがっ」
「んん、うんっ、うんんっ」
肯定なのか否定なのか、そもそも喘ぎと何が違うのかも不明な声だった。
それでも、ジェイルは興奮した。ルカが、女神よりも自分の思いを受け入れたような気がした。
ゆるんだ唇をそのままうなじに触れさせる。甘い香りのする首筋を噛むと、ルカの鼓動が唇に伝わってきた。
それからジェイルは、ルカのへその下をゆっくりと撫でまわした。優しい刺激に小ぶりな男性器は勃ちあがろうとしては力をなくし、なくしてはまた勃ち上がろうとする。
「……扱いてやろうか」
その惨めな有様を見下ろし、ジェイルはそう尋ねた。ルカの肩がびくっと震える。
「腹をさすられるのと、性器を扱かれるのと、どっちがいい」
「あぁあん」
右手は尻に触れている。行き場に迷う左手に、ルカは荒い息を吹きかけていた。
「ああ、お、お腹……っさすってください……」
「へえ、いいのか? 別に俺に気を遣う必要はないんだぞ。おまえだって男なんだから、こっちのほうが気持ちいいんだろう」
「あぁっ! やぁんん……!」
目の前で扱く真似をしてみると、ルカは目を閉じてブンブンと首を振る。
「あん……っ」
実際、腹に手を当ててさすると、ルカはとても嬉しそうな声を出した。同時に後穴を掻き出すと、見開いた目の中で無数の星が砕け散り、涙となってあふれる。
「……本当に可愛いな、おまえは」
ジェイルは、息も忘れてその一挙一動に見入った。後始末を終えると、ルカを壁に縫い留めて口づけの雨を降らせる。ジェイルの影の中に入ったルカは、ふりむいて彼の首に腕を回した。
何度もジェイルと口づけあいながら、その時、ルカの指先は天上に向いていた。「いつかこの旅が終わったら」と呟き、またすぐに「もしもこの旅が終わっても」と、いっそう切ない声で言い換える。
その先に続く言葉がなんなのか、神を信じないジェイルはとうとう聞き取ることができなかった。
◆◆◆
「おはようございます。昨夜はお楽しみでしたか? ルカ様、ジェイル様」
翌朝、宿屋の前で二人を待ち受けていたのは、アガタだった。
顔に張りつけたような笑みを浮かべ、背後にずらりと部下たちを整列させている。彼らのうちにひとりとして無傷の者はない。騎士たちはぎろりと二人を睨み据えていた。
「お迎えにあがりました。さあ、私たちとともにベルマイン様のもとへ参りましょう!」
ジェイルは綺麗な川を見ているような気がした。せせらぎは岩目に沿ってゆるく流れ、青草と野花を養う。
蝋燭の火に照らされたルカの髪は、春の水のようにきらきら光っていた。
「あ……」
のっそりと起きたジェイルは、ルカの背中を抱いた。櫛が床に落ちる。
「いけません……まだ……」
「いいから来い」
思った通り、ルカの肌は冷えていた。狭い部屋だ。寝台で休むジェイルに気を遣ったらしい。
ジェイルはルカを寝台へ引き込んだ。腕の中にとじこめ、こめかみに唇をつけると、ルカの肩から力が抜ける。ぬくもりは、ジェイルの肌からルカの肌へうつった。かえって熱くなりすぎたようで、ルカは頬を赤くしている。
唇と唇が触れる。互いに誘い合うように舌が蠢く。
「ん……っ」
埋火が白い灰の中で色づくように、ルカの肌は熱を持つ。ジェイルの唇が触れたところから火が点いて、真っ赤に燃え上がる。耳を噛むジェイルの声には苛立ちがこもっていた。
「外はまだ暗いのに、どうして俺の腕の中から脱け出すんだ、おまえは」
「で、でも……」
「おまえは俺のものだろう」
ジェイルは早口に命令した。
「俺のものが俺より早く起きるな。勝手に身なりを整えるな」
「そんな」
有無を言わせず、ルカの胴をぎゅうっと締め上げる。先に起きて身ぎれいにしているところを見ると、どこかに置いて行かれそうな焦りを覚えるのだ。
「……からだはもう清めたか」
「は、はい」
「ケツの中も?」
「……!」
「まだだな」
容赦なく壁際に追い詰められたルカは「自分でできます!」と主張する。ジェイルは「バカか」と一蹴した。
「俺は自分で汚したものは自分で片づける主義だ。大人しく後ろを向け」
「でも、これは私の体です……!」
「黙れ。おまえは腹を下したいのか。俺が寝てる隙に何をちんたら髪なんか梳いてやがる。順序ってものがまるでなってない。これだからお坊ちゃんは」
おかげで本当に女みたいに見えた、と言いたくなるのを、ジェイルは詰ることで耐えていた。邪な欲望に狂っている時ならともかく、素面でそれを言ったら宗教者のルカがどう反応するか、ジェイルにははっきりとわかっていた。『やはりあなたは女性と結ばれるべきです!』などと抜かすに違いない。
「ごめんなさい」
何も知らないルカは、悲しそうに謝った。
「あなたが起きた時、お目汚しになると思っただけなのです」
「あぁ?」
「……あなたは私の髪を褒めてくださるから、ちゃんとしておきたかったのです。……お尻のことは……その……お情けをいただいた証と思っていました。ごめんなさい、いつまでも処理せずグズグズとして」
「おなさけ」
ジェイルは耳に入ってきた言葉を処理しきれずに繰り返しただけだが、ルカは怒られていると思うらしい。
「ごめんなさい」
眉尻を下げて謝ったうえ壁に手をついて、ジェイルに尻を差し出した。お願いします、とかすれた声で告げられ、ジェイルは頭がカッと熱くなった。
「……つまり、俺の前で綺麗でいようと、腕の中から脱け出してコソコソ身づくろいしてたってわけか?」
「あんっ……」
「ふうん! 尻を撫でただけでみっともない声を出すのに、今さらなにを取り繕ってんだか……!」
「ごめんなさ、あ、ううっ」
尻たぶを開かれたルカは、額を壁にこすりつけた。肩や背中が小刻みに震えている。ジェイルが大量に放った精液は、掻き出さずともタラタラと垂れた。くぐもった声を漏らしながら後穴から白い残滓を漏らすさまは、あまりにも卑猥だった。
「何がお情けだ……自分の腹の中に、俺の種を取っておきたいだけのくせに……」
「んっ……ん、んっ」
「おい、なんとか言え。そうなんだろうが。違うのか」
「あぁあ、ごぇんなひゃいい……!」
謝るばかりのルカにジェイルはいっそう苛立った。腹立ちまぎれに、下腹部を手のひらでグッと押す。
「んぇあああっ」
ルカは突き出した腰をぶるぶると震わせた。
後穴から固くこごった精液がボタボタと垂れてくる。ルカはそれを、頭を振って嫌がった。
「あぁっ、あっ、もえう、もれちゃうぅ……! やら、やらぁあ……」
「出したくないんだな、ほら、早く認めろよ……おまえはまだ俺の子種を抱いてたいんだろうがっ」
「んん、うんっ、うんんっ」
肯定なのか否定なのか、そもそも喘ぎと何が違うのかも不明な声だった。
それでも、ジェイルは興奮した。ルカが、女神よりも自分の思いを受け入れたような気がした。
ゆるんだ唇をそのままうなじに触れさせる。甘い香りのする首筋を噛むと、ルカの鼓動が唇に伝わってきた。
それからジェイルは、ルカのへその下をゆっくりと撫でまわした。優しい刺激に小ぶりな男性器は勃ちあがろうとしては力をなくし、なくしてはまた勃ち上がろうとする。
「……扱いてやろうか」
その惨めな有様を見下ろし、ジェイルはそう尋ねた。ルカの肩がびくっと震える。
「腹をさすられるのと、性器を扱かれるのと、どっちがいい」
「あぁあん」
右手は尻に触れている。行き場に迷う左手に、ルカは荒い息を吹きかけていた。
「ああ、お、お腹……っさすってください……」
「へえ、いいのか? 別に俺に気を遣う必要はないんだぞ。おまえだって男なんだから、こっちのほうが気持ちいいんだろう」
「あぁっ! やぁんん……!」
目の前で扱く真似をしてみると、ルカは目を閉じてブンブンと首を振る。
「あん……っ」
実際、腹に手を当ててさすると、ルカはとても嬉しそうな声を出した。同時に後穴を掻き出すと、見開いた目の中で無数の星が砕け散り、涙となってあふれる。
「……本当に可愛いな、おまえは」
ジェイルは、息も忘れてその一挙一動に見入った。後始末を終えると、ルカを壁に縫い留めて口づけの雨を降らせる。ジェイルの影の中に入ったルカは、ふりむいて彼の首に腕を回した。
何度もジェイルと口づけあいながら、その時、ルカの指先は天上に向いていた。「いつかこの旅が終わったら」と呟き、またすぐに「もしもこの旅が終わっても」と、いっそう切ない声で言い換える。
その先に続く言葉がなんなのか、神を信じないジェイルはとうとう聞き取ることができなかった。
◆◆◆
「おはようございます。昨夜はお楽しみでしたか? ルカ様、ジェイル様」
翌朝、宿屋の前で二人を待ち受けていたのは、アガタだった。
顔に張りつけたような笑みを浮かべ、背後にずらりと部下たちを整列させている。彼らのうちにひとりとして無傷の者はない。騎士たちはぎろりと二人を睨み据えていた。
「お迎えにあがりました。さあ、私たちとともにベルマイン様のもとへ参りましょう!」
58
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~
北きつね
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれた”おっさん”は、すぐにステータスを偽装した。
ろくでもない目的で、勇者召喚をしたのだと考えたからだ。
一緒に召喚された、女子高校生と城を抜け出して、王都を脱出する方法を考える。
ダメだ大人と、理不尽ないじめを受けていた女子高校生は、巻き込まれた勇者召喚で知り合った。二人と名字と名前を持つ猫(聖獣)とのスローライフは、いろいろな人を巻き込んでにぎやかになっていく。
おっさんは、日本に居た時と同じ仕事を行い始める。
女子高校生は、隠したスキルを使って、おっさんの仕事を手伝う(手伝っているつもり)。
注)作者が楽しむ為に書いています。
誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめて行います。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる