忌み子と騎士のいるところ

春Q

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間章「ニャンヤンのお祭り」

36.底なし★

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 一人部屋の寝台は小さかった。ピンと張られたシーツが画布のように白くて固い。

 ルカはそこに、生まれたままの姿で座っていた。いや、正確には裸ではない。頭には黒い猫の耳を、ほっそりとした腰には黒い尾の付いた帯を締めている。どちらもジェイルが使っていたものだ。

 恥ずかしそうに身を縮めるルカを、ジェイルがドアにもたれて見下ろしていた。

 部屋は狭い。前に泊まった二人部屋は別の客で埋まっていたのだ。ジェイルは『きっと焼け出された十二人の騎士たちが部屋をとっているんだろう』と言った。歓楽街で起こった騒ぎは祭りの喧騒に飲み込まれてしまったようだ。帰ってくるはずもない客に部屋を取られて、ジェイルとルカはこの一人部屋を与えられたのだった。

「似合うな」

「……こ、こんな変な色の猫はいません……!」

「そうか? よくいるだろう。耳と尾だけが黒い白猫」

 ルカは揉み屋の太ったブチ猫を思い出して、ますます赤くなった。ジェイルも同じ猫を思い浮かべているようだ。「確か、このへんに黒いブチがあったな」と言って背中に触れてくる。

「あ……」

 その手の熱さに、ルカは震えた。

「ふ、寒いか? 裸に剥かれて」

「う……う……」

 背骨にそって撫で上げられると、ルカはゆるく首を振ることしかできない。噛みしめた唇が震えていた。ジェイルが片眉を上げる。

「なぜ声を殺している? この宿には俺とおまえしかいない」

 ジェイルの言葉は正しかった。騎士たちはアガタともども歓楽街に囚われており、宿の主人は屋台仕事に追われている。だが、そういう問題ではなかった。

「聖なるお祭りの日に、せっかくの仮装を、こんな……」

「忘れさせてほしいんじゃなかったのか」

 ルカは剥き出しの肩を震わせた。ジェイルが「よそ見してないで俺を見ろ」と言う。彼は、再びドアに背中を預けて腕を組んでいた。ひどく悪い笑みを浮かべた、と思うとがらりと真顔になる。

「そのままだ。そのまま、自分で自分を慰めてみろ」

「えっ……!」

「目を逸らすな。俺はおまえを見ている。おまえも俺だけ見てればいい」

「っ……」

 ルカは拒めなかった。逃げ場をふさがれているから。ただそれだけではない。

(ジェイル様と見つめあいながら自分で性器を弄ぶなんて、そんな……そんな、淫らなこと……)

 そんな淫らなことをしたら、ルカは頭が変になってしまうに違いない。案の定、言葉だけでもう勃起している。このうえジェイルの視線に辱められたら。

「何をもじもじしてんだ。早くしろ」

「はっ……はい……っ」

 なしくずしに開始になる。ルカは小ぶりな性器に指を絡める。くちゅっ、と濡れた音が立つ。

「う……」

「おまえのそこは、今どうなってる」

「……っ、ぬ、濡れて……ます……」

「はっ。ガキが怖くて小便を漏らしたのか」

「やだっ、違うぅっ、ちがいます……っ、おしっこじゃない……っ」

「じゃあなんだ、それは。どうしてそんなに濡れてんだよ」

「……!」

 あげつらわれて嫌なはずなのに、ルカは性器を上下にしごく手を止められなかった。

 前のめりになりかけたが下を向くことは許されない。いつしか痴態を見せつけるような膝立ちになった。隠すもののない腿の間から、水音はぐちゅぐちゅと立った。

「わ、私の性器は、性の快楽を得て……っ、先走りを垂らしているからっ、濡れています……っ」

「セイのカイラクときたか……」

 ジェイルが可笑しそうに復唱したせいで、ルカの頭のねじはギュンとゆるんだ。見られている。小ぶりな性器を必死にしごいているところを。嘲られている。修道士が恥も外聞もなく自涜に耽っているから。

 どうして意地悪にされて、こんなに感じてしまうのだろう?

「あぁ、あ、ジェイル様……ジェイル様ぁ……!」

「耳と尻尾が、揺れてるぞ」

「んぁあっ」

 ジェイルの言葉に、ルカは彼の目に映る自分を思った。裸で、猫の耳と尾を付け、寝台に膝立ちして、男性器をしごきあげているのだ。恥ずかしい。恥ずかしくて気持ちいい。ジェイルの眼差しが熱くて、溶けてしまう。

 ルカはジェイルに顔を向けたまま、白い裸身をぶるぶると左右に揺すった。

「やん、やらぁ、これ、やら、やぁんんっ」

「声がイく時の声になってきたな。知っているか? ルカ」

 ジェイルはにこやかに近づいてきた。

「おまえがこうなった時、俺はいつも口で口をふさいでやっているんだ。可愛い甘え声を俺以外の誰も聞かないように」

「あぁっ、あっ」

 おぼえていた。ジェイルがいつも口づけて、ルカを射精に導いてくれる。そしてルカが生ぬるい精液を漏らすと、『上手に射精できたな』と褒めてくれるのだ。それも、たくさん出せば出すほど。

 だからルカは、今日もそれをしてもらえるのだと思った。(して、して)と、唇を差し出して、舌を見せる。口づけと同時に射精するために、手のしごきかたは甘かった。無意識に腰をくねらせると、黒い尾がぺしぺしと尻たぶを叩く。

「射精しそうか? ルカ」

「はい……はい、ジェイル様、ジェイルさまぁ」

「イくのか。イきそうなんだな」

「うん、ん、あぁっごめんなさい、ごめんなさい、も、イく、イっちゃう、あ、あ」

「性器から手を放せ」

「!?」

 優しい囁き方と、言葉の意味は真逆だった。絶頂の寸前でハシゴを外すようなことを言われて、ルカは呆然とする。だが「どうした、俺の言うことが聞けないか」と、言われると、従わざるを得なかった。

「あぁ……あ、あ……っ」

 からだの中に行き場のない熱が溜まって、気がどうかしそうだ。ルカはふにゃっと尻もちをついてしまう。

 だが、ジェイルの言葉は非情だった。

「どこを向いてんだ」

「あ……っ」

 まだ続いているのだ。ルカはぞくぞくしながら顎を上げてジェイルを見る。彼の黒い瞳は、夜の水面のように揺れていた。ルカは見つめられるだけで溺れそうになる。この底知れぬ、深い愛に。
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