忌み子と騎士のいるところ

春Q

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Ⅶ 祈り

7.駆け落ち★

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 馬に鞭を当てて街道沿いを走り、日も暮れかかった頃、ジェイルはやっと馬を休ませた。

 久しぶりに半日も馬に揺られて、ルカはすっかり疲れ果てた。

 尻と内腿が痺れてしまい、ろくに歩けないほどだ。

 ジェイルは鎧がないぶん疲労が少ないらしい。馬の胴に縋るルカをしばらく眺めていたが「なんなんだおまえは」と言って、パンと腰をはたいた。

「ひっ……」

「そんなふうに尻を突き出して、俺を誘ってんのか?」

 言いがかりもいいところだ。

「ち、違う、違います」

「うるさい。尻を向けたまま喋るな」

「だって……!」

 立っているのもやっとなのだ。否定も空しく、ジェイルはルカを再び抱き上げてしまった。

「顔を上げるなよ」

 ジェイルの声は真剣だった。ルカは彼の肩に向かって顔を伏せる。片手にルカを抱き、もう片手に馬を引いて、ジェイルはさくさくと土を踏んで歩いた。灯りのともった道には、ほかにも人通りがあった。

 じっと顔を伏せていても、人々が交わす言葉はわかる。ルカは現在地が深紅領ジェミナに程近い宿場町であることを知った。聖都の話題がちらっと出ていたが、彼らの声に深刻な響きはない。戴冠式の様子はまだ知られていないようだった。

 ジェイルはルカを抱えたまま辺りを歩いていたが、やがて一軒の宿屋の前で立ち止まった。

 開きっぱなしの板戸に顔を突っ込んで「馬はどうすりゃいい」と宿の女主人に尋ねている。

「あら! お泊りですか、お兄さん。……お連れさんは具合が悪いの?」

「いや、恥ずかしがってるだけだ。いいとこのお嬢さんだから」

「!?」

 ルカは驚いたが、ジェイルに腰を締め上げられると何も言えなかった。

 若い女主人は「えーっ!」と両手で口を押さえている。

「え、それってもしかして、か、駆け落ち……」

「……聞かないでくれ。迷惑をかけたくない」

「きゃーっ……!」

 ジェイルの小芝居に、女主人は大喜びだった。ルカは震えることしかできない。隠密行動のための方便だとわかっていても、これでは本当にかどわかされてしまったかのようだ。

「じゃっ、目立たない部屋がいいわねっ、二階の奥へどうぞ!」

「ありがとよ。馬は?」

「裏の厩に繋いでいいよ。前金を払ってくれたら餌をやっとくけど」

「どうも」

 ジェイルは明らかに旅慣れていた。馬を繋いで戻ると、浮き足立った様子の女主人が部屋まで案内してくれる。

 目立たない、と女主人が言っていたとおり、こじんまりとした小さな部屋だった。

 イグナス領で泊まった宿より装飾が少ないが、窓辺に小さな野草が生けてあるのが可愛らしい。

 寝床は一つしかないが、毛布を敷いた長椅子があるところを見ると、いちおう二人部屋なのだろう。

「田舎料理でよければ用意できるけどね。食べてくかい?」

「いや、こっちで適当に済ませるから気にしないでくれ。連れと愛を確かめ合うのに、しばらく忙しいんだ」

「んまぁ~っ」

 女主人が上げる甲高い声が、ルカには耐えがたかった。彼女は部屋を出ていくとき、意味ありげに「ごゆっくり」とさえ言った。戸が閉まると、ジェイルは小さく息をついて、ルカをおろしてくれた。

「……」

 頭巾を脱いだルカは、茹であがったように赤くなっていた。

「ジェイル様……」

「なんだ」

「私は……お嬢さんではありません……」

「とやかく言うな。すんなり泊まれただろうが」

「ですが、これではジェイル様が本当に人さらいのようではありませんか」

「……あぁ?」

「女王陛下の命を受けた騎士様が、悪いもののように思われてしまうのは、良くないことです」

 ジェイルは沈黙した。

 ルカが「ジェイル様?」と首をかしげるのを素通りして、長椅子にどっかりと腰を下ろす。

 そのまま両手で顔を覆って動かない。やはり騎士としての心が責められているのだ、とルカは思った。ナタリアの仕掛けたことはいえ、ルカはまた自分の問題にジェイルを巻き込んでしまったのだ。

「ジェイル様……」

 ルカはジェイルを慰めようとした。

「だいじょうぶです。先ほどの女性の方には、私から説明します。身分を明かすわけにはいきませんが、転けて泣いているところを助けてくださったとか、そんなふうに言えば」

「うるせえ」

 あっ、という前にジェイルの両手が伸びてきて、ルカは彼に抱きこまれてしまった。

 馬に乗りどおしだった尻と腿が服にこすれて痛い。

「うるさい。本当にうるさい」

「あ、え、ジェイル様」

「俺がおまえをさらって何が悪い!」

 唐突な怒りに、ルカは目を丸くした。ジェイルはナタリアの密命によってここにいるのだ。盗賊が村娘にするようにルカをさらったわけではない。ずっとさらいたかったみたいに言うのは、変だ。

「……おまえは俺のものだと、いったい、何度言えば……!」

「あっ……ご、ごめんなさい、ジェイル様」

「謝るな。謝ったところで許さん」

 ジェイルは怒りながらルカの喉を吸った。吸い立てながら服を脱がし、ルカの素肌を暴いていく。

 ルカは慌てた。

「ちょっと、待って、待ってくださいジェイル様、だめです、まだ」

「嫌だ。もう待たない。今日という今日はわからせてやる」

 ルカは長椅子に引き倒されてしまった。

 つむじが肘置きにぶつかる鈍い音がしたが、ジェイルは止まってくれなかった。ルカの上衣をべろんと肘までまくりあげて両腕の自由を奪ってしまう。下をずりおろされそうになって、ルカは慌てて膝を閉じて抵抗した。

「だめです、汚いから、せめて体を拭かせてください」

「何が汚いだ。ずっと俺に清さを守らせていたくせに」

「いやぁっ」

 ルカは悲鳴を上げた。性器を戒める器具が外気に晒されてしまう。

「…………っ」

 器具は金属製で、局部の蒸れを軽減するために籠のような形状になっている。

 長期間の着用を前提としているため排せつや入浴が可能な構造だが、器具の性質上、どうしても性器をしっかりと清めることができない。

「……いけません。そんなふうに、まじまじと見ないでください」

 ジェイルに膝を割り開かれたルカは、腰をねじって、どうにか彼の視線を避けようとした。だがジェイルが未知の器具から目をそらすことはなかった。

「これは……痛くないのか……?」

「あっ……!」

 覗き込まれると熱い息がかかる。ルカはびくっびくっと腰を跳ねさせた。

 わずかな刺激で性感を得ようとするそこを、器具がぎりぎりと締め付ける。
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