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Ⅴ イグナス領
6.復讐の炎
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ルカが震えながら組んだ両手に、ギルダは嫋やかな手をそっと重ねた。
「ルカ様。どうかこれを持って聖都にご帰還ください。冷遇されてきたあなたにとって、これは撃たずに使える武器になります」
その言葉の意味することに、ルカは息を飲んだ。ギルダは畳みかけた。
「お願いします。コパは全てを理解した上であなたを送り出しました」
背負わされようとしているものの重みに、ルカは震えた。
コパの手駒にされたことに、ようやく気がついた。
今、ルカがここにいるのはナタリアが女王になるためだ。
そのためには誰かが古い王を追い落とさなければならない。ルカは震えて首を振った。
「で……できません、そんな……私のような忌み子が、そんな、恐れ多いことは……」
「ジェイルは、お役に立ちましたか?」
ルカはゾッとした。なぜコパはジェイルを匿ったのか。それを知るのがあまりに恐ろしい。
ギルダは艶然と微笑んでいる、
「テイスティスは惨いことをしました。誰よりも騎士であろうとする者に、自ら誇りを打ち砕かせたのです」
「ギルダ様、どうしようもなかったのです。テイスティス様も、ジェイル様も、私たちには何も選ぶことなど」
「どうしようもなかった、ですか?」
燃え上がるギルダの瞳に、ルカは射すくめられる。
この美しい女性を今日まで倒れさせずにいたのは、彼女の心を燃やす復讐の炎に違いない。
ギルダは、夫を殺されたのだ。
「……テイスティスの不始末は、現領主の私が処理すべきですわ。穢れた騎士が近くにいてはルカ様にもご迷惑でしょう。どうぞ私の元へお返しください」
「あ、あの方を……どうなさるおつもりですか」
ギルダは美しく微笑んだだけで、答えなかった。ルカは背筋を震わせる。
ジェイルは、人質だった。奪われたくなければ従えと言うのである。
彼はルカとは違う。傷つけられれば体に痕が残り、損なわれれば二度と元には戻らない。
「あの方は、とても優しい方です……女神様を信じられないほど、この世に絶望しておられます」
ルカの言葉に、ギルダはかたちの良い眉をぴくりと上げた。
何を言い出すのかと思っているのかもしれない。
「あなたもきっと、そうなのでしょう。ギルダ様」
世にあって、修道士でさえ、本当に神を信じているかどうか怪しいものだ。女神が世を正しく導いたことなど本当にあるだろうか。目には見えない。声が聞こえるわけでもない。愛する者をいとも簡単に奪っていく。
「どうか傷つけないでください。私はただの修道士です。女神様と人に仕える者が、なぜそのように恐ろしい計画を手伝えるでしょう」
「あの王を玉座に据えておくほうが、よほど害悪ですわ」
ルカは激しい汗と動悸がとまらなかった。ギルダは言った。
「あなたも虐げられてきたのでしょう。なぜ、許しておくのです」
「ルカ様。どうかこれを持って聖都にご帰還ください。冷遇されてきたあなたにとって、これは撃たずに使える武器になります」
その言葉の意味することに、ルカは息を飲んだ。ギルダは畳みかけた。
「お願いします。コパは全てを理解した上であなたを送り出しました」
背負わされようとしているものの重みに、ルカは震えた。
コパの手駒にされたことに、ようやく気がついた。
今、ルカがここにいるのはナタリアが女王になるためだ。
そのためには誰かが古い王を追い落とさなければならない。ルカは震えて首を振った。
「で……できません、そんな……私のような忌み子が、そんな、恐れ多いことは……」
「ジェイルは、お役に立ちましたか?」
ルカはゾッとした。なぜコパはジェイルを匿ったのか。それを知るのがあまりに恐ろしい。
ギルダは艶然と微笑んでいる、
「テイスティスは惨いことをしました。誰よりも騎士であろうとする者に、自ら誇りを打ち砕かせたのです」
「ギルダ様、どうしようもなかったのです。テイスティス様も、ジェイル様も、私たちには何も選ぶことなど」
「どうしようもなかった、ですか?」
燃え上がるギルダの瞳に、ルカは射すくめられる。
この美しい女性を今日まで倒れさせずにいたのは、彼女の心を燃やす復讐の炎に違いない。
ギルダは、夫を殺されたのだ。
「……テイスティスの不始末は、現領主の私が処理すべきですわ。穢れた騎士が近くにいてはルカ様にもご迷惑でしょう。どうぞ私の元へお返しください」
「あ、あの方を……どうなさるおつもりですか」
ギルダは美しく微笑んだだけで、答えなかった。ルカは背筋を震わせる。
ジェイルは、人質だった。奪われたくなければ従えと言うのである。
彼はルカとは違う。傷つけられれば体に痕が残り、損なわれれば二度と元には戻らない。
「あの方は、とても優しい方です……女神様を信じられないほど、この世に絶望しておられます」
ルカの言葉に、ギルダはかたちの良い眉をぴくりと上げた。
何を言い出すのかと思っているのかもしれない。
「あなたもきっと、そうなのでしょう。ギルダ様」
世にあって、修道士でさえ、本当に神を信じているかどうか怪しいものだ。女神が世を正しく導いたことなど本当にあるだろうか。目には見えない。声が聞こえるわけでもない。愛する者をいとも簡単に奪っていく。
「どうか傷つけないでください。私はただの修道士です。女神様と人に仕える者が、なぜそのように恐ろしい計画を手伝えるでしょう」
「あの王を玉座に据えておくほうが、よほど害悪ですわ」
ルカは激しい汗と動悸がとまらなかった。ギルダは言った。
「あなたも虐げられてきたのでしょう。なぜ、許しておくのです」
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