忌み子と騎士のいるところ

春Q

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Ⅳ 再会

3.甘い夜★

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 盥を運び、二人は藁のベッドに座った。背を向けあって着ているものを脱ぐ。

 竈の火にほんのり照らされた小屋は、薬草の清涼な香りに満たされていた。ルカは、夢の中にいるように感じた。近くを流れる川のせせらぎは、耳に心地よすぎた。

 互いの裸を見せ合うなんて、テントの中でもしたことがない。

 緊張に固くなったルカの背中を、ジェイルは後ろから優しく拭いてくれた。湯気が立つほど熱い布にうなじを包まれると、思わず息が漏れてしまうほど気持ちがいい。

「……おまえの体は、綺麗だな」

 優しい声にルカはぞくぞくと感じた。体を隠す長い髪は、今はない。ジェイルの前に、生まれたままの姿をさらけだしている。忌み子の気味悪い姿を褒めてくれた。『いれたい』と、今も思ってくれているのだろうか。本当に? どうしよう。このまま黙って背中を拭かれていてはいけない気がする。

「わ、私もお拭きします……!」

 慌てて振り向いたルカは、彼の大きな体に圧倒された。見事な筋肉だから。それだけではない。服を脱いだ彼は傷だらけだった。

 冬麗の戦で、彼は機動力を上げるため鎧もなしに単騎駆けしたのだ。一刻も早く、ルカのもとに戻るために。

「……怖いか?」

 ジェイルの問いかけにルカは首を振った。国境線を守るために負った傷が、怖いはずがない。ルカは盥に熱いお湯を足した。布を絞り直し、彼の上半身を丁寧に拭き清める。

「痛みますか?」

「もう塞がっている。……騎士はみんなこんなものだ。妙な気を使うな」

 そう言われた時、ルカは彼の肩を拭いていた。ジェイルの体の傷は深く、中にはえぐれたような痕さえあった。彼の瞳が、ぼんやりと暗闇をさまよう。

「本当は、テイスティスを殺した俺がここでこうしている方が、おかしいのだと思う」

 心の傷の方が、ずっと深い。ルカは手の中の布を盥に戻した。体を拭きあうより、肌と肌とで触れあいたかった。

 傷ついた彼の体を、ぎゅっと抱きしめる。

「それでも、あなたがここにいてくれて、私はとても幸福なのです。ジェイル様」

 二人にはそれぞれの負い目があった。ジェイルはテイスティスに、ルカは女神に罪悪感がある。

 こうして身を寄せ合うことが身勝手なように感じるのだ。だが、それがどんなに罪深いことだとしても、ルカはもう、女神の哀れみに縋るほかなかった。

 目を閉じて、腕に頬を預けるルカを、ジェイルは確かめるように触った。親指で唇をこすられると口が自然と緩んだ。やっと、ここに戻ってこられた、とルカは思う。

 離れてからずっと求めていた口づけは、溶けるように甘かった。

「はぁ……う……あん……」

 そこは声を潜めなくてはならない野営地ではなかった。ジェイルの舌に口の奥を探られ、ルカの喉は、はしたない声が漏れる。

 口の中が、ジェイルの唾液で泡立っていた。飲み込み切れず、唇のはしからこぼれたものを、ジェイルは音を立てて啜った。

「ふぁ……、んっ!」

 口づけながら、両手で胸を愛撫される。

「気持ちいいか、ルカ。ちゃんと言うんだ」

「あん……はぁ……気持ちいい、いい……」

 言葉にすると、自分で自分にまじないをかけるように体に熱が溜まっていく。ぴんと勃った乳首を、大きな手のひらで潰すようにされると、鼻から変な息が漏れてしまう。
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